初任務


ゴオン…と静寂の中に木霊する鐘の音。
都市部の丁度中央に位置する時計塔が、真夜中の時刻を指した。
その時計棟から少し離れたとある部屋の一室で、銀が揺らめいた。

「…午前2時…、丁度か…」

ジャッポーネでは俗に丑三つ時と呼ばれ、一番闇が濃くなる時間帯だ。
更に今夜は新月なのか、星も月も街のネオンの微々たる明かりを残して闇に包まれてた。

…こんな夜は一番仕事がしやすい。

部屋の隅で体育座りをしていた私は、闇の中片手にこの間(不本意だが)貰った黒の制服に袖を通した

今日の天候は新月、無風。私の能力を見せるには不足は無い。


―――さて、奴らに私の本領を発揮しようか。




▼初任務...







「う゛ぉおい!ザンザス!!アイツを任務に出すなんて正気かァ!?」

「ああ」



スクアーロは目の前のザンザスに対して、彼が足を掛けた机に思いっきり殴りつけるように片手を振りおろした。
その破裂音に一切反応する事無く、ザンザスは度の強いお酒を煽る。

その姿に米神に深い皺を作ったスクアーロは、ザンザスを睨みつけた。



「アイツの所業を知らないって言ってんじゃねェよなァ、ボスさんよォ…。アイツは」

「…アイツは“自分の組していた組織を壊滅させる”…とゆうことだろう。
ハッ、カス鮫…まさかあんな餓鬼に臆したんじゃねぇだろうな…」

「う゛ぉおおい!!!誰があんな餓鬼一人にビビるかァ!!」



スクアーロの心配事はそこだった。
紅人形には悪い噂しか聞かない。
例えば彼女についてこんな事も噂されたことがあった。


――紅人形がとあるファミリーに組した


という情報が出回った時があった。
必然的にそのファミリーは“紅人形”を警戒してか恐れられ、対等だったファミリーよりも機動力が上になった為に次々とファミリーを襲った。
そのファミリーは確かに悪行だけならトップを走る存在にまで成長した。

――しかし一ヶ月後、一瞬だが栄華を極めたそのファミリーは一気に没落した。



理由は、“紅人形”たった一人による大殺戮だった。



マフィアの名家を次々と襲い、兵も機動力も紅人形が居なくなっても十分事足りるぐらいの戦闘力を持ったにも関わらず、そのファミリーは消えたそして当事者である紅人形は少しの金品と武器庫にあった武器が2、3個盗み、その姿をくらませていた――。

しかし実際には紅人形一人で本当にそのファミリーを殲滅したかは、無理だと言う奴もいた。
協力者がいたのでは?という声も上がったが、実際の調べによるとその惨殺された人間の体の傷の形は、とある一人の者のみと言うことだった。


イコール彼女はその一晩でそのファミリーを全員の存在を否定したのだ。


紅人形に“あの事件”と聞けば、出てくる話はこれしかない


しかし、今の今まで従順に従ってきた紅人形が何故反旗を翻したかは、真相は闇の中――

…本人に聞く以外に。




「う゛ぉぉおい!殺すなら今のうちだァ…、こんな任務に行かせているうちにヴァリアーの奴らが何されんのかわかんねェだろうがぁ!!」

「……」

「う゛ぉぉおおい!!ザ…ガッシャン!!!

「うるせェカス鮫。酒がまずくなる」




そう言ってその後の催促を無視した。
奴を殺せと?アレは俺が気にいった玩具だ。道具だ。

あんなに脆くて儚い光を瞳に宿し、それでいてその崩れかかった心にそびえたつ塔の様な確かで不確かな意志を持った奴。


裏社会になんぞそんな奴がゴロゴロいる中で、俺は奴だけに興味を持った。


正直俺が他人に興味を持つなんて自身でも思って見なかった




「クク…、アイツは雲だ。たとえ奴が裏切ったとしてさほど変わらねえ。好きに泳がせておけ。

それに――…
アイツが虐殺を行ったとしても、その時は俺たちが殺すだけだ。

利害の一致で俺は奴と組んだだけだ。勘違いすんなカスが」



アイツが俺の玩具に変わりはない。
興味あるのにアイツを殺しても構わないと思ってしまう俺は狂ってんのか







『…そうだ。変な勘繰りはよせ』






ふいに落ちた声。女にしては低い声の持ち主、噂のアイツが目の前の大きな扉から中へ入ってきたところだった。



「う゛ぉおい!テメェ…、よくもノコノコと顔を出せたなァ…!」



殺気ををにじませた顔つきでスクアーロが睨むが、まるで眼中にないといった体で俺の方に歩いてきた。



『――で、何の用だ ボス 』



ひやりと凍てつく声音で大鎌を背負ったアイツは、俺に殺気を送ってきた




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