||| plus alpha 新見新は極度の人嫌いで引きこもりだ。今は、ルームシェアマンション・櫂木荘の屋根裏に住んでいる。 普段、彼女が何をやっているかと言えば、主に学校側から出された課題と終ったら自主的に勉強、読書、十時と十五時には必ず差し入れられるスイーツを食べる、それだけだった。 あまり人と関わらない彼女が、無限に思える時間をそうしてつぶしていた。 ――人が寝入る丑三つ時。屋根裏部屋に明かりが灯っていた。中では新見が一人、机に向かいながら本を読んでいる。そこに――どこから現れたのか。新見の背から彼女を覗き込むようにして、一人の男性が現れた。ただ、明かりに反して男性の影は映らない。新見は男性が現れても動じず、本を閉じて後ろを向いた。 「……カイン、何の用だ」 『そろそろ寝なきゃダメだよ、アラタ』 「お前は寝なくて良いのか」 『ごらんのとおり、幽霊だからね』 男性――カインは微笑み、新見の手に触れようとして……通り抜けた。新見は「そうだった、そうだった。忘れていた。お前幽霊だったな!」と明快に言う。 『そこは忘れないでくれるかな……アラタは最初から怖がらなかったけど』 カインは苦笑して言う。そう――カインはこの櫂木荘201号室の幽霊である。いつの間にかここに居たと本人は語る。また、屋根裏の存在も昔から知っておりひょんなことから新見と知り合って、新見の良い話相手になっていた。 「幽霊なんて認識出来るか出来ないかの違いだろう。生身の人間でないだけ、それだけだ」『それは極論過ぎないかい』 「お前が幽霊でなければ、会話なんぞしていない。一番怖いのは生身の人間だ」 人間嫌いの彼女は、人間外だったら別にどうでも良かった。幽霊だろうが妖怪だろうが自分に害を与えなければ会話もするし、気にしなかった。 「大体……ここのマンションの管理人事態、犬耳が生えていたりする時点でお前を怖がる方が「びびり」と言うものだ」 『アラタは、小さくて可愛いのに肝が据わってるよ』 新見のバッサリとした言い方に、カインは苦笑いし頬をかく。そこで新見が読んでいた本が目に止まる。 『随分古い本だね……何の本?』 「ああ……「奇談全集・終」って本だ。狂った奇人ばかり載っている本」 『……アラタは顔に似合わないというか……いい年したジジイには今の時代の風潮は分からないけれど君の趣味は同年台よりも少し硬いように思うよ』 「そうだろうな。これは絶版本で、そこにある本棚の物は文学ばかりだし、ジジイみたいな趣味だ。でも、カインとは話が合うから良い」 少し嬉しそうに言う新見に、カインは微笑む。彼は新見を、硬い根は素直で良い子、だと思っていた。 『でも、アラタがそういう話が好きだとは意外だよ。人間は嫌いなんだろう?』 「……こういう醜悪とした話を読んでると落ち着くんだ」 『落ち着くって……怖いと思わないのかい?』 カインは珍しいものを見る目で新見を見る。新見は自嘲した笑みを浮かべる。 「人間が嫌いで一人を好んで生きているワタシも、人間で人の助けが無ければ生きていけない。――矛盾して破綻しているだろう?」 『そう言えなくもないけれど』 「……この話に出てくる奇人たちは矛盾して破綻した論理を相手に吹っかけて結果相手を狂わせてしまう話ばかりだ。ああ、こういう話もあれば……ワタシもワタシを認めて良いかもしれない、と一時だけ……安心する」 『アラタは……自分が嫌い?』 カインは新見の口振りから新見が自身を嫌っているように思えた。新見は、熱が入った口振りから覚めたように首を振る。 「いいや……眠れない夜はくだらないことばかり考えるんだ。つまらん話を聞かせたな、カイン」 『私でよければ、君の悩みを聞いてあげたいが……君はそう簡単に口にしないだろう』 カインは苦笑して言う。新見もそれにつられて笑った。そして、持っていた本を机の上に置きベッドに横になる。 『寝るの? それならおいとましようか』 「いや……カイン、なにか眠りにつけるような話してくれ」 『それは無茶ぶりって話……そうだな、この前唯が学校で起こした騒動とか』 「ん、それでいい。早く話せ」 新見のお話をねだるような態度にツキン、と頭が痛んだ。 【――と・・・さ…】 【――――!】 薄く映った子ども二人と――あれは誰だろう――? 「カイン?大丈夫か?頭痛いのか、幽霊も頭痛むのか!?」 新見はベッドから身体を起こし、カインの顔を覗き込む。心配そうな顔がまた誰かと重なりそうに、首を振る。 『……ああ、いや、なんでもないよ…なんだろうね、幻肢痛かな?』 「幻肢痛って……幽霊ってよくわからん……お前の存在は不思議だが」 『私にもよく分からないから割り切っているよ。アラタは気にしなくていい』 カインは無理やりいつもの微笑みを浮かべ、新見を寝かしつけようとする。 「そう……か。まあ、カインはカインだ。今日はもう、遠慮しておく」 『ああ……ごめんね』 「……今度は昼に来てくれよ」 『ん?どうして?』 「……茶を淹れるなら、昼の方がいいだろうが」 カインは、新見のムスッとした口調に照れが混じっているのに気付き、くすくすっと笑った。そして新見の右手を取り、軽くキスをして『お茶のお誘い嬉しく思います。必ず、今度は昼に馳せ参じます』と優雅に言って――瞬間、消えた。 「カインは英霊っぽいが……似合いすぎだろ……」 新見はぽかん、とキスされた自分の右手を見つめる。そして、人知れず嬉しそうに笑った。 「お茶の約束は絶対だぞ、カイン?」 ∴屋根裏に住む少女と伯爵幽霊の夜の密会 はい!!!カインさん勢いで書きました!何が書きたかったのか!新見先輩とカインさんです!ただそれだけ!いえい! わかる人はわかるちょいネタ挟んでみました。 屋根裏少女、次は誰と交流する!?(笑) 騎亜羅 Feb 16, 2014 21:55 browser-back please. |