「うーみだー!!」
「海デスネ」
「きゃっほー!海ー!風強っ!波高っ!」
「つーか、暗い」
「あーははははー!」
「…」



There are other fish in the sea




夕飯を食べ、風呂にも入り、さて寝るかと電気を消そうと立ち上がった瞬間、鳴り響いたケータイの呼び出し音。表示された名前にため息ひとつ零してケータイを手にした

案の定と言うかなんと言うか、「今すぐコンビニまで来て」と、非常識極まりない要求をされた。今からか、と思ったが相手の声がどことなくしおれていて、すでにコンビニにいると言われたら無視する事も出来なかった。仕方なしにコンビニまで車を走らせた

そして顔を合わせた途端、「私の言う通りに車を進めて」と助手席に乗り込まれた。2、3文句を言いつつも車を走り出した。なんだかんだで小一時間ドライブして着いたのが、海、だった

いや、まぁ途中から薄々気付いてたけどさ


「なぜ海…」
「いやっほー!!」


俺の疑問をスルーして走り回ってるアホ。ほぼ真夜中と言える時間なのにやたら元気だ。あぁ、アイツは夜行性だったな。こっちは朝型だっつうのに…眠い


「波と追いかけっこー!」


叫んでる通りに引いては返す波を追いかけてる

…なんて言うか、キチガイに見える。あのテンションには付いていけない。アレでしらふなんだか怖い

やる事もないから砂浜に落ちてた流木に座った。そして「運転手ありがと!」と言って渡されたぬるい缶コーヒーに口を付けた。おそらく(絶対)コレで車を出したのをチャラにする気だろう

そのちゃっかり者は、一際大きな波から全力で逃げ出して、そのスピードのまま俺の前まで来た。だいぶ息切れしてるみたいだ


「ああぁー疲れた!」
「あんだけ走ればな」
「私にもコーヒーちょうだい!」
「自分の買わなかったのかよ」
「うん」
「…。ほら」
「やった!ありがと」
「ドウイタシマシテ」


苦ーいと顔を歪ませて飲んでから砂浜に座り込んだ。って、そのまま座んな。服が汚れる、と言ったって今更だった。べったり座ってやがる。…車乗る前に目一杯払ってやる


「苦い苦ーい!」
「お子さまめ」
「なにをー!私のがお姉さんなんだよ!」
「っても2ヶ月だけだろ」
「2ヶ月でも!」


もう要らないと渡された缶コーヒーを受け取った

つーか、ほとんど飲んでんじゃん

呆れながらも残りの一口を流し込んだ。そのまま上を見上げると、満天とまではいかない星空があった。辺りが暗いせいか街中で見るよりかは星が多い気がする

俺につられたのか、斜め前で調子外れな鼻歌を歌っていたヤツも空を見上げた


「おぉ!星がキラキラ!よし、キラキラ星歌うよ!」
「…」
「さん、はいっキーラーキーラーひーかーるー」
「…」
「って歌わないの!?」
「歌うと思うのか?」
「ノリが悪い!」
「悪くて結構」
「もーつまんなーい」


不満そうな口調のわりには諦めはもうついてるようで、すぐに機嫌良くキラキラ星を歌い出した。しかもかなり流暢な英語で


Twinkle twinkle little star,
How I wonder what you are !
Up above the world so high,
Like a diamond in the sky.
Twinkle twinkle little star,
How I wonder what you are !



そういえばコイツ、英語は無駄にうまかったっけな。他は全滅だったけど

繰り返し、繰り返し歌われるそれ。波の音と相俟って不思議な合奏となっている。なんで鼻歌はヘタクソなのに英語の歌は上手いんだろう。絶対に言ってやらないけど

そうして幾度目かのあと、波の音だけになっていた。空に向かっていた目も、今は海を捉えていた。唇を噛んで何かに堪えてるみたいだ。目に見えて落ち込んでいるのが分かる、と言うか、今までがただの空元気だったんだろうけど

言いたい事があるならさっさと言えばいいのに。ヘンな所で遠慮をするんだからヘンなヤツだ

それでも俺はそのヘンなヤツを放ってはおけないんだから、どうしようもない


「で?今度は何?」
「何って?」
「彼氏に振られたのか、それとも告って振られた?あぁ、彼氏はいないんだったな」


なら後者か、と言えば分かりやすいくらい肩を震わせた。それから、ギギギと効果音が付きそうな動作で振り向いた


「なっなななな、なぜそれをッ!?」
「お前が海来たがる時は必ず振られた時だからな」
「え。……えっ!?そうだっけ!?」
「そうだよ。ったく、毎度毎度付き合わせやがって」
「あわばばば」


どもりまくりなヤツを余所に、毒を吐くもキャパオーバーのせいで聞こえてないようだ。コレが正常になるのを待ってたら夜が明けてしまう


「まぁ、それは置いとけ」
「うっうん」
「で、実際どうなんだ?」
「あーうー…告って、フラれ、た」


ぽつり、ぽつり、と始まった言葉はさっきと同じように波の音と上手い具合に混ざっていった


「ゴトー君ね、スッゴく格好よくてさわやかで優しくて」
「誰だよ、ゴトー」
「バイト先の後輩君。で、背も高くて気が利いてよくおしゃべりしてたの」
「まだバイトやってんの?」
「ううん、高校の時の。だから忘れてたんだけどね」
「忘れてたのかよ」
「そうなの、忘れてたんだよ。でもこの前、偶然会って…なんやかんやあって」
「今、説明めんどくなったんだろ」
「てへっ」
「笑って誤魔化すな。…まぁいいか、んで?」
「で、遊び行こうってなって、イイ感じじゃん!って思って勢いよく告ってみたの。でも、フラれちゃった」
「遊びって2人で?」
「ううん、大勢でサッカーやったよ。女子チームと男子チームに分かれて、ばっちり勝ったよ。なのに、フラれた!」
「…」
「うぅ、うわーん!」


ツッコミ所満載なのは、まぁ、いつもだからいいとして(放置決定)

子どもみたいに泣くヤツに、声もかけずに持って来ていたタオルを渡した。そうすれば、泣きながら受け取るからタオルはその使命を存分に発揮するだろう

あとは治まるのを待つだけ、わんわん泣く姿を視界の端に捉えて





泣き声とさざ波の音と、それから


Twinkle twinkle little star,
How I wonder what you are.



それから、小さなメロディーと


不思議な合奏は
夜深くまで続いた



Twinkle twinkle little star,
How I wonder what you are.




20101008


Twinkle twinkle little star
 by June Taylor

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