「よ、」
「今日も来た…」
「ったりめーだ。ほら、さっさとやんぞ」
「拒否権はー?」
「ない」
「…デスヨネー」

帰りのホームルームを終えたあたしの前に現れたのは大久保先輩で。
今日も飽きる事なくチェス勝負を求められた。

「せんぱーい」
「んだよ」
「何であたしなんですか?」
「は?」
「チェス勝負したいなら他の人にやってもらえばいいじゃないですかー」

駒を進めながら、前々から疑問に思っていた事を聞いてみる。
すると彼はにやりと笑いながら、お前が勝ったら教えてやるよ、と言った。
コイツ、心のなかで絶対あたしじゃ勝てないと思ってるな。

「次、お前の番」
「はいはい……って、え?」

視線をチェス盤に戻して、次の一手に移ろうとしたあたしの目が点になる。
今さっきまでそこそこの勝負を繰り広げていた盤上は、今や逆転不可能なまでの劣性に陥っていた。

「う、うそ…いつの間に…?」
「ほら、早く進めろよ」

してやったりな顔をした大久保先輩の催促に、あたしはもう諦めて適当に駒を進めてやった。
ひとつ、相手のビショップを取ったけれど。

「…チェックメイト」

空いた空間にすかさず大久保先輩が駒を進め、ゲームはおしまい。

「今日は呆気なかったな、お前」
「む、うるさいです大久保先輩。もうさっさと命令でも言って部活行ってください」
「んだよ。連れねー奴」

ま、いいや。と立ち上がる大久保先輩はサッと一枚のメモ帳を差し出して来て。
簡単な地図と、何かの始まる時間が書いてあった。

「……何ですか、これ」
「土日、ここで大会なんだよ」
「へぇー、そうなんですかー。頑張って来て下さいねー!」
「お前、応援来い。これが今日の分の命令な」
「はいは…ぃぃぃい!?」

驚くあたしを後目に彼は、来なかったら只じゃおかねーぞ、と告げてあっという間に教室から出て行った。

「うそでしょぉぉぉお!」



【休日は脆くも儚く崩れるルークのように消え去って】

さよなら、あたしの休日。
あ、アップルパイ明日持ってけばいいかな。



∴2012/09/14





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