いつか、飛ぶんじゃないかと思った




As light as a feather




「ふぁあ、あ…おはよー」
「あくびしながらいうな」
「なんで?」
「移るから」
「え、あんた他人の感情を理解しようとすんの?」
「…お前は俺をなんだと思ってんだ」


朝から不愉快な奴を置いて歩く。もう学校も見えてくる距離だと言うのに他に生徒は見当たらないのは、そろそろ1限目が始まる時間だからだろう。詰まるところは遅刻だった

それにしても最悪だ

歩幅の違いで距離が開き、数歩後ろを歩く奴を横目で見る。もしこれで合わせて登校してきたとか勘繰られたらウザい。まぁクラスは違うからそんな風に思う奴は少ないだろうけど


「珍しいねぇ、そっちが遅刻なんて。…あ、もしや朝帰り?」


距離など気にしないとばかりに後ろから声がかかった

向こうは朝が苦手で遅刻をするのはわりとある(本人いわく、これでも頑張ってるらしいが)。逆にこっちは朝型だ。寝坊で遅刻なんて事はない


「ちょっとー聞こえてるでしょー?」「道端で騒ぐな」


放っておくといつまでもうるさいから、仕方なしに足を止めて振り返る。苛つくくらいのんびり歩いてきた奴は、またあくびをしながら言う


「せっかく偶然一緒に遅刻なんだから、この際一緒に行こうよ」
「めんどい」
「またそんな事言ってー朝帰りのくせにぃ」
「お前に関係ないし」
「まあねー」


伸びをしてやっと目が覚めつつある奴は、しつこいようでしつこくない。わりとドライだ


「それよりさ、聞いてよ。昨日の帰りに変なおじさんに話しかけられていきなり説教されたの」
「は?」
「や、私も意味分かんないんだけど、そんな格好してるからあーだこーだって言われてさ」
「へー」
「びっくりして逃げたけど、あとからムカついてきて。だって見ず知らずのおじさんに説教って、おかしくない? 言い返してやればよかった!」
「そーだな」


人見知りのクセに、と思っても口には出さない。今はムカついていても、どうせ2、3日したら笑い話になるんだろうし


「あ」
「あ? なに?」
「髪が跳ねてる」


少しだけ前に行った奴の後ろ髪が跳ねていた。サイドはストレートなのに、後ろの一房だけ曲がっているから目立つ


「えーウソ、どうしよう」
「縛れば?」
「なるほど。ゴム持ってない?」
「持ってると思うか?」
「だよね。私、持ってたかなー」


鞄の中を探すが見つからないのか、諦めてため息を吐いた


「いいや。誰かに借りよう」


分かりやすく他力本願な奴だ

正門が見えてきて、あと少しとなると奴の目線が遠くなった。何かを見定めるように目を細めた


「そういえばさ、あんた生活指導の田中に目、付けられてるんだっけ?」
「ん…あぁ」
「じゃあさー遅刻したとこなんか見つかったら?」
「ウザい」


遠回しな言い方に嫌な予感しかしない。話す間、動かなかった奴の視線の先を辿る


「げ…」
「アレ、田中だよねー。あ、こっち見た」


表情がなんとか分かる距離だから、田中が眉間にシワを寄せたのが見えた。それから肉まん1個まるまる入りそうな口で怒鳴ってこっちに向かって来てる事も

なんかもう、ホントめんどい


「なにボサッとしてんの。走るよ!」


ぐっと腕を引かれ、来た道を走る。それと同時に怒鳴り声のボリュームも増した


「うっわ、ヤバい! 超怒ってるし!」
「笑い事か」


笑いながら走って、さらに後ろを振り返ったりと器用な奴だ。勢い良く走るせいで髪が暴れている


「ははっ、先生ーごめんなさーい!」


走って飛んで、まるで…いやいや、無い。自分の考えを封じ込めるために思い切り足に力を入れた




「あははっ、あー走ったー! もう追って来てないみたいだよ」


裏門まで回って後ろを見ると誰もいなかった。大して走ってはいないからすぐに息は整った


「暑ーい!」
「ったく、走らせんなよ」
「じゃあ捕まって怒られた方がよかった?」


目線は下のクセに見下すように言った。ムカつくから睨んでやるが、奴は笑ったまま


「お前も目ぇ付けられたんじゃねぇの?」
「あー…私じゃありませんってシラ切る。どうせ顔覚えてないだろうし」


口角を高く上げて歯をむき出しにして笑う。俺がチクるとは考えもしないのか。まぁ、面倒だからやらないけど


「さて、2限目から頑張るかなー!」
「1限はサボるのか」
「だってもう始まっちゃってるでしょ? 途中から入るのってイヤじゃん。テキトーに見つからないところにいるよ。あんたは?」


鞄からケータイを取り出し、時間を確認してこっちを見た。首を斜めにして、結局、結べていない髪が流れた

他の女がやったら媚びるような仕草も奴だとただの動作なだけ。むしろ悪巧みに誘う、共犯者みたいに笑ってる

それに乗るか乗らないかは、俺次第で


「……あと30分もないだろ? 行くならコンビニか」


そう言ってやれば、面白いくらいに笑みを濃くした


「よし! じゃあコンビニ行こっ!」


決まったらすぐ行動な奴は、もう歩き出していた。その反動で跳ねた髪が羽みたいに見えた

きっと、コイツはどこまでも飛んで行くんだろう

何故だかそんな事を考えてしまって、それを振り払うように後に続いた


「何してんの? 早く行くよ」


足の遅い奴に追い付くのは簡単な筈だから



20110922


高校2年の夏終わり頃

ある方のある曲を聞いてたら思い付いたけど、出来上がったらだいぶ違うものになってたので曲名は言えません…



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