しとしと しとしと
降り続ける雨は、きっと
昨夜から続く雨は激しさを伴わず、ただ、止むことをしらない。窓ガラスに音もなく触れては滴り落ちる、その繰り返し
「雨が降ってるとー海の中にいるみたいじゃーなぁい?」
大人しく窓の外を見てると思っていたら不可思議な発言。やっぱりキヅルにはユワの思考回路は理解出来ないと感じた
けれども理解出来ないのは何もユワの思考に限られてはいない、キヅルにとって自分以外は理解の範疇から外れている。だからあまり気にする事ではなかった
そもそもキヅルが関心を示すものは極僅かだ。その狭まれた中にユワは入っていた(関心、と言うと語弊があるかもしれないが)。そうでなければ会話は成立しないし、傍にいる事さえ許されないだろう
ただ、キヅルがユワの言葉を無視する事はなかった
「…海に、入った事がないから分からない」
未だに外を見ているユワの横顔を眺めながら言った。返事が返ってくるとユワは私もだよ、とキヅルに向かって笑った
「私もー海になんて入った事ないよー」
「なら、なんで?」
「んー。なんとなーく?」
ユワは笑って、視線をキヅルからまた窓に、空に向けた。それはユワにしては珍しく苦々しい笑い方だと思った
「でも、きっとこんな風に海の中ってー静かな気がするのー」
空を、雨粒を見る目は、透明だ
何をみているのだろう
「強い雨の時じゃぁなくってねー? 弱々しくって、柔らかくって、ふわふわーって漂えるみたいな、ね?」
しとしと しとしと
降り続ける雨は、
「静かであーったかくて、優しい」
すべてを、何もかもを
包み込む雨は、
「うん。やっぱり海の中みたーい」
ね? と首を斜めにして、ふわりと白い髪が靡いて、まるで一枚の絵画みたいだ。キヅルは頷きながら、訳も分からず悲しくなった
しとしと しとしと
降り続ける雨は、きっと
「あぁ、それにきぃちゃんみたいだねー」
やっと、らしい笑顔をしたユワに安心して、思いもしない言葉に驚いて。キヅルは小さく口元を上げた
「ねぇきぃちゃん。あめ玉食べるー?」
ユワは小さく白い手のひらにまるいあめ玉を乗せて差し出した
きっとそれは、キミと同じように
深く深く 果てのない、光
20100930