人の気配を察知したのか、はたまた俺の呟きが聞こえたのか、少女がゆっくりと振り返る。

「…………」

さっきは人魚、と口走ってしまったが良く見れば長いスカートの間から細い足が見えていて人間だと認識出来る。
しかしそんな彼女は、初めまして。でも、こんにちは。でも無く、ただ此方を見つめるだけで一言も言葉を発しなかった。
その様子を見て、後ろにいた城ヶ崎さんが口を開いた。

「あちらにおられるのが我々の主である美羽音お嬢様です」

やがて、こちらに興味が無くなったのか、ふい、と膝に置いていた本に視線を戻す彼女。
その表情は虚ろで何処か儚さを帯びていた。

「今回、貴方様にはお嬢様の感情を取り戻して欲しいのです」
「……それは、どういう意味ですか?」
「……美羽音お嬢様はある事がきっかけで笑う事も泣く事も怒る事も放棄してしまったのです」

以前は良く笑う御方でした、と差し出した一枚の写真には、優しそうな男性と綺麗な女性、そして可愛らしい女の子が映っていた。
女の子は花が咲くような表情で幸せそうに笑っている。

「そのある事って……?」
「……それは私の口からは何とも言えません。ただ、美羽音お嬢様にとって、非常に衝撃的な事であったのは確かです」

そう言った城ヶ崎さんの表情は悲しげで、過去を思い出しているかのように瞳を閉じていた。

「お嬢様はまだお若く、感情を閉ざしたままこれからを過ごすなんてあまりにも悲しすぎます……。どうかお嬢様を救って下さい、お願い致します」

頭を下げて頼んでくる城ヶ崎さん。
その姿に座り込む彼女と写真に映る彼女を見比べる。
正反対の性格となってしまった彼女。
一体、過去に何があったんだ……?



【閉ざした心に隠された真実】



それを知るは彼女しかいない。



∴2012/02/23

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