白いパレットに白い絵の具を出した

白に白

他の色はなるべく使わなかった。使うとしても筆に直接つけたり、紙につけたりした

だから私のパレットはいつまで経っても白いまま

真っ白なパレットだった






夏休みが明けてしまった。

またあの多量の課題をやるのは嫌だと思って学校に来たはいいけど、どうにも授業を受ける気にならない。

サボってしまえと1人で教室を出た。

向かったのは校舎裏。木や高い塀の陰に隠れ、1日中陽が当たらないここはじめじめしているが風通りはそれなりにあって涼しい。

なにより明るさのないこの場所は暗鬱としているせいか人を寄せ付けない雰囲気がある。

そこに上がる2つの白い煙り。

私は吸ってない。つまり私以外にも人がいるっていう事。


「次、宮田だぞ」

「……」

なんで私はまたこの2人と連んでんだか。

「みやたんってポーカーヘイスで次何出すか全然わかんねえよなぁ」

ヘイスでなく、フェイスだ。

「宮田、赤だ。それか9なら何色でもいいぞ」

ルールくらい知ってるよ。

「ワイルドもありだぞ」

「……」


ルールを知らないワケでも悩んでいたんでもない。ただどうやったら早くこの遊びを終わらせれるかを考えていただけ。

普段、人が近寄らないハズの場所に3人もいる事すら変なのに、私と加納ちゃんとその彼氏(名前忘れた)でなぜかウノをやってる。

手に数枚のカードを持って(2人はオプションにくわえタバコ)、軽く輪になるように地面に座ってる。

風上だから煙りは来ないし涼しい。

2人が気にして座ったのではなく、どうせ偶然だろうけど。


色々諦めて赤の1を出した。汚れるのを避けるために帽子の中にカードがある。

「じゃーオレは黄色の1!」

「黄色の7!」

わざわざ言わなくていいと思う。

2人の吐き出す白い煙りを見ながらスキップを出した。


「ちょっ、みやたんスキップ出しすぎじゃね?! さっきもオレ飛ばされたんだけど!」

1回しか出してないけど。

「さすが宮田ー」

悲痛そうな声とニヤニヤと笑う声。加納ちゃんは楽しそうなのに対してその彼氏は不満そう。


あれでも、確か2人って別れたんじゃなかったっけ。

そうだ、夏休みが半分過ぎた頃にケータイが鳴り響いて、あんまりにもしつこいから出て見れば加納ちゃんのマシンガントークを浴びせられたんだ。

彼氏とケンカして(かなりくだらない理由だった気がする)、それで電話をかけてきた。

その時に彼氏と別れたと言っていた。

そのハズなのに2人は変わらないように見える。


「2人って別れたんじゃなかったの?」

私の疑問に2人は声を合わせて答える。

「「別れてたぞ」」

「……」


爽やかな笑顔で言われた。

ウノはそのまま続く。加納ちゃんは出せるカードがなくてヤマから数枚引いた。

「…そのわりには仲良いね」

「まあね、ヨリ戻したから」

やっと黄色の4を引き出せて、加納ちゃんはくわえていたタバコを手に煙りを吐く。


「珍しいね、加納ちゃん」

「そお?」

そうだよ、声に出さないで頷く。


加納ちゃんと出会って半年位だけど、加納ちゃんの彼氏は片手じゃ足りない。だいたいが1〜2週間で別れてたから。(なぜかいちいち加納ちゃんから報告されたから確かだ。)

それに1度別れたらヨリを戻すなんてなかった、今までは。なんでかは知らないけど、すぐに新しい人と付き合っていたからかもしれない。

けれど今回は2ヶ月も続いてるし、別れたのにヨリ戻してるし。やっぱり珍しいと思う。


ワイルドを出して青を指定した。

「げ、マジで青? 変えない?」

加納ちゃんの彼氏は分かりやすく顔を歪めた。

身長差的に見下ろされてるのに上目使いってどうなんだろう。第一、男がやっても可愛らしさの欠片もない。

情けない男を一瞥して告げる。

「青」

「ぷっあははは! 観念して4枚引け、東条」

「ちぇー」

容赦なしに言い切った私に加納ちゃんは爆笑して、東条の肩を叩いていた。


加納ちゃんは彼氏なしじゃ生きていけないと豪語している。彼氏というブランドを持っていないと不安だと言っていた。

ブランド、つまり物って事。だから新しければ新しい程いいし、すぐに飽きもしてしまう。加納ちゃんにとってはそういう物らしい。


慎重にカードを引いてる男を見る。どんな風に引いたって同じなんだから早く引けばいいのに。

人工的な赤い髪、耳にも鼻にも口にまでもピアスを付けて、半分もない眉、つり上がった目からは想像できない人好きな笑い方。これが今の加納ちゃんの彼氏。

あまりにも慎重で、加納ちゃんにちょっかいを出されて眉間にシワを寄せている。

でも、2人でじゃれついているように見えた。

もしかしたら愛着が湧いたのかもしれない。加納ちゃんはすごく楽しそうに笑ってる。


手に溢れんばかりのカードを持って真剣に悩み出した彼氏を横目に加納ちゃんが口を開く。

「そうだ、宮田。告んなよ」

「…誰に、なにを?」

「宮田の好きな男に、宮田の気持ちを」

「なんで」


気持ちを伝えるつもりはないと前に言ったのに。一瞬忘れたのかと思ったけど、加納ちゃんの表情を見て察する。

加納ちゃんはわざと言ってきたんだ。なぜなら、

「振られればいいと思ってるんでしょ?」

怒りよりも呆れてしまいながら確認するように聞けば深く頷かれた。どっかの悪女みたいな笑い方付きで。


「だって宮田の泣き顔見てみたいし」

加納ちゃんのクリムゾン色の唇がキレイに上がる。

「失恋位じゃ泣かないよ」

「でもカナシムだろ? あたしがグチ聞いてやるからさ」

「てか、失恋前提って酷くない?」

「望み薄みたいなこと言ってじゃん。それとも進展あり?」

「それはないけど」


2人で言い合う間も悩み続けている加納ちゃんの彼氏には聞こえてないようだ。その目で見られたら竦み上がりそうな鋭さでカードを見てる。


「だったら告れって。どう転ぶかなんて誰にもわからないぞ?」

悪女は赤い林檎をちらつかせるようにのたまった。

私はそれを黙殺する。


告白する気はない。告白したとして、残るのは気まずさだけ。私を意識などしてくれないだろうし。されても嬉しくない。だってそれは気遣いだ、罪悪だ、責任だ。そんな事をされたら私はあの家には居れない。

だから言わない。


深く考え込んでいるうちに順番が回ってきていた。

「ほら、宮田の番」

加納ちゃんがしたり顔で言った。うまく乗せられたのかもしれない。

「みやたん、緑ある?」

いつの間にか青から緑に変わっていた。

左右でニヤニヤと笑う顔は造りは違えど種類は同じだ。まったく、腹立たしい。


「ないならヤマから引くんだ!」

さあ! とそれはそれはイイ笑顔だ。今までの仕返しだろう。加納ちゃんもやっぱり同じ。

私がぼうっとしている間に2人で結託したんだろう。むしろ、始めからかも。

けれどそう簡単に負けるワケにはいかない。


「…ない、なんていつ言った?」

静かに言えば2人の笑顔が固まった。

場にあるのは緑の7。

好都合だ。私は緑赤青の7を出した。







「ちょっ宮田、強すぎ!」
「マジかよ!」
「ちなみに、ウノね」
「「!?」」



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