ぶきふたっ!市新「責め合う感情」
2013/12/23 22:24



――無防備なヤツ。
市来は膝の上で寝てしまった新見を見て思った。彼女は市来の胸板に身体を預け心地よさそうに寝息を立ている。その顔は安心しきった顔。誰一人として平等に見せる警戒心は一切ない。…バァカァ、と市来は口の中で呟く。
「オレが何したかァ、忘れてンじゃねェよォ……」
過去を新見がいくら許したって、市来が抱える新見に対しての罪悪感は消えない。あの日あの時の記憶は薄れない。むしろ、新見がどんどん距離を縮めていくたびに……胸にわき上がるのは歓喜と、怯え。
同じ過ちを繰り返したら……もう次はない。それが怖い。彼が未だに新見に対して積極的に触れ合おうとしたのはそう言った理由からだった。
ただ、新見は……そんな彼の気持ちを知らず「膝にのせろ」「だっこ」「おんぶ」と子どものようにワガママを繰り返す。
「……怖く、ねェのかよ……」
眉間にシワを寄せて絞り出すように呟く。自分の手を見る。喧嘩で出来た傷だらけの手。うちにある晴れないフラストレーションを刹那的に喧嘩を繰り返すことで発散してきた。逃げと知っても…持て余してしまうそれを晴らす方法が分からなくて。気付いた時には、他者を傷付けることでしか、胸に空いた穴を埋められなくなっていた。馬鹿馬鹿しい過去の懐疑に舌打ちをする。意外に大きな音がして膝で寝ている彼女が身動ぎする。
その動きに市来は死ぬほど驚く。胸板に身体を預けていたのに、膝の上で小さく丸まったからだ。それに、
「ん……ゆーや……」
「……っ」
寝惚けて名前を呼ばれた。久しく呼ばれていない名前に心臓がバクバクする。意識すると高い体温まで感じてしまい、誤魔化しにまた舌打ちをする。すると、寝言が聞こえてきた。
「……ばか……ワタシ…のチョコ……とるなばか…」
「は?」
どうやら新見は夢を見ているらしい。むにゃむにゃと何か言いながら幸せそうに顔を緩ませる。
「ゆーや……はんぶんこ……」
"優哉くん、新ちゃん、はんぶんこね"
よく親に言われていたこと。
「……チョコなんて甘ったりィ、馬鹿がァ。誰もとらねェよォ」
お前に全部やる。
チョコも、温もりも、自分だって、全部。
自分が与えられてるものなら全部。
「……ソレでお前が俺の側にいンならァ…」

市来は無意識に呟いた言葉にハッとし、手で口を抑える。
市来がずっと願って止まないこと。幼い頃からずっと、それしか考えていなかった。
――どうしたら新見はずっと自分の側に居てくれるのか……たがった時も、今一緒に居る瞬間ですら、彼は考えている。
「アハハハ……手に入れたくねェのに、手を伸ばしてェ…大した矛盾だァ」
彼は自分を嘲笑しながら、新見の髪を撫でる。手つきは優しく慈しむようだったが、窓の外に向けられた顔はどこか怯え悲しげだった。その顔は――この幸せが壊れませんように、と願うようだった。



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