「馨ー電話鳴ってる」
「あ、うん」
1日も終わり光と一緒にご飯も食べてお風呂も入ったあと、いつものようにお互いの髪をタオルで乾かす。光が前に座り髪をわしゃわしゃとふいていたときブブブ、と音を鳴らす携帯を光が手渡した。
「だれ?」
「…ゆか」
「はやく出てあげなよ」
じゃあ僕はココアでも飲んでくるかな、と光は携帯を見たままの馨をおいて部屋をでた。ゆかと付き合うことになったんだ、と少し前に照れくさそうに、それでもすごく嬉しそうに報告してくれた片割れへの気遣いだ。光が出て行ったのをドアがしまる音で感じて通話ボタンを押す。
「…もしもし」
『あ、やっと出た』
もう寝ちゃったのかと思ったよーと笑うゆかに、きゅう、と胸元があつくなる。こんな風に電話をしたり学校以外でも声が聞けるだけで幸せだと感じることができるなんて。
「どうしたの?」
『あ、うん。えーと…』
「?」
『声、が』
電話って珍しいね、というとたまにはいいでしょなんて言って電話の向こうでゆかが笑った。なにかあったのか、と首をかしげるとゆかは言いにくそうにうーんと、と言葉を濁らせていた。
「声?」
『…うん』
「声がどうしたの?」
『……聞きたくなったの』
「…え、」
小さく、ほんとうに小さく言われた言葉に思わず自分も小さく声をだしてしまった。声が、聞きたいだなんて、ほんの数時間前まで学校で会っていたのに。ゆかが電話の向こうで慌ててあたしのキャラじゃないよね、ごめんねと繰り返す。…それよりも、
「…僕も」
『え?』
「……僕も会いたい」
『なっ』
「声だけじゃ足りないよ」
会いたい、ゆか。そう言うと照れてしまったのか黙ってしまったゆかに愛しさが溢れてしまいそうだ。
「会いに行ってもいい?」
『…じゃあ、待ってる』
世界には自分と光とそれ以外だなんて、そう思っていた少し前の自分がうそのようだ。