あの大会から一週間、相変わらずチェス勝負は続いていた。 良い所まではいくようになったのだが、あともう一歩の所で状況を返されてしまい勝てていない。 どうしたら勝てるのかと考えを巡らせていたら、向かい側から歩いて来る人に指を指された。 「あ、こないだの!」 「??…失礼ですけど、どちら様ですか?」 「え。覚えてないんスか?」 「はい」 全く分からなかったのでキッパリと言ってやったら、酷いっス〜、と言われたけれど、すぐに彼は立ち直って自己紹介をしてきた。 「暁良と同じ、バスケ部の片岡彰斗っス。美羽音ちゃん」 「気軽に呼ばないでください」 あの人の仲間かよ…と、冷たくあしらおうとしたが、彼はしつこく付きまとってくる。 「相変わらずチェス勝負はやってるんすか?」 「………まあ、一応は」 「プッ…その様子だとまだ勝ててないみたいっスね」 「良い所までは、行くようになったもん」 ケラケラした軽い口調にイラッときて、睨み付けてやったのだが。 「じゃあ…何でそこから勝てないのか、自分で分かっているんスか?」 「……アンタには、わかるの?」 何かを知っているような、そんな口振りを見せてきたので、今度はあたしが質問してやった。 すると、まあ推測でしか無いっスけど…、と言って彼が話し始めた。 「美羽音ちゃんの心のどっかで、暁良に負けて欲しくない、っていう気持ちがあるんじゃないんスか」 「………どういう、意味?」 「暁良に勝ちたいけれど、実はあのチェス勝負がどこかで終わらない事を祈ってるんスよ、美羽音ちゃんは」 「……チェス勝負が、終わってほしくない…?」 「それが、2人を繋ぐ唯一の絆っスからね」 あたしの気持ちが、勝ちにブレーキをかけている? 「美羽音ちゃんは、ビクビクしすぎなんス。少し位我が儘言っても、2人の仲は壊れたりしないって」 「………」 「暁良が今まで美羽音ちゃんに我が儘言ってきたみたいに、今度は美羽音ちゃんが我が儘言ってやればいーんスよ!」 それだけ言うとニカッと笑って、立ち去る片岡先輩の背中を見送りながら、あたしはさっき言われた言葉をずっと反芻していた。 【ビショップが授けた知恵】 もしあたしがそれを克服したのなら、君に勝てるの? ∴2012/12/16 |