赤く染まった頬 (高瀬)
bookmark






ヴー、というバイブ音に、鞄の中に手を突っ込んで携帯を取り出す。

メールの送信者は島崎慎吾。私の幼馴染。何故かこいつはいつも部活が終わるまで私を待たせる。この前なんか待った後で「明日から先に帰るからね」と言ったらなんとアイツは「こんな暗い中ひとりで帰ったら危ねえだろ。送っていくし」とか言いながら私の頭をポンポンと叩いた。いや、ね?アンタを待たなかったらもっと明るいうちに帰れるんだよ。もう何回このやり取りをしたことか。だんだん面倒くさくなってきて、私は先に帰るということを諦めた。

「部活終わったから来いよ」というメールの内容に「うん」とだけ書いて(絵文字なんか使ってやらないよ)(いつものことだし)読んでいた本を鞄に放り入れて誰もいない教室をあとにする。


「はあ…」


野球部の部室までの道のりの中、私がつくため息の数は最小でも5回。5回は必ず毎日私の口からはきだされる。慎吾はただでさえ格好いい人が多いといわれてる野球部のレギュラー。しかも顔はいいもんだから女の子達からの人気が高い。別に慎吾に人気があるから嫌だとかではなくて(だって別にどうでもいいし)そのみんなに人気者の慎吾君が、綺麗でも可愛くもないただの幼馴染のクラスメイトである麻倉ゆか(あ、私のことね)と毎日(強制的にだけど)一緒に帰ってしかも部活がない日には遊びに来る(アイツが勝手にね)んだから私が嫉妬の目を向けられるのなんて日常茶飯事だ。しかもそれを分かってか、慎吾は「ゆかになんかしたらタダじゃ済まねえからな」とか言うもんだからまたそれを格好いいとか言う子が増えて…(なに言いたいのか分からなくなってきた)

全く、女避けに私を使うなっていうんだ。おかげで私は彼氏なんてものが出来たことがないし(まあ慎吾の所為だけじゃないと思うけど)、みんなは私と慎吾が付き合ってると思ってるらしい。違うって何回も言ってるのに…!誰も聞こうとすらしてくれなくて、みんなは慎吾に「よく続いてんなお前らー」とか言ってて慎吾も何故か「おー、俺ら相思相愛だから」とか言ってた。もうため息しか出てこない。

はあ、とまた出てきたため息はもう私の意志では止められなくなってきた。



今日こそは慎吾にきっぱりと言ってやる。



「慎吾ー」
「お、ゆか来たか。今から着替えるからちょっと待ってろよ」
「(着替えてから呼べよ…)」


ガツンと言ったるぞーと行ったのはいいが、慎吾のそこで大人しく待ってろよーというのん気な言葉に一気にやる気をそがれる。ああ、そういえばこれも何度もこんな経験をした覚えが…またまた出てくるため息を聞いたらしい河合君が笑って私の頭を撫でて行った。あー、癒される。慎吾も河合君みたいに優しかったらいいのに。とか思ってみたけど、考えてみると慎吾はああ見えて結構優しかったりする。この前も私が躓いてこけたとき、私を立たせたあとに笑って私の頭を撫でた。あれはちょっと嬉しかったかなあ、と。


「あっ」
「?」


声がして振り返ると、高瀬君がいて口を押さえてた。大方さっき声を出してしまったことをまずいと思ったんだろう。

高瀬君とは、あんまり喋ったこともないし、面識もない。でも女の子達の噂ではいろいろ聞いたことがある。“女の子達の噂”での高瀬君は、クールで人見知りでめったに見せない笑顔がとっても可愛いということだった。確かにクールで人見知りというのは認めよう(だって私何回か来てるのに数回くらいしか喋ったことないし)。笑顔が可愛いっていうのは見たことがないから分からないなー。でも可愛いんなら見てみたいかも。そんな事を考えていると「お、準太まだ帰ってなかったのかよ」と言いながら慎吾が出てきた。特に反応もせずに慎吾が高瀬君に絡んでいるのをはやく帰りたいなーなんて思いながらただボーっと見ていた。


「慎吾さん、待っててくれてるんだからはやく行った方が…」
「なーに準太、お前羨ましいの?」
「なっ…!」


…うわ、可愛い。私のほうをチラチラ見て気にしてくれてるみたいだった高瀬君(慎吾もちょっとは見習ってほしいよ)が、慎吾の言葉に真っ赤になって反応した。…ちょっと…というかかなり、ときめいてしまった。うわーやばい。私いま絶対顔真っ赤だ。


「ゆか、帰るか」
「あ、う、うん」
「どした?お前顔赤くね?」
「っ…き、気のせいじゃない…?」


やっぱり真っ赤になってたらしい私の顔に気づいて、慎吾が覗き込むように私を見る。見られないように誤魔化して顔を背ける私に慎吾がちょっと低めの声でふーんと言った後「やっぱ教室で待たせとけばよかった」と呟いた。うまく聞き取れなくて、え?と慎吾を見ると何でもねえよと頭を撫でられた。でも次の瞬間、顔が赤いのを思い出してまた慎吾から顔を背ける。





(うわあー、もう一度見たいな)(ほんと教室で待たせとけばよかった)


***
彼の照れ顔には絶対ときめくと思うんだ。(真剣)



prev|next

[戻る]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -