大久保先輩に勝った日から少しして、それでもあたし達はまだチェス勝負を続けていた。 あの日を境に彼相手でも少しずつ勝利を手にする事が出来ていて…勝率は4割と言った所か。 今日はあたしが勝って、今からお願いを聞いてもらうところなのだが…中々言い出す事が出来ずにいた。 「あの、えと…」 さっきから、あの、とか、えっと、とか言ってばかりで。 流石の大久保先輩痺れを切らせてあたしを急かしてきた。 「なんだよ。早く言えっつーの」 「あ、あたしとここに行ってください!」 腹を括って、バン!と机に置いたのは雑誌で、水族館と遊園地が一緒になったテーマパークの事が書かれているページだ。 まあ、何だ、あの日からデートなんて行った事なんかなかったし、今日は幸い金曜日だし。 恐る恐る大久保先輩の様子を窺ったら顔を手で覆いながら背けていたのだが、その頬は赤くなっていた。 「っち…何でお前が先言うんだよ」 「え。あの、舌打ちされる意味が分かんないんですけど」 「……チケットは、買ってあんのか」 「いや、まだです、けど」 「…なら、いいか…」 何が…と聞こうとしたあたしの目の前に置かれたのは2枚のチケットで。 それはあたしの行きたかった場所に似て……てゆーか。 「本物?」 「バーカ。見ればわかんだろ」 「……えぇぇぇぇえ!何で!?」 「俺だってお前のこと誘って、行こうと思ってたんだよ」 「そう、なんだ…」 何だか嬉しい、大久保先輩もあたしの事考えてくれてたなんて。 「何にやけてんの」 「にやけてませんよーっだ!」 「ふーん…お前ってほんと変な奴」 「その変な奴を好きになったのは誰ですかねー?」 「………」 「くすっ、言い返せないでしょー」 「…まあ、退屈はしなくて済みそうだな」 「うわ!失礼だなー」 そして今、大久保先輩とこうやって話している時間が楽しくて。 やっぱり自然と笑顔になっちゃうなぁ。 「…美羽音」 「へっ…?な、何ですか」 「これから覚悟しとけよ?離れらんねーようにしてやるからな」 「…大久保先輩こそ」 いきなり名前で呼ばれてちょっとびっくりしたけれど、あたしはすぐに大久保先輩に言い放ってやった。 「他の女の子に目もいかないくらいに、惚れさせてやりますから!」 「…上等」 【白黒つけようじゃないか】 これからもあたしたちは一緒に過ごして行くんだろう。 色々な所で競い合いながら。 ∴2013/02/05 |