「ほら、次はこっちこっち!」
「ちょっ、引っ張らなくても…!」

俺達が今いるのは、大きなアミューズメントパーク。
今は遊園地でありとあらゆる乗り物にチャレンジしている所だった。

「も、つかれた……」
「はははー、まだまだ序の口だぞ!」
「………ほんっと、子供」
「な、なんだよ、楽しくないの?」

口を尖らせる彼女に聞けば、…楽しい、と返ってきて。
少し見つめ合ったのちに笑いが零れる。

「さ、じゃあ次は…」
「…ね、あれ、何?」
「ん?あぁ、パレードの事?」
「随分とうるさいから…」
「っはは!うるさいって言うのは美羽音ちゃんだけかなー!夜とかに見るとね、ライトアップされてスッゴく綺麗なんだよ」
「ふぅん……」

ちょっと見る?と聞いたら、乗り物の方が良いと呟く彼女。
じゃあ、次行こうか、と歩き出したが、パレードで人が多いからか歩きづらい。

「あ、明仁っ、待っ、て…」

体の小さい美羽音ちゃんは、簡単に人の波に流されてしまっていてかなり大変そうだ。

「大丈夫?美羽音ちゃん」
「…大丈夫に、見える…??」

誰が見ても疲れてるようにしか見えない彼女は肩で息をしていて。
何か良い案はないものか…と考えた俺は、美羽音ちゃんの手を取った。

「なっ……なに」
「これなら、はぐれないでしょ?」

少し戸惑った様子の彼女に笑えば、照れくさそうに頬笑み返してくれて。
さっきまで俺が引っ張っていた彼女との歩幅は自然と同じになっていた。





気付いた時にはもう、空は茜色に染まっていて。

「…帰ろっか」
「……うん」

あの時の手は、繋がれたまま、俺達は屋敷への道のりを歩く。

「美羽音ちゃん、コーヒーカップで目回ってたでしょ」
「あれは明仁が全力で回したから!あたし初めてあれ乗ったんだよ?」
「はははー、つい燃えちゃって」
「そういう明仁はお化け屋敷でビビりすぎだからね?」
「う!あ、あれは…」
「…っふふふ!でも、あの顔面白かったな!」

今日1日であった出来事を思い出しては、冗談を言ったり、笑ったり。
そして、ふと、彼女は真面目な顔になると、前を見ながら話し出した。

「観覧車、綺麗だったな。街がオレンジ色に染まっていて、海が光を反射して輝いて……ううん、ここに来てた人みんな、楽しそうだった。キラキラしてて綺麗な笑顔で笑ってた」

そこまで言うと彼女はもう一度此方に視線を戻して、笑った。

「私ね、学校に行こうと思うんだ。途中から転入って形になっちゃうけど、でも、頑張りたいの」
「……そっか」
「こんな風に思えたのは、明仁のおかげだよ。……ありがと!」

その笑顔を見た時、もう、俺は必要ないな、と思った。
この子なら、どこへ行っても愛されて、幸せな毎日を送る事が出来ると。
そんな事を感じさせるような笑顔だった。
次第に見えてくるお屋敷の玄関には城ヶ崎さんやメイドさんが、彼女の帰りを待っていて。

「…おかえりなさいませ、お嬢様」
「……ただいま!」

夕焼けに照らされた笑顔は、綺麗だったけど、胸が締め付けられた。



【おかえりなさい。君も、心も】



もう、俺がいなくても、大丈夫。
君なら、大丈夫だから。
だから……さよなら。



∴2012/08/31

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