案内された先は、三ツ星レストランの厨房を小さくしたような、そんな空間だった。 「結構本格的だなぁ…」 ピザ釜まであるよ…と感心していたら、自分のおなかが空腹を訴えた。 仕方ない、さっさと作り始めよう。 とは、言ったものの。 「(俺、料理って得意じゃないんだよな…)」 「………大丈夫?」 「だ、大丈夫だよ!」 知らず知らずの内に、不安げな顔にでもなっていたのか、美羽音ちゃんが様子を窺ってくる。 大丈夫と強がってみたものの、やっぱり大丈夫じゃないかもなぁ、なんて思っていたら。 「……ちょっと、そこ座って待ってて」 美羽音ちゃんがスッと俺の横をすり抜けて厨房の中へ入っていく。 俺はただ呆然と、その背中を見送るだけだった。 「……ん」 「わあ…!」 サンドイッチ、チーズオムレツ、コールスローサラダ、コンソメスープ、それからフルーツヨーグルト。 目の前に出された料理に俺は驚きを隠せなかった。 「おいしそー…っていうか、随分手慣れてるね?」 「……じいやが居ないときは、ひとりでやってるから」 「そっか」 早く食べちゃって、と美羽音ちゃんに促され俺は手を合わせた。 「いただきます」 スープを一口掬って口に運ぶ。 野菜の味がしっかり出ているし、味付けも濃すぎず、薄過ぎず、最適だった。 「おいしい!スッゴくおいしいよ!」 「………そう」 オムレツも食べてみて、ふわふわの食感に、うん、本当においしい!と言えば、良かった、と小さく呟いた声が聞こえて。 それだけ言うと彼女は自分は何も食べずに調理の後片付けを始めた。 「美羽音ちゃんは、食べないの?」 「あたしは、平気だか、ら…」 言ってる最中に、小さく彼女のおなかが鳴る。 「…っくく…美羽音ちゃんもおなか空いてるんじゃん」 「う……わ、笑わないで、よ…」 「んー…じゃあ、今度は美羽音ちゃんがちょっと待ってて?」 首を傾げてる彼女に俺は笑いかけた。 「ごめん、こんなものしか作れないけど」 彼女の目の前に差し出したのはフレンチトーストだ。 女の子なんだし甘いもの好きかな…という考えと、料理下手な俺でも大丈夫だろう、との理由で作ったのだが。 人に料理を振る舞うなんて、慣れていないから緊張してしまい。 美羽音ちゃんがフォークで欠片を口に入れるのをドキドキしながら見守る。 「……おいしい」 「本当!?」 「…うん、ほんと」 「良かった……」 美羽音ちゃんの、おいしい、の一言で俺の肩に入っていた力が抜ける。 緊張感から解放された俺は、美羽音ちゃんの料理を食べてしまおうと彼女の前に座る。 「……ありがと」 その時、ふわりと空気が和らいだ、気がした。 【失われてた欠片、ひとつ】 見間違い?いや、そんな事はない。 初めて此処に来た日に写真で見た笑顔。 それが、今、ここにある。 ∴2012/08/29 |