06 想われてるね
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「あ!ゆか!」
「久しぶり〜誠二」


ぱたぱたと走ってくる誠二に手を振って見せるとぶんぶんと彼も大きく手を振ってくれた。なんだか尻尾が見えるような気がするのはなぜだろう。まだ試合場までちょっと距離があるから時間もあるしゆっくり歩いていこうと思ってたら誠二が迎えに来てくれたらしい。三上先輩がゆか来るって言ってたから迎えにきた!とにっかり笑顔で言ってくれた誠二にわたしもにっこりと笑い返す。実はお兄ちゃんから「馬鹿が迎えに行く」とメールがきてたっていうのは黙っておこうかな。


「練習しなくていいの?」
「それがさあ!俺スタメンじゃねえの!」
「そうなの?」


珍しいね、というとむっすーと頬を膨らませる誠二。ちょっと、なに可愛い子ぶってんのちょう可愛いんだけどその顔。同じ年の男の子に可愛いとか思うなんてちょっと変な感じだけど誠二もタクもなんだかその辺の女の子より可愛いのはなんでだろう。雰囲気というか顔というかなんというか。サッカーしてるときは格好いいのになあ、なんて。


「三上先輩に聞いたんだけどさ」
「んー?」
「結婚するの、ゆか」
「……へ」


今日暑いなあーなんて思いながら家を出る前に美鈴さんに日焼け止めを塗ってもらってよかった、と空を見上げてたとき、誠二にそう言われて思わず変な声をもらしてしまった。なぜ言うお兄ちゃん、そしてなぜ疑問形じゃなくて確定形できくのさ誠二。いや、まあ確定なのは確定なんだけどなわたしの意志なんか関係なく。


「…そうみたいなんだよねー」
「嫌じゃないの?」
「うーん、思ったより拒否反応はなかった」


なんとなく、相手が一馬くんだってことは伏せた、っていうかタイミングを逃してしまって今更、って感じになって言えなかった。一馬くんはお家がお金持だって英士くんたち以外には隠してるらしいし(サッカーをするのにそれはいらないからだって)わたしから言っていいのかもよく分からなかったし。


「いい奴だったんだ」
「うん」
「へー。じゃあゆかは真田ゆかになるのか」
「………は?」


あの真田とゆかがねー、なんて手を首の後ろで組んで空を見上げながら言う誠二に視線を向ける。ちょっとまて、なんで相手が一馬くんだって知ってんの。まさかお兄ちゃんが話したの?いろいろ考えた自分がばかみたいじゃないかなんか。なんで知ってんの、という視線に気づいたらしい誠二が、にっと笑った。


「三上先輩から婚約の話聞いた後に、真田からめずらしく連絡がきてさ」
「…なんで」
「ゆかって彼氏とかいないのか?って」


ちなみに三上先輩は一切この話はしてくれなかったからもしかしたら真田が相手なんじゃないかなーと思ったら当たったみたいでさ。真田の家のこと聞いて、なんでそんなこと聞くんだって言ったら少し照れながら言ったんだあいつ、と誠二。


「好きな奴がいたら自分との話は嫌だろうと思ったみたいだよ、真田」
「…そう、なんだ」
「ちゃんと想われてんじゃん、ゆか」


…やばい、ちょっときゅんときてしまったよ一馬くん。思わぬところから彼の優しさが見えて、…うん、と小さくした返事に誠二はなんだか嬉しそうに笑った。





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