「いい天気だねー」
「そーだな」
「でも夕方から雨だって」
「そーかもな」



A woman's mind and winter wind change often




空が高く、雲は少ない。空気はほど良く澄んでいて過ごしやすい昼下がり、まさに秋晴れとはこんな日の事をいうんだろう

大学の裏庭であるこの場所は人気があまりない。イスに深く腰掛けて、このまま昼寝でもできたらサイコーだなと微睡んでいたら、


ジャンジャンジャカジャカ


その、全てをぶち壊す音が辺りに鳴り響いた

大音量で日本語ではない発音と甲高い歌声の着うたは、持ち主が最近ハマったという洋楽のモノだ。歌が悪いワケじゃないんだが、眠気を覚ますには十分だ。何より音がデカすぎる

苛立ち半分、呆れて半分で持ち主を見れば、今なお鳴り続けているのをキレイに無視して学食で頼んだオムライスをつついていた


「…ケータイ鳴ってんぞ」
「知ってる」
「なら出ろよ」


その着信の長さからいって、電話だろうに。わざわざテーブルの上に置いてるクセになんで出ない?


「出たら意味ないの」
「は?」
「今、ケンカ中」
「…あぁ。相手は彼氏か?」
「そっ!今回は許してあげない!」


3分の2になったオムライスにスプーンを突き刺しながら言う奴は、相当おかんむりらしい。てか、別に許す許さないはどうでもいいけど


「だったら電源切れば?」


ちなみに忠告ではなく、ただ俺が煩いと思うからだ。留守電設定にもされてないのか、まだ鳴ってるし


「それはダメ」
「なんで」
「電源切ったら強行手段に出られちゃうもん」
「…」


つまり、直接会いに来ると。でも会いたくはないから延々と鳴らし続けるってか
くだらない、根気比べかよ


「だったらせめてマナーにしろよ。煩いから」
「それもダメなの」
「…なんで」
「今日ね、キコちゃんと遊ぶの。覚えてる?キコちゃん」
「あー、高校ん時のクラスは違ったけどやたら仲良かった?」
「そう。で、久々に遊ぼうってなったんだけど、時間も場所も決めてないの。だからマナーにして気付かなかったサイアクでしょ?」
「………」


俺は今サイアクだけどな。そう思って、言おうとして止めた。どうせ通じないし。つーか、マナーモードだと気付かないってどうなんだ

内心でグチってると、やっと音が止まった。ケータイを見れば大人しくテーブルに置かれていた、まるでさっきまで騒いでたのがウソみたいに


「…こんなに電話するならやらなきゃいいのに」
「なにを?」


小さく呟かれて、訊くつもりはなかったのに条件反射でつい、そう声をかけてしまった。後悔しなくもないが、オムライスがぐちゃぐちゃになっていくのを止めれたから、まぁ良しとする

向かいに座る相手はスプーンを置いて頬杖をつき、空いてる手でケータイを持ち上げた


「浮気」
「…されたのか?」
「多分ね」


端的に発せられた言葉から、相手がよっぽど落ち込んでいるのが分かった


「この前ね、バイトだって言ってたのに元カノと会ってたみたいなの」
「…それで浮気って決めるのは早くないか?」


早とちりはコイツの専売特許のようなもので。それからケンカに発展する事は少なくない
けれど目線を落とした相手は、違うと首を振るった


「だって、やましい事がないなら素直に言えばいいと思わない?元カノに会うって!」
「…うーん、まぁ」
「しかも人にはやたらと男と話すなだの、2人きりになるなだの言うクセに!独占欲もほどほどにしろって感じ!」
「…前に、ヤキモチやきで可愛いとかなんとか言ってなかったか?」


正しくは『彼ったらね、すごいヤキモチやきでね他の男と話すなって言うの!そんなところも可愛いんだけどね!だから当当分連絡できないから!ごめんね!』だ。しかも笑顔で周りにピンクなオーラまでまとって


「アレはアレ、コレはコレ!」


けれど1ヶ月前は幸せそうにしてた相手は、そんなものどっかに置いてきたとばかり言い捨てた

そう、コイツと会うのは約1ヶ月ぶりだったりする


「ていうかね」
「ん?」
「ウソ吐かれたのがムカつくの!」


ダンっ!と、拳を机に打ち付けた
鈍く響いた音に、痛そうだなぁと頭の片隅で思った


「そういえばウソ、嫌いだったな」
「うん、嫌い」


それで今日はいつもより荒れてるんだろう

例えば、イタズラで吐くウソや人の為に吐くウソであればいいらしいが、こんな風に自分の為にだけ吐くようなウソは嫌いだと、いつか言っていた

その言葉を補足するかのように続けた


「ウソを吐かれると、今までのも全部、ウソに思えちゃうんだもん」
「……」
「それに…これから先もまた、ウソを吐かれるんじゃないかって…」


疑いたくないのに疑っちゃう、そう消えそうな声で言った

人見知りするクセにすぐ一目惚れして、積極的なんだかそうじゃないんだよく分からない行動力だけはあって、でもだからって遊びなんかじゃない。来るもの拒まず去るもの追わずの俺と違って、いつも真剣でまっすぐで、だからこそ傷付きやすい

そんなバカが俺はどうしてか嫌いではなかった


「また、海にでも連れてってやるよ」
「…なにそれ。まだフラれてないんだけど!ていうか私が振るかもじゃん!」
「ガンバレ」
「うわー棒読みー」


慰めのようで慰めじゃない言葉だったけれど、落ち込み気味の相手を笑わせることはできたみたいだ

くすくすと笑って、またオムライスを食べ始めた相手を何とはなしに見ていると、ケータイがさっきとは違う曲で鳴り出した


「あ!キコちゃんだ!」


着信音を個人設定にしているのか、音を聞いただけでそう言った。今回はメールだったらしく、1回鳴るとすぐに静かになった
ケータイを手に取って、メールを読んでいるその表情は嬉しそうだ


「夕方から遊べるって!ヤッタ!」
「よかったな」
「うん!あ、一緒に来る?」


笑顔でいい事思い付いたとばかりにこっちを見られたが、その手には乗らない


「行かない」
「えーなんでよ?」
「どうせアッシーにされるのがオチだろ」
「女の子2人で心配じゃないの?」


上目使いで見てくる様は、一見(コイツをよく知らない人間が見れば)可愛く見えるかもしれない

が、今更可愛い子ぶったって遅いつーの

それに心配するような時間帯じゃなければ、そんな間柄でもない。呆れ顔で睨めばノリが悪いと言い返された


「だいたい心配なら遊び行かないだろ」
「…それもそうだね。まぁいいや!久々に女の子だけで遊びまくるから!」
「ほどほどにしろよ」


と、言ったところでどうしようと何でもいいけど。もう成人なんだし自己責任だろ

ぼんやりと考えて、缶コーヒーを飲んでいると、ケータイをカチカチと操作していた奴が突然声を上げた


「よし!今回は見逃してあげよう!」
「…なにを」
「ん?彼のこと」
「は、」


さっきまで絶対に許さないとか言ってなかったか?


「…なんでまたそんな気が変わったんだ?」
「んー、なんとなく!」
「なんとなく…」
「今回だけは許してあげようと思って」
「あぁそう」


あまりにもはっきり言うものだから呆れてしまう。心変わり早過ぎだろ


「久しぶりに一緒にご飯食べれたし、夕方からはキコちゃんと遊べるし。なんかスッキリって感じ!」
「…グチるだけグチって憂さ晴らししたってか」
「そうかも」


満面の笑みを向けられて、ありがとうとまで言われたらさすがに何も返せなかった

利用されたようでどこか釈然としないが、コイツにそんなつもりはないだろう。もしそうだとしても、グチられただけだし大したことではない

そう思えてしまうのが嫌だったりするんだけれど


「あ、ねえ!そっちは彼女さんと仲良くしてんの?一緒にいるトコ見たよー超美人なお姉さまっ」
「お姉さま?…あぁ、別に普通」
「普通って、つまんない!年上の美人なお姉さまとなんてどこで知り合うの?ナンパ?逆ナン?」
「……そーゆー話、好きだよなー」
「うん!」


チャイムが鳴るまで続くだろう質問に、小さくため息を吐いた


結局、諦めるのはいつだってこっちだから




20110208


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -