深い眠りに入りそうで入れない、倦怠感。意識は起きてるのに身体は眠っているような、もしくはその逆か
どちらにしろ不覚だ。アイツの前で眠ろうだなんて、不覚以外の何物でもない
そう思って、分かっているのに起き上がれないのは何故だろう
取り留めもなく考えていると声が聞こえた
「…ね、怖いもの ってある?」
眠っている(半分だけど)人間に話しかけるなんてバカだ。それより早く課題を終わらせろ
思っても声は出ないし顔も上げられない
アイツの声は続く。淡々と、淡々と。語りかけると言うより、溢れた言葉が零れ落ちるようだった
「もしあんたが死んだら、やっぱり泣くと思うよ」
莫迦だ
俺のために、誰かのために泣くなんて愚かだ。俺にしてみたらそんなの偽善だ。鬱陶しい
「一生に一度くらい、あんたのために泣いてあげるよ」
莫迦だと思った。涙なんて、特に女のさめざめとした泣き方は嫌いだ。鬱陶しいだけだと思った
けれど俺は知っている。アイツの泣き方がさめざめとしたものではなく、綺麗な泣き方でもない事を。涙も鼻水も喚き声すら一緒くたで、ヒドい泣き方をするんだ
「あんたがいなくなった後なら文句言われなくてすむだろうし」
苦笑まじりの声にアイツがどんな顔をしているか想像できてしまった。どうせ茶化してふざけた顔だろう
「………さて、もう一息頑張ろっかな。クレープのために!」
莫迦だと思う
俺のために泣くというアイツを、アイツの泣き顔を思い浮かべて安堵してしまった自分を。心底、莫迦だと思った
それらを全部をなかった事にしたくて、俺は深い眠りへと落ちた