成原家の事件簿
2013/12/23 22:40


成原家と言えば、武道の総本山と名高い家柄。武道ならば古今東西の術を教え極められる。その分、本家まで教えを請う者の修行は厳しい。自分を磨く者は、本家近くの村に住み生活をする。そんな彼らは世捨て人と言っても良いだろう。そんなのは今の時代古いと廃れてしまうかと思えば――そんなことはない。

力を求める者はどの時代にも居る。しかも、ここで修行を積んで世のスターになった者はいるのだから、尚更。

近隣高校の柔道部や空手部がここぞって合宿はここで地獄の修行と言われる日々を過ごす。すると、一年坊主でもレギュラーになれると言われるのだからその凄まじさが窺える。

俺はその成原家で働いている使用人の下っぱ。成原家には祖父・親父・俺と三代仕えてきた。なんでも祖父は成原御大に拾われたとか。

成原本家は所有する小高い山の頂上にある。本家近くには修行者が作った村があり、俺たち使用人も住んでいる。学校とかは山の下だけど、ちゃんとバスも通ってる。(三時間に一本とかあり得ねぇけど)


都会では見えない透き通った青い空を仰ぐ。梅雨が明けてもう夏だ。新鮮な空気が心地好かった。

その日の昼から、山の麓の高校が合宿に来るとのお達しがあった。毎年近隣の高校生の合宿場として人気の成原家はこの時期大忙しだ。食事の準備、大部屋の掃除、若い奴等の洗濯などとにかく仕事はオーバーワークになる。

この時期は広い成原家に若い活気がみなぎる。俺はこの時期が好きだ。年が近い奴等に親近感が湧いたりするし(俺は今年19で最年少……友達は大体都会に出て行った。オヤジどもと話すのも楽しいけどな)この活気溢れる空気が好きだった。

言われた仕事をいつもより丁寧にこなし、青臭い高校生たちを迎えた。

この時――まさか台風の目が向かっているとは思いもしなかった。




その事件が起こったのは、次の日の朝方だった。

庭の掃除をしていると、道場の方が何やら騒がしいな…と思った。高校生たちがいるのだから当たり前か…と思ったがそれにしてはざわめいている気がする。

その日に限って妙に気になり、急いで庭掃除を終わらせ道場を覗いてみることにした。

…サボり? 少しバレねぇって!






「ムッカツクうううううう!! 僕が、小虎が!8組が協力して積み上げたものをかっさらっていきやがった!!あのクソ狸いいいい!!!!今度会ったら大っ嫌いで言ってやるうううううう!!」
「ご、がっ!?」

一言で言えば――道場は地獄だった。たった一人、道場の真ん中にて細身で小柄な柔道着を着た金髪が暴れていた。高校生に喧嘩を売ったのか、数人が襲いかかる。だが一瞬にして床にひれ伏した。武道を習ってない俺が分かることと言えば、舞踊のように拳や蹴りを繰り出したとしか言えない。


「鈴之助さまおやめ……ぶぐ!?」

止めようとした家の者(確か空手の師範)を問答無用で殴り飛ばし、眼光鋭く睨みつけた。


「僕のことを名前で呼ぶな……モノ潰すぞ」


キュゥ……身が縮んだ。師範の鼻が折れていたことで本気具合が分かり……みんなサッカーのPKヨロシク……大事なところを抑えた。




しばらく坊の荒れ具合を見ながら(千切っては投げ千切っては投げってこのことかと思った)、強いことは知っていたけれど「本当に素の姿」は初めて見たなと思った。

でもこんなに騒ぎになったら――と予想は大的中。



「何をしている」



道場に冷たくピンッと糸を張ったような声が響いた。


「あ……っ」


成原御大――成原宗十郎に涼やかな目に射ぬかれソイツの動きは止まった。

成原御大は静かな足取りでソイツに近づく。道場に居た師弟たちは、正座をし深々とお辞儀した。家では御大を一番敬わなければいけない。この人が家では一番偉いんだ。

「鈴之助、帰っていたのか」
「……」
「返事も出来ないのかこの腑抜け!!」

御大が声を張り上げると道場が揺れた。御大の声は竹刀で床を叩いたようなビシィッて音に似てる。芯が通っている声はすごい迫力で俺も思わず逃げ出したくなった。

静かになった坊っちゃんは暗く淀んだ目で御大と目を合わせていた。

「――それにこの家の主に挨拶が無いとは何事だ。貴様、都会で腐っていたのではあるまいな!遊び呆けおって……またくだらぬ騒動を起こしたと言うではないか。雪白が関わっていると聞いた。貴様まだあの忌々しい女狐と狸にたぶらかされているのか? あの学園も狸がやっているしな、そんな腑抜けた状態でこの家を――」


「っ…る……い」


「なんだと?」


公開羞恥プレイのような説教を遮り、坊っちゃんは叫んだ。


「うるさいんだよ!?……ッこのックソジイイ!!」



うわ、と思った時には綺麗な大外刈が決まっていた。


「家なんて継ぐ気ないわボケ老人!しわくちゃのヒモノ!あと口臭い!加齢臭する!クッサ!僕は僕の力で生きてるしお前なんかに頼らなくても生きていけるんだよ!?あとクッサ!バイバイ!もう二度とこの家には近づかないからぁ。成原家なんて潰れろ!カスゴミアホバーカ!!!」


彼は小学生のような罵詈雑言を吐き、蔑んだ目で床に転がった御大を一瞥して道場を立ち去った。

俺はついにキレたかと強かに生きていた坊・成原鈴之助の姿を道場の影から見ていた。






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