他人と時間を共有するって難しいようで実はカンタンな事だと思う
ただ沈黙に耐えられるかどうか、それが重要なだけで
Midnight is where the day begins
あと少しで日付が変わる時間。つまり深夜、真夜中ってことね。そんな時間に珍しい人から電話がきた。
呼び出されたのは家近くのファミレスで、なんとか徒歩で行ける距離。まぁ場所はどこだっていいんだけど。店の奥で見知った金色にも似た茶髪をみつけて、声をかけた。
「珍しいねーそっちが呼び出すなんて」
「…別に」
目線で了解を取って正面に座った。それからどことなく声に覇気のない彼に少し違和感を感じつつ、どんな用かと訊いても気のない返事ばかり。
正面に座る彼は、私とは目線を合わせないで店内のどこかを見ている。彼の纏う雰囲気はどんより灰色だ。これは何かあったな。
「おーい?」
「……」
呼び出したわりには何かを言うでもなく、どこに行くでもなく、はっきり言って暇だ。だからって質問攻めにしたりしないけど。そんなことをしたら彼は、ひとりどん底に閉じ籠もったままだろう。
取りあえず、ドリンクバーを頼んでオレンジジュースを飲んだり、他のお客さんを見たりした。カップルなのか友達なのか、店内の半分の席は埋まっていた。
「結構な時間なのにわりと人いるんだね」
「……そうだな」
世界中の不幸を…あぁ違うな、世界中の嫌悪感を背負ってます、みたいな顔だ。きっと、今私が言ったことなんて頭に入ってないんだろう。それでも返事が返ってくるだけマシかな。
ストローでオレンジジュースを飲むともうなくなっていて、ずずずっ、と音が響いてしまった。
「あ、」
「………」
「…ごめん」
どこかに向かってた目線が私の手元、グラスに注がれていて、思わず謝った。首をすくめて笑えば、仕方ないとでも言うようにため息を吐かれた。礼儀とか行儀には厳しいんだよね、なぜか。まぁ許しはもらえたみたいだからいいけど。
「飲み物取りに行くけど、なんかいる?」
氷だけになったグラスを持って立ち上がった。見れば彼のグラスも空になっていたし、さっきの罪滅ぼしじゃあないけど、せっかくだからね。まぁ彼が飲む物なんて決まってるけど。
「…コーヒー」
「アイス?ホット?」
「アイスで」
「オッケー」
差し出されたグラスを受け取りながらやっぱりと思い、ドリンクバーのコーナーに向かった。
「…そういえば」
「うん?」
「こんな夜中によく出れたな(…呼び出した俺が言えたことじゃないけど)」
「あぁ。お父さんは朝までぐっすりだし、お母さんはどっか行っちゃってるからこっそり出てきた」
「そうか…」
「ま、バレないよ!」
「……」
「あ、パトカー通った」
「…よく補導されなかったな」
「え? 私? そんな幼い?」
「幼いってか、外見年齢と実際年齢がぴったりな奴も珍しいなと」
「いい事じゃん! …そっちはまた年齢不詳な格好して、顔もだけど」
「普通だろ」
「いやいやいや。一体ソレで何人の女の子をひっかけたのやら」
「さあ?」
「わー数えてもないの?」
「数えるもんでもないだろ」
「つか、数えれないくらいなんでしょ」
「…向こうが勝手に寄ってくるだけだし」
「うーわー」
「ちょっと顔がいいからってなんでみんな騙されちゃうんだろーねー」
「俺が知るか」
「こんなに性格暗いのにね」
「…本人前にして言うことじゃない」
「あはは」
ぽつりぽつりと話すのはどうでもいいような事ばかりだけど、悪いとは思わない。沈黙が流れて、また思い出しみたいに話して、その繰り返し。
「あ、空が白い」
街が街灯を必要としなくなり出した頃、断片的に話された事をつなぎ合わせてやっと彼に起こった事が分かってきた。
「…朝だな」
昨日の夜、例によって例のごとく、女の子と夜遊びをしていた彼は面倒事に巻き込まれそうになってとんずらしたらしい。
「てか、お腹減らない?」
だから気分が削がれて家に帰る事にした。しかし家に入ってみたら、彼が苦手とする父親がいたそうで。しかも女連れ。
「むしろ眠い」
父親がそういう事をするのは、それが初めてではないらしく。その事について彼は何も言わなかったけど、多分、不快感が拭えなくて、苛立ちが治まらなくて、家を出たんだろうな。そんな顔をしていたから。あくまで多分、だけど。
「眠気はまだ来ないし、なんか食べたいな。…すいませーん、メニューくださーい」
「元気だな…」
「ここの朝ご飯美味しいんだよ。なに食べる?」
「だから腹減ってないって」
メニューから目線を上げると眠そうな彼と目があった。眠くてだるくて、私にあきれてるって言う顔をされた。
そこには夜にあった不快そうな表情は無かった。嫌悪感もどこかに置いてこれたみたいで、よかったって、ただ、よかったなって思った。
20110220
20120331 加筆訂正
高校2年の夏頃。easeと、ある意味で対のような話。アップし忘れてたなんてそんなまさかー(´-ω-`)