「「寒いな(ね)」」

「「……」」




with one voice




5時のチャイムが鳴って、カラスがそれに競うように鳴いて、一番星が煌めいて。北風がスカートをはためかせ、足から冷たさが登ってきて思わず溢した言葉が隣の彼と被った。


「ハモんなよ」
「だって寒いし」


彼とは時々、こういう事がある。嗜好も趣味も全然違うのに、ふとした何気ない言葉を同じタイミングで言ってしまう。…あまり、ってか全く嬉しくないけれど。

相手もそうなのだろう、眉間のシワが酷い。本人を前に嫌なヤツだ。


「ねー、寒い」


なんとかしてよ、マフラーに顔を埋めて言う。黒のダウンを着込んだ彼の首には何もなく、見てて寒い。でもそれを言うと、「そっちの素足のが寒い」って返されるだろうけど。


「走れば?」
「ヤダ、疲れる。ホッカイロとか持ってないの?」
「ないし、持ってたとしてもお前にはやらない」
「うっわ、心狭い!」
「お前に言われたくない」
「何それ、ムカつく」


互いが喋るたびに白い息があがる。それが余計に寒々しくて体が震えた。こういう日は鍋だよね、コタツに入って鍋食べてミカン食べて寝る、最高!


「そう言えばあんたのとこ、コタツは出したの?」
「…なんで」
「だって寒いじゃん」
「お前、ウチに来る気か」
「だって私の家はコタツないし」
「だからって来んな」


うん、まぁ断られるだろうとは思ってたけどね、いつもの事だし。でも今日は引けないなぁ、寒いしどうせ家帰っても1人だし。

そう結論付けて、大股で3歩進んで彼を追い越して振り向く。通せんぼみたいにして見上げた。消えない眉間のシワが逆におかしくなって笑ってしまう。


「いいじゃん、夕飯作ってあげるよ?」
「…いらない」
「鍋だよ、鍋! 1人じゃなかなか出来ないでしょ? あったまるよぉ」
「店に行きゃ食える」
「1人で行くの? あ、彼女と行くのか」
「今はいない。つーか、知ってんだろ」
「あっは! そうだっけね、この間ビンタされてたもんね、ウケる!」
「……」
「睨むなって! 材料調達も作るのも片付けもやってあげるからさ!」


爪先立ちをして、無理矢理に肩を組む。っていうか、体重を掛けてやった、おもいっきりね。でも、「重てぇよ!」って、瞬時にひっぺがされたけど。


「上から目線で言うな、ムカつく」


言って、彼は私の横をすり抜けた。置いて行かれないように私も続く。彼はただそれを黙認した。つまり、つまり?


「何鍋にするー?」
「しゃぶしゃぶ」
「肉しか食べない気でしょ。ったく、仕方ないなぁー…流行りのトマト鍋にするか」
「却下。お前、そんなのにしたらマジ出禁にすんぞ」
「美味しいのにぃ。いい加減野菜嫌い直したら?」
「無くても生きていけるし」
「そんなんだからすぐ風邪ひくんじゃないの」
「…で、結局どうすんだよ?」
「んーやっぱりキムチ鍋で! 寒いし」
「はいはい」


つまりは彼の家でお鍋を食べようって事だ。


「「あー寒っ」」

「「…」」

「だからハモんなよ」
「こっちのセリフだし」


20120123


雰囲気小説ですねーいつもの如く(´`) 2人は言葉が足りないと思います、よく喋るクセにねー


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