15 美味しいよコンコン
「だれ?」
「あ、恭弥君、わたし!ゆか!」
すぐに返ってきた返事に少しだけびっくりして、慌てて自分だと名乗る。なんだかすごくキョドっちゃったけど。するとすぐにドアが開いて、恭弥君が出てきた。入りなよ、と言われて中に入る。
「あ、はい。お弁当」
「ありがとう。紅茶飲む?」
「え?紅茶があるの?」
座って、とすごく高そうな革張りのソファに促された。なんだか校長室みたいな作りの部屋で、まわりをキョロキョロと見渡すわたしを見て恭弥君がくすりと笑みをこぼした。ちょっとだけ恥ずかしくなって、あはは、と笑って見せると恭弥君は紅茶を入れにいった。
「はい」
「あ、ありがとう」
紅茶の入ったティーカップを受け取って、お礼を言う。そういえば恭弥君は今お昼休みなんじゃないのだろうか。さっき生徒の子達もいっぱい廊下にいたし。恭弥君お昼食べないでいいの?と聞くと、恭弥君は何も言わずに立派に見える机の方に歩いていって、1つの紙袋を持って来た。そしてそれをわたしの前におく。
「?」
「ゆかはこれを食べなよ」
「…お弁当?」
中を開けてみると、可愛らしいお弁当箱。中身にもやはり可愛らしいおかずたち。これどうしたの?と聞くと貰ったんだ、と恭弥君。
「貰ったの?」
「うん」
「誰に…?」
応えようとしない恭弥君。な、なんで…?いいから食べなよ、と言う恭弥君に、疑問符ばかりが頭に浮かぶ。
「ね、ねえ恭弥君」
「なに?」
「お弁当貰ったんだったら、わたし届けない方がよかったかな」
「なんで?」
恭弥君がきょとんとしてわたしを見る。ちょっと可愛い、…じゃなくて。だって恭弥君がわたしのを食べたら、このお弁当食べられないじゃない?わたしが食べたら作った子に悪いよ。だって恭弥君のために一生懸命つくったんだよ。そんなわたしの言葉も恭弥君は全て無視。そして、はあとため息をつくと(な、なんでため息…?)わたしをまっすぐ見た。
「僕はゆかのが食べたいんだよ」
「へ…?」
分かったなら、それ食べて。と言って恭弥君はわたしが今持って来たお弁当を食べ始めた。…わたし、このお弁当ほんとに食べてもいいのかな。それでも恭弥君は細身だからお弁当2つも食べられないと思うし、今更こっちを食べなよなんて言ってもたぶん食べてくれないと思う。「(…ごめんなさい!)」
恭弥君のことを想いながら作ったであろうお弁当に謝って箸をつける。ぱく、と口に入れると口の中に美味しい味が広がる。んー美味しいっ!とつい口に出してしまうと、恭弥君がわたしを見た。
「そんなに美味しいの?」
「うん!わたしより料理上手いよこの子!」
いいなー教わりたいくらい!と言うと恭弥君は、ふっと笑ってまた食事を再開した。それを見て、わたしもお弁当に箸をやる。
「ゆかの料理の方が美味しいよ」
そう言って、恭弥君が食べ終わったお弁当箱の蓋を閉めた。箸をくわえたままポカンとするわたしを見て少しだけ笑って、恭弥君は紅茶のお変わりを注ぎに行った。
「…」
な、なんだか凄く恥ずかしいんですけど。火照ってくる顔はきっと赤くなってるんだろう。
この学校の生徒の皆が恭弥君の名前を聞いて逃げ出したから恭弥君はみんなに怖がられてるのかな何て思ったけどやっぱり恭弥君は優しい。っていうか、優しすぎる。
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