【ぶきふたっ!】邂逅【市新】
2014/01/05 21:28



久崎颯馬が山月小虎を強引に連れ去ったあと、資料室には新見新と市来優哉が残された。泣き止んだ新見はいつも仕事をしている机の椅子に座り、市来も流れでその斜め前に座った。


不思議なカンジだ、と新見は改めて市来と向き合って思った。市来も新見と向き合って同じようなことを考え…眉を潜めた。




(不思議なカンジってどういうことだ)
(不思議なカンジッてどういうことだよォ)



新見は腕を組んで、なんだかよく分からないことになったと考える。


(なんで"コイツ"が"ココ"に来たんだ? "あれか"らまったく話してないのに…意味が分からない……ワタシも混乱して普通にキレたが)


一方、市来も項垂れてこの状況をどう捉えれば良いのか考えあぐねていた。


(どうするよォ? 嫌な予感が的中しちまッて助けたけどよォ…気まずいのは変わりねェんだよなァ……)



――市来と新見は生まれた頃から一緒の幼馴染みで、それは仲が良かった。だが、ある事件により市来が新見を避け始めた。その事件で市来が新見に対して負い目を持つようになったからだ。新見もまた、市来とは距離を置いた方が良いと考え……だから、二人は高校に入ってから話もしていない。


――市来は……あの頃から成長して新見と話がしたかった。でも、本人を前にすると上手く整理が出来ない。負い目が邪魔して何も言えなかった。


(俺、前は新見にどう接してたんだァ? どうしてさっきは優しい言葉をかけられたんだよォ……わかんねェ)


市来はぐるぐる巡る答えの出ない疑問で胸が苦しくなってきた。市来はこの"痛み"が嫌いだった。ギュッと心臓を鷲掴みにされるような"痛み"――それを感じたときは、考えるのを止めて逃げてしまう。


「……俺、帰るわァ」
「……」


市来は新見に一言そう言って椅子から立ち上がった。そうして"痛み"から逃げようとする。何度となく向かい合って挫折した。悪いのは自分で、逃げたのも自分で、今日も逃げる――このままで良いのか、なんて声が頭に響いて痛む胸を抉った。


(イイ、また来る。今日は、久崎と話さなきゃいけねェし……)

胸を抉る痛みに顔を顰め、新見の元を去ろうとした。


「……、」


しかし、市来はここで新見の気持ちを考えるべきだった。


新見だって市来とずっと話したかったと思っていたことを――……。



「バカ市来ッ!」


市来は俯きながら出入り口に向かっていると呼び止められた。自分の背中に暖かい温度。市来は、その温度に身体を強張らせた。


「……ッ?」


市来は自分に体当たりしてきた小さな身体を目を丸くして見る。


また、スゥッと大きく息を吸って吐き出されて言われたことに面を食らう。



「ケーキ屋に連れていけッッ!!」


「は、はァ?」



市来は、何言ってんだ、コイツ? と口元をひくつかせる。


「聞こえなかったのか? ケーキ屋に連れていけッ! と言っている。勿論、お前の奢りだからな! ワタシはビタ一文出さない!!」


新見は市来のYシャツをぎゅうっと掴みぐりぐりと頭を押し付けた。――顔の半分を覆う眼鏡は外していた。市来の前でアレはいらない。


(これを逃せば、コイツはもう"ここ"に来なくなる――そうしたら、胸くそ悪い。"あの事"はワタシだって悪いのに、なんでコイツだけ苦しまなきゃいけないんだ!!)


とにかく、新見は市来を引き留めようと必死だった。


「……ッ」


市来は新見にしがみつかれている状態。


懐かしい温度に、また胸が苦しくなる。――苦しい、でも嬉しい。何とも言えない気持ちが胸をしめ、泣きたくなった。


グッと拳を握りしめ、フッと力を抜いた。


――どうにでもなれよォ、もう。


市来はヤケクソ気味に振り向いて、新見に再度向き合った。


「…新見、ケーキ屋どこ行くゥ?」
「ッ!
駅前のとこ!!」
「チョコレートケーキがうめェ店だなァ」
「新作が出た! 久崎も誘って早く行くぞ!」


ケーキ! ケーキ! ケーキ!! …と騒ぐ新見に市来の笑みがこぼれた。


市来には珍しいふんわりと柔らかい笑みだった。



prev | next





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -