Family
2013/11/13 09:56



とある家族の物語。

長男 永織 賢示(ながおり けんじ) 22歳
雑誌の専属モデル兼主夫。家の家事を引き受ける。はっきり言って人間が苦手。引きこもって、ともやひめの服を作りたい。オネェ口調。

長女 永織 巴江(ながおり ともえ) 18歳
文武両道、良妻賢母、スタイル抜群、モデル並みに可愛いスーパーお姉ちゃん。
非の打ち所がない。性格も良い。

次女 永織 姫希(ながおり ひめき) 15歳
容姿がすぐれているわけでも、勉強が出来るわけでもない普通の女の子。名前がコンプレックス。兄と姉とは似てない。少し、自分が二人と違うことを引きずっている。

保護者 笹舟 周二(ささぶね しゅうじ) 40歳
三人の叔父。三人を引き取った。A大学の文学教授。インテリ眼鏡。寡黙。これまたイケメン。不器用で、口下手で、それでいて頑張って三人の面倒を見ている。


12年前
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「ねぇ、ねぇ! メンズ『man.man』買った!? 見てぇー!」
「あぁっ! ケンジっ表紙じゃん! マジカッコいい……!」

女子高校生たちが、雑誌を片手にキャーキャー騒ぐ本屋を尻目に、足早にその前を立ち去る。ああ、今日だっけ雑誌……なんて考えながら、「特売に急がないと」と更に足を急がせた。中学制服姿の私は、きっと主婦が大勢居るスーパーでは少し、目立つだろう。そんなの慣れっこだ。

「……一つ、88円の卵を逃すわけにはいかない。お姉ちゃんに怒られる」



そのスーパーでも、メンズ『man.man』を見つけて「……これが、ねぇ?」とため息を吐いた。雑誌を戻し、住んでいる家に足を向けた。

自分が住んでいる地域を高級住宅地と気づいたのは、つい最近だ。当たり前にみんなこのくらいの家に住んでいると思っていた。そりゃ、デカイけど……部屋は余るくらいあるし、お風呂も二個くらいあるし、トイレは二階にもあるけど……これを言ったらすごくお金持ちだとクラス中から見られるようになったから、もう二度と言わないように気をつけようと誓った。


でも、私が少し世間知らずに育ったのは……。


「ただいま」
「お帰り〜姫ちゃん!」

リビングを開けて、すぐ駆け寄って来たお兄ちゃんは私を抱き締めて頬ずりする。

「お兄ちゃん、ハグは良いよ……頬ずりも良いよ……熱烈過ぎ」
「お兄ちゃんが、姫ちゃんをぎゅってしなきゃ落ち着かないわ」

身をクネらせながらにこにこと笑う、メンズ『man.man』の表紙をかざるくらいイケメンの兄――永織 賢示を見てはぁ、とため息をついた。

表紙では今秋流行りの格好していたのに、家じゃ上下ユニマルの上にフリルのエプロンをつけている。

それまで似合うのだから、イケメンってすごい。

どうして……「顔は」こんなにカッコいいのに、オネェ系でフリフリが好きなお兄ちゃんなんだろう。


「どうしたの?姫ちゃん?お兄ちゃんの顔に何かついてるかしら?」
「ううん、お兄ちゃんいつもカッコいいね」
「いやぁんもう! 誉めても何も出ないわよぉ! おやつあるから、手洗って来なさい、ね!」


はぁいと返事をし、台所で手を洗って特売の卵を冷蔵庫に入れる。するとちょうど、お姉ちゃんが先に帰ってきていたのか、下に降りてきた。

「お姉ちゃん」
「なんだ、びっくりした顔して?」
「早いね。部活は?」
「今日は、ねーよ。賢示、おやつ取っていくからな!」
「あら、ともちゃん勉強おわったの?紅茶淹れるから三人で食べましょ!」
「いーよ、一人で食うから!その口調きもちわりぃんだよ!!」
「またそんなこと言って……ともちゃんの反抗期……」

お姉ちゃん――永織巴江は、ちっと舌打ちして上に上がって行った。これまた、このお姉ちゃんは、綺麗な顔をしている。美人で、文武両道で、二年生で高校の生徒会長まで努めるすごいお姉ちゃんだ。口は悪いけど、優しいお姉ちゃんは、最近はお兄ちゃんの口調を嫌うようになった。

「お姉ちゃん、最近…お兄ちゃんに冷たいね」
「そうなの〜! やっぱり、フリフリの服をタンスに入れたのが悪かったかしら? 今度はあの子が好きそうな服、作ってあげましょ」
「うーん、そっとして置いた方が良いんじゃない?」
「思春期ねぇ……いつか姫ちゃんも来ちゃうのね……」


寂しいわぁ、とお母さんみたいなことを言うお兄ちゃん。私、今、思春期真っ只中なんだけど、と心のなかで思った。



「ただいま。けん、とも、ひめ」
「お帰りなさい、お父さん」


夕食後にお父さんが帰ってきた。スーツをソファにかけ、座ったお父さんにビールを渡すのが私の仕事。

「はい」
「ん」

お父さんの仕事は、大学で文学の教授をしている。口下手で不器用なお父さんが沢山の人の前で講義をしているなんて信じられないけど。三児の父にしては、40と若いのがちょっと自慢だったりする。


「……ともは」
「寝ちゃった。最近、反抗期なんだって」
「……ついにともが……」


しょぼーん、としたお父さんの怖い物は子どもの反抗期らしい。どうやら、育児書を読んで怖くなったみたい。いつくるか、いつくるか、と怯えながら「ひめは」と聞く父は少し可愛い。


「私は、まだだよ」
「そか……ん」
「はい、どうぞ」


私に、反抗期なんて来ないかもしれない。こうやってお父さんの晩酌に付き合うのが、好きだから。ふふっと食器を洗いながら、お兄ちゃんがこっちを見てて「なごむわね〜もう!」と言う。

「けんも、どうだ」
「飲むわ!ひめちゃんはお風呂入って寝なさい」
「はぁい」

11時以降は大人の時間。子ども寝なさい、それが永織家のルールだった。



――これが私の家族。

モデルでオネェのお兄ちゃん。
スーパー完璧のお姉ちゃん。
不器用で口下手のお父さん。

そして、兄と姉とは似ても似つかない普通の中学二年生の私――永織 姫希(ながおり ひめき)。容姿普通、勉強は苦手、運動も得意じゃない、本とちょぴりお洒落が好きな普通の女の子。


名前負けしてるって思ったでしょ? 自分でも思う。




挫折……いつか中編で……



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