これが、出逢い (郭)
bookmark





彼と別れた。


そう言ったわたしを励ますためか、一馬が今日試合があるから、とわたしを引っ張っぱここまできた。最前列の観客席に座らされて、今日は特別にお前のためにゴール決めてやるよなんて笑って言うから「期待してる」と言って一馬を送り出した。しばらくすると一馬のユースの子達がユニフォーム姿で出てきて、スタメンの中に一馬を見つけて。振り返った一馬と目が合って、「ちゃんとみてろよ」と口パクで言われた。分かってるよ、と笑顔で答える。チームメイトの輪の中に戻った一馬がからかわれてたのをぼーっと見る。


「…」


前半は点が入らなくて。何度もシュートを放った一馬が悔しそうな顔をしてる。その姿を見て、彼を思い出した。彼も、サッカーをしていて、一馬と同じFWだった。今思えば、だから彼に惹かれていたのかもしれない。小さな頃から一馬のサッカーをしてる姿を見てたから。


「っ…」


涙が溢れた。もう彼とは別れたんだよ、忘れなさいよわたし。その涙を隠すように、視線を下に向けた。点が入ったのか、わああと言う歓声が聞こえた。



「おっしゃあ!」
「ナイス一馬!」


やっと点が入った。今日の相手は相性が悪くてなかなか点が入らなかったけど、後半30分。自分の出したパスで一馬がゴールを決めた。今日の試合の大切さを一馬に聞いていたから、心の中でほっと息をつく。


「やったね、一馬」
「ああサンキュー英士。あいつも見て…――」


一馬の視線に釣られる様にして一馬の幼馴染と言う女の子を見ると、その子は俯いて泣いていた。肩を震わせて顔を手で覆って。その姿を見て、一馬が顔をしかめた。




「ゆか」
「……一馬」


試合が終わってから、一馬についていくと言う結人に引っ張られるようにしてその子のところまで行った。一馬の姿を見てにこりと笑って「おめでと」と言う彼女は、泣いていた事がばれていないと思っているのだろうか。真っ赤になった目を隠さずに、真っ直ぐ一馬を見ていた。


「あ、結人くんと英士くんだよね?」
「え?」
「一馬からよく聞いてます。わたし、一馬の幼馴染で麻倉ゆかっていいます」


よろしくね、と笑顔を浮かべる彼女に、結人もよろしく!と笑顔を向けた。ただ俺は、その笑顔が無理しているように見えた。だからこそ、その笑顔に笑いかける事ができなかった。一馬に視線を向けると一馬は俯いてぎゅっと拳を握っていた。


「一馬、お礼に林檎ジュースでもおごる、」
「無理して笑わないでいいよ」


どうしてか、彼女の言葉を遮った。ぽかん、と結人がこちらを見てるのが分かった。俺の言葉の意図が分かったのか、一馬がゆっくり彼女の隣に座る。きゅ、と彼女が一馬のジャージの裾を握ったのが見えた。


「…わたし、そんな無理してそうに見えた?」
「…」
「英士くん、結人くん、……ごめんね」


何に対して、彼女が謝ったのかは分からなかった。せっかく試合に勝ったのにこんなとこ見せてごめんとか、そんなところだろう。ゆっくりと彼女の腕が一馬の背に回った。


「…泣くなよ」
「泣、かないよ…」


少しだけ、声が震えてた。震える体をきゅ、と抑えるようにしてしがみ付く彼女の背を、優しく一馬が撫でた。彼女が一馬にとって、特別な存在だと言う事がそのときにはっきりと分かった。彼女の強さも、弱さも。


これが、おれ達の出会い。



***
『小さなプロポーズ』のお話の、ふたりの出会いです。こっからどんどん仲良くなっていけばいいのだようふふ(^^)その辺のお話も書きたいけどそしたら中編並の長さになってしまいそうだわっ




prev|next

[戻る]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -