13 アドレス交換
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桜上水の、と小さく呟いたわたしに金髪さんはにこっと笑う。


「俺のことしっとるん?」
「あ、武蔵森との試合を…」
「なんや、見に来とったんかいな」


こんな観客さんがおったならもっと頑張ればよかったなーなんていう金髪さん。おどけたように言っているけど渋沢くんと反対側のゴールを守っていた彼はすごく真剣にプレーをしていたような気がする。


「すごく良かったです、試合」
「ん?」
「感動しました、わたし」


この金髪の彼も10番の子も9番の子もひとつひとつがすごかった覚えがある。桜上水でも特にこの3人は。サッカーは出来ないけれど大好きだからよくプロの試合がテレビでやってたりしたら見るけれど、中学の試合でこんなに感動する試合が見れるとは思わなかった。思いだすだけで胸が熱くなる。それが伝わってしまったのか彼は一瞬呆けた顔をしてまたにこっと笑ってわたしの隣に腰かけた。


「んで?」
「?」
「なんでそないにヘコんでるん?」
「…ヘコんでないよ」
「心優しいシゲちゃんが聞いたるでー」


彼は佐藤茂樹くんというらしくてシゲと呼んでくれと言われた。わたしもゆかでいいよ、となって名前で呼び合うようになって少しだけいろいろな話をした。9番の彼の名前を教えてもらったりわたしも学校の話をしてたりしたら、急にシゲがわたしを覗きこむようにしてきて問うた。


「ゆか、手だしてえな」
「?」


結局聞いてもらってしまった。シゲは黙って聞いてくれてなんだかちょっとだけ気持ちが軽くなった。ありがとね、と言うとシゲも笑ってくれて、ええで、と言ってくれて。気付けばあたりはもう薄暗くなっていた。そろそろ帰ろっか、と立つと同時になにかを思い出したようにシゲが「あ」と声を出してわたしの手を取った。


「ん、これでよし」
「…アドレス?」
「おう。いつでもメールでも電話でもかけてきいやー」


きゅきゅっと音をさせてわたしの手の甲に書かれたのはアドレスと携帯の電話番号。メモを渡すわけでもなくわたしの携帯に直接入れるわけでもなく手の甲に書かれたそれにくすくすと笑うとなに笑ってんねんと突っ込まれてしまった。うん、さすが関西弁を話してるだけあるわねシゲ、なんて。じゃあわたしも書くねとシゲの手の甲にアドレスと番号を書くと「んなら連絡するわ」とシゲは笑った。







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