ああ、何て美しいんだろう。僕は目の前に座る人を見てこっそりと溜め息を吐く。
窓から降り注ぐ光は彼を優しく照らし、風は穏やかに漆黒の髪を撫でている。それらに護られながら彼は病的にも思える程白い指を無駄の無い、最小限の動きでもって本の頁を一枚めくる。そしてたおやかに、深い夜の瞳を文字の上を滑らせるのだ。
僕は、机を挟んだ向かいで読書中の彼を見て溜め息を吐く。ああ、何て美しいんだろう。
学園の図書館である以上僕と彼以外にも人は居るけれど、場所の性質である独特の静けさも手伝ってかこの時、僕は彼とだけの世界に浸る事が出来た。
生徒会長である僕は、普段だと何時も仕事や人に邪魔されるし、何より彼に避けられてしまうけれど 此所でこうして彼と時を共にする事は許された、僕の努力で勝ち取った時間だ。
その時間を全て、僕は言えない言葉を胸に抱えながら只 本の世界に浸る彼を眺めるのだ。
彼の深い黒の瞳が僕に一瞬でも向けられやしないかと期待しながら 僕は光に包まれる彼を見る。

始めの内は、そうするだけで僕の胸は満たされれるのだけど、その幸福を食べ肥大した想いが僕に責付き始める。今日こそ言うのだ!告げるのだ!でないと、お前の今にも裂けんばかりに膨らんでしまっている心臓は爆発してしまうぞ!醜いものを嫌う彼に、砕け散った肉片を曝すつもりか? そんな事をしてみろ、お前は彼の瞳と色は同じでも全く違う闇へ堕ちてしまうぞ!


「御柴生徒会長。」

追い立ててくる其を押さえ付けていると、彼が僕の姓と役職を声にした。何時の間にか俯いた顔を上げて彼を見れば、白く細い指を一本立てて薄い唇の丁度真ん中に当てると、隙間から息を吐き出してシー、と 静寂を促す。

どうやら僕は気付かない内に唸り声を出していたらしい。必死で気付かなかった。それよりも、そんな事よりも、今の彼を見ただろうか!!あの可憐な仕種を!
彼の大切な時間を邪魔した僕を叱るでもなく、黙れと、消えてしまえと一言 言えば済むのに、彼はあんなにも可愛らしく僕を許した

ああ 顔に熱が溜まっていくのがハッキリと解る。みるみる内にみっとも無く顔が赤く為って行く。耳すらも熱い。だって、仕方無いじゃないか 彼は薄く笑みさえ湛えていたのだ!!!

「あ、あの、」

喉に声が詰まって喋りにくい。

「はい 何でしょうか、御柴生徒会長。」


光すら呑み込んでしまう彼の黒の目が僕を真っ直ぐに見詰める。ドクン、と胸が一際大きく脈打って僕を後押しする。さぁ、告げるのは今だ

「あの、た 高、藤くん。」

「はい。」

「高藤、君、」

「はい。高藤ですよ。」

ああ、どうしてちゃんと出て来てくれないんだ!あんなに出たがっていた、彼に渡される事を望んでいたじゃないか!!

「あああ、あの、あの、ね、」

「まぁそんなに焦らないで。」

そんな事を言われたって。僕は焦っている心算はない。でも、一人の時滑るようにして出てた1つの言葉が肝心な今に為って出てこないんだ。

「あ、あの、僕は、高藤君。僕は、」

さぁ、告げるのは今だ!今なのだ!

今、今、今、今、――――――


「高藤君、僕は君の事をあ、ああああ、ああああ、いう、その、あ、あ、」



今!!!!!!










キーンコーンカーンコーン。

午後の授業開始10分前の予鈴。

「おや、残念です。時間切れ。」


図書館は校舎とは少し離れた場所にある。もう授業に向かわないと彼は遅刻に為ってしまう。

「………………………。」

時間、切れ

頭で理解した途端に体から力が抜ける。何時の間にか立っていた椅子に座り直して、机に伏せる。

何て、何て 情けないのだろう。
涙がじわりと滲み余計惨めな気持ちに為った時、頭をそっと一度撫でられた。彼の手だと直ぐに解り、反射で顔を上げてしまったが、今の僕を見られたくなくて直ぐに腕の中に顔を隠す。


「ね、御柴生徒会長。僕は待ってますから、焦らないで。」


彼はそう 酷く優しい声で僕を労った後に、また一度僕の頭を撫でて図書館を出た。
足音に耳を澄まし扉の開閉音まで確かめて彼の退室を確信してから顔をあげる。目の前にはもう彼の居ない席。




ああああああああ!!愛してる!!!








しかし彼は何て慈悲深いのだろうか。情けない僕を慰めてくれるなんて。
次だ、次こそは、絶対に言うぞ!!!






ドリーマンの法則様へ提出させて戴きました。取敢えず自分の好きにやってしまった感が半端無い。まじぱねぇ(笑…… えない)orz










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