「ピアス開けるのって自傷らしいよ?」
「………イヤミ?」


すでに何個あるのか分からないくらいあるピアスホールがまた増えようとしていたから、何で知ったかも忘れてしまった情報を教えてあげた。穴を開ける箇所を消毒していた彼は数秒、手を止めて私を睨んできた。


「そんなんじゃないよ」
「なら何?」
「んーただの情報提供?」


なんだソレ、と眉をひそめる彼にピアッサーを渡した。薬局とかに売ってる安いヤツ。可愛くもカッコ良くもない、シンプルな形。

ピアス自体にはそんなに否定的な感情はない。むしろ、出来るならやってみたいと思ってるし。ちょっと怖くてなかなか手が出ないだけで。

ただ、ただなんだろう。なんて言うか、ひとつふたつならオシャレって感じだけど、これだけ沢山あると、痛そうに、思えるんだ。

いくつも穴が開いてる彼の耳を見て、なんとなくそう思った。普段はキレイにピアスが付けられているから、何もないと余計に変な感じ。

つらつらと1人で考えてる間も彼は準備を進めていた。パッケージからピアッサーを取り出し、そのまま右耳にあてた。


「冷やさないの?」
「あぁ」
「痛くない?」
「慣れた」
「…ふーん」
「何?」


鏡で位置を確かめているから目線は合わない。正面に座っていたって視界には入らない。


「慣れるモノ?痛いのに?」
「大して痛くないし」
「へぇー」


テキトーな相づちに呆れたため息で返されてしまった。信じてないワケじゃないんだけどな。

痛くない、のは、痛みに鈍感になってしまったからなんじゃないの?

聞こうとして、カシン、乾いた音に遮られてしまった。音につられて見れば、彼の耳には真新しいピアスが付いていた。

鈍く光るシルバーはあまり彼に似合ってない。彼にはもっと光沢のハッキリした、それでいて主張をしない石が合ってると思うな。


「似合わないね」
「は?」


思ったことをそのまま言うと、彼はこれでもかってくらいに眉間にシワを作った。あ、誤解してる?


「そんなチープなピアス似合わないよ」


さっきのを補足して、用なしになったピアッサーを手に取った。彼はそっちか、と呟いてまた鏡を見た。

鏡ばっか見てる男ってなんかイヤ。これは私の偏見だけど、ナルシストみたいでちょっと引く。なのに、この目の前の男はそれが様になって見える(らしい)から女の子にモテモテだけど。世の中って不思議だ。


「…あ、」


ちょっと引き気味で見てたのに予想外の行動を取られて釘付けになってしまった、しかもマヌケな反応付きで。それが分かったんだろう彼は見下した嗤いをくれた。ムカつく。


「なんでピアス取っちゃうの?穴塞ぐの?」
「まさか。付け替えんだよ」
「なんで? あ、私が言ったから?」
「それこそ無いし」
「うわ、失礼!」
「こんなの付けてんの嫌だし。コレは開ける為だけだから」
「だからって……すんごい血出てるよ、怖ー」
「なら見んな」
「Tシャツにも付いてるよ?軽く返り血浴びたみたい」
「どうせ捨てるヤツだからいいんだよ」


そう言って彼は用意してあった他のピアスを付けた。タオルで拭われていく血が滲んでいた。

痛そう。見てるこっちのが痛い。何もない自分の耳を撫でたくなる。そんな事をしたって意味はないんだろうけど。

私がかなり渋い顔をしてたからなのか、彼がまた「だったら見るな」と言った。確かにその通りなんだけど、反らせないっていうか反らしたくない?恐い物見たさと言うか、毒食わらば皿まで、みたいな。


「恐いけどお化け屋敷入るじゃん?アレと一緒だよ」
「…ホント物好きだな」


一通り血を拭き終わった彼は私を見て言った。その耳にはキレイな赤い石のピアスが付いていた。さっきの血の赤とは全く違う、鮮やかで艶のある赤は彼によく似合っていた。


「キレイな石だね、似合ってるよ」
「そりゃどうも」
「赤だからルビー?」
「さあ?」
「知らないの?あ、もしかして貢ぎ物?」


彼が見知らぬキレイな女の人から何かを受け取るのを見たのは一度や二度ではない。ホストになったらナンバー1になれるんじゃ…あぁでも基本引きこもりだから無理か。


「…そういう言い方すんなよ」
「否定しないってことはそうなんだ。みんなよくやるねぇ、修羅場らないよう気を付けて!」


茶化すように親指を立てアドバイスをしてみた。所詮は他人事、端から見てる分には面白いからね。すると彼は分かり易く引きつった笑い方をした。


「忠告ドウモ」


全く感謝の気持ちがこもってない言葉にあえて笑顔で頷いた。そんな私を彼は視界から外して、もう1つのピアッサーに手を伸ばした。



din in my ears

カシン、とまた傷を作る音がした。



20110308


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