07 あなたでよかった
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「あ、一馬くん!」
「おう」


こんにちは、と小さく頭を下げると照れたようにそう小さく言った一馬くん。今日はお母さんたちの陰謀による2人でのおでかけなのです。


「どこ行く?」
「あー…俺あんまこの辺知らねえしな」
「じゃあわたし決めてもいい?」


お互いに家の車とかでなく電車できてて、一馬くんはわたしの帰りが遅くなってはいけないからとわたしの家の近くで会うことにしてくれた。こういう気遣いができるなんて結構意外だなあなんて思っちゃった。あれからマメにではないけど連絡を取り合っていて、今日の約束もきっかけはお母さんたちの言葉だったけど(今度デートしてらっしゃいな、っていう)この日にしたのはわたしたちだ。よく行くお店があるの、と言うとじゃあよろしく、と言ってちょっと気まずそうに笑った。


「(やっぱり一馬くんってモテるんだなあー)」


すれ違う女の子たちがひそひそとあのひと格好いいね、と一馬くんを見ているのを見てそんなことを思う。ポケットに手をつっこんで辺りを見渡しながら横を歩く彼は確かに格好いい、しかも性格もいいし。今さらだけどわたしなんかが一馬くんの婚約者でいいんだろうか。わたしは彼氏がいないし好きなひともいないけれど、一馬くんに彼女とか好きな人とかはいなかったのかなあ。


「ゆか?」
「あ、ごめん。何?」


店ってここ?と聞かれていつの間にか着いてたの気づく。歩きだす前に電話で予約してたから席はとってあって、わたしがよく食べるというメニューを一馬くんと2人で注文して、中学の頃の選抜の話とか、高校でも代表としてプレーしてたとか懐かしい話をたくさんした。あの頃は結人くんがたくさん話すから一馬くんはあまり話す印象はなかったけれどお互いお酒も飲める年齢になったから少しだけ飲みながらのお話しはとてもはかどって。


「なんだか印象かわったね、一馬くん」
「そうか?」
「うん」


そう言うと一馬くんは照れたようにガシガシとかいて、ちょっとだけ赤くなっている頬を下を向いて隠した。


「……が、」
「ん?」
「結人と英士がしっかりしろよ、って」


ゆかに嫌な思いさせんなよっていうから、とだんだんと小さくなっていく声と一馬くんの姿になんだかわたしもすごく恥ずかしくなってきて。英士くんたちも知ってるんだ、とかそんなに考えてくれてるんだ、とか色々なことが頭をめぐって頬に熱が集まるのを感じる。


「相手がゆかでよかった」
「…え、」
「もっと格好悪い俺を知ってるしな」


はは、と笑った一馬くんは今も十分格好悪いけど、と言ってグラスを手に取った。…なんか、ほんとに一馬くんじゃないみたい。


「…わたしも」
「?」
「わたしも、一馬くんでよかった」


わたしたちが結婚するのは、大学を卒業してからだ。あと1年、一馬くんとどんな場所にいって、どんな思い出を作ることができるんだろう。





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