12 愛おしい
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「やっぱりでかかったな」
「え?」


服、と言われて自分が一馬くんの服を借りていたことを思い出す。お酒を飲みながらこの前かわいいカフェをみつけたとか結人くんと出かけたらうるさくて恥ずかしかったとかそんな話をしていたらいきなり言われて「あ、うん」なんてまぬけな返事をしてしまった。お互いにグラスを机の上に置いて、でも貸してくれてありがとうと笑うと一馬くんが少しだけ顔を下げた。


「?どうしたの?」
「…や、なんつーか」
「一馬くん?」


手のひらで顔を覆って背ける彼の頬がほんのり赤いのは、お酒のせいなのだろうか。


「ゆか」


名前を呼ばれて、一馬くんを見ればまっすぐとわたしを見る彼がいて。


「…俺、最初はすっげえ嫌だったんだ、親の決めた相手と結婚するの」
「…」
「でも相手がゆかで、…よかった」


それはわたしも一緒で。前に美鈴さんに話したように普通に恋愛をして普通に結婚したいと思っていたし、決められた結婚なんて嫌だと思っていたけれど、その相手が一馬くんで、こんなにも毎日が楽しくなって。


「始まりはこんな形だったけど、」
「…うん」
「ちゃんと好きだから、ゆかのこと。絶対に幸せにする」


ああ、愛おしいってこういうことを言うんだろうか。ほんのり赤い彼の瞳に映る自分もほんのり赤くなっているのに気付いた。一馬くんの手に自分の手を重ねて近づいてキスをした。触れるだけのそれに、ゆっくりと離れて彼を見る。普段は絶対こんなことしないし、恥ずかしいけれどそんなことよりもっと一馬くんに触れたくなった、触れてほしくなった。


「…わたしも、好き」
「…ゆか、」


抱き寄せられて、今度は一馬くんからキスが降ってきて。優しく触れるだけのキスを何度か重ねた。抱きしめられて、やべえ、と小さく一馬くん。



「…すっげえ幸せかも、俺」
「……そんなの、」



わたしもだよ。一馬くんの肩口に顔をうずめてそう言うと、抱きしめてくれる手に少し力が入った気がした。




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