――その後の奴の行動は迅速かつ無慈悲だった
今まで暗殺を生業としてきた俺が言うのだから、きっと誰の目線からみてもそうなんだろう。
あいつは銀より少し濁った髪をはためかせて、その黒い大鎌を使い斬撃というより骨を粉砕させるといったに近い所作で相手を薙ぎ払っていく。
半狂乱化した相手が拳銃を乱射しても、命乞いをする奴がいても、まったく無関心で。
ただその場所を淘汰する為だけに作られた――人形のようだった。
「…胸糞わりぃ」
「アイツ、マジやベーよ」
もともと大きくもない屋敷内だったが、足元に転がる薬莢やナイフなどの武器とその使い手がただの無機質となって、さらに屋敷内をせまく見せていた
飛び散った血はほとんどなく、“暗殺”と言うにふさわしい殺り方だった
ボンゴレと同盟を組むほど大きな組織だったにもかかわらず、そのすべてを――否定した
まるで奴の悪名が上がった時の再現のようだった
一般人ならだれもが阿鼻叫喚するであろう地獄絵図の中に、同業者であるスクアーロとベルはただ立ち尽くすだけだった
「これ、監視とかヒツヨウなくね?アイツ一人で此処までの実力があるってことで終わりにすればいいじゃん」
「う゛ぉおい!!監視の本来の目的忘れてんじゃねぇだろうなァ!」
「うっせスクアーロ。分かってるっつの。ボスの役に立つかどうか…だろ?」
監視を付けたのは二つの理由がある。
一つは本当にザンザスの役に立つのかどうかの適性テスト。最初スクアーロとやった時は頭に血が上っていたことと室内だったこともあって、実際広い所で殺った時の本来の能力をはかるためだ。
そしてもう一つ。アイツに忠誠心なるものがあるかどうかというテストだ。…あの事件から奴の信用は地に堕ちたと言ってもいい。
つみあがった信用を落とすのはいつだって自分自身だ
あの“時”奴に何が起こったかなんて、正直どうでもいい。
ただ自分にとって使える存在かどうか、それがボスの出した結論だった
『……』
「う゛ぉおおい!!テメェおせえぞぉ!」
最後の一人を斃し背中に大鎌を背負うと玲夜はこちらに歩いてくる。血だまりがぐちゃっと粘着質な音を立てる
それにスクアーロが罵声を浴びせつつも、片手に持った白い紙の束を見た
「ナニソレ?」
『……奴ら、地下にラボ持っていたらしい』
「ラボだとぉ?」
『ん』
玲夜が片手に持っていた資料らしきものを、スクアーロに投げてよこす。
バサリと音をたてた資料らしきものは、スクアーロの腕の中にしっかりとおさまった。
投げてよこしたことにスクアーロは少し睨んでいたが、すぐに視線を渡されたそれに移す
それは此処の隠れ家の設計図らしいものだった。文章のほとんどが暗号化されていたが、地下の図面はしっかりと描かれていた
「そういえばなーんか人数が少ないような感じがしてたけど」
「う゛ぉおい、」
『………』
その図面は今の状況を覆す事が可能な戦力を持っていることも可能だった。さらに言ってしまえば、この隠れ家の10倍ほども大きい
玲夜が殺したのはほんの前哨戦程の戦力と考えていい
玲夜が入ったと同時にまずは緊急ブザーと暗視カメラ監視カメラの両方を死角から破壊した。
あれからだいぶったってもカメラが復旧しないのを考えると、相手はきっとなにかを察知して次の手を打ってきてもいいだろう
スクアーロは舌打ちをして腕に巻いた時計型無線機でヴァリアーに連絡を取った