食事が終わって片付けをする城ヶ崎さんを見送って、俺は美羽音ちゃんの部屋に留まった。
食事を終えた彼女はと言うと、膝に本を乗せてほっそりとした指でページをめくっている。
そんな彼女の居るこの海の部屋、ゆっくり眺める機会が無かったな、と思い、あちこちに視線を移してみる。
壁一面の本棚に埋まっている本、収まりきらないそれは床にまで散らばっていて。
天井の代わりには真っ青に透き通ったステンドグラス。
差し込む光がガラスを水面のように見せて、やっぱりそれは海底に居るような感覚を起こさせた。

「(見れば見るほど不思議な部屋だよな……)」

やがて部屋を充分に見終えた俺は美羽音ちゃんに視線を戻す。
其処にはさっきと全く変わらない姿で黙々とページを捲っている彼女の姿があって。
そんな彼女の手元を覗き込むようにして俺は話しかけた。

「美羽音ちゃん、何読んでるの?」
「…………」

当然返って来る言葉はなかったけれど俺はめげずに話しかける。
少しずつでも良いから、まずは俺に慣れて欲しくて。

「それってどんなお話?」
「あ、俺この本知ってるよ!」



【近付きたい、その一心で】



縮まって欲しいと願った、俺と美羽音ちゃんの距離。
でも、そんな生活を続けても彼女は笑う事はおろか、喋る事さえしなかった。



∴2012/03/02

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