それは、日常の一部で

当たり前に繰り返され

少しずつ当然を崩して



静かに異質を組み込む







「きぃちゃーん、次なんの授業だっけー?」
「数学」

眠たげなきぃちゃんの肩を揺すって声をかけれればぽつりと返された
人によってはこんな返答をされたら、不機嫌か嫌われてるかと思うかもしれない。けれど、きぃちゃんはいつもこんな感じだから私が動じる事はない

「数多を占める学識(略して数学)かぁー私苦手だよー」
「ん」

相槌が短いのも気にしない。だってソレがきぃちゃんだし

「課題は無いよねー?」
「無い」
「良かったー! ありがと、きぃちゃん」

きぃちゃんは頬杖をついて窓の外を見ていた顔を私の方に向けた。何を言う訳ではないけど、その顔がどう致しまして、と言っているようでなんだか嬉しくなった(無表情なのは微塵も変わってないけどね)
私も自分の席(きぃちゃんの右隣)に着こうとして椅子を引いたけど座る事は出来なかった

「キヅル君、ユワちゃーん。ちょっといいかな」

教室の出入り口でマコっち先生が私たちに手招きをしていたから。あと5分もしないで授業が始まるのに呼び出しって事は、アレしかない

「きぃちゃん」

なんとなく呼んでしまった。きぃちゃんはいつもなら澄んでまっすぐな目を険しくさせて、マコっち先生を見ていた(まぁ、きぃちゃんは大抵マコっち先生の事睨んでるけどね)

「行こう」
「うん」

一瞬、目を閉じて立ち上がったきぃちゃんは無表情に戻っていた。マコっち先生の所に行ってそのまま廊下に出た

「悪いねぇ、2人とも」
「あんたの為じゃない」
「…キヅル君は相変わらずドライだね」

普段みたいにおちゃらけてるけどマコっち先生が気を使ってくれてるのが分かった。階段まで来て立ち止まりマコっち先生は眉を下げて苦笑った

「陸奥にヤツらが出た。被害状況は犠牲者6人、負傷者14人、ビル一棟が半壊しているそうだ。なるべく早く‐」
「分かった」

きぃちゃんは先生の言葉を遮り、先に階段を下って行った

「…ツレナイなぁ」
「いつもの事じゃあないですかー」
「ちょっ、ユワちゃんまで…先生泣くよ?」

あからさまに肩を落とすマコっち先生になんだか笑えてしまった

「私も行ーってきまーす」
「ユワちゃん、キヅル君、気を付けてね」

先生に手を振り、きぃちゃんの後を追う。そんな私にきぃちゃんは促すように一瞥だけくれたから足を早めた。だから、先生の声は私たちには聞こえなかった

「…ごめんね」

懺悔のように呟くマコっち先生の声は、聞こえなかった


救世主、出動




20100301


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