「少年の指って何気に長いね」


細くてキレー、と言って聴き手は演奏者の右手を取った。


「…なんですか、突然」
「え? ー前から思ってたんだよ? ただ、なかなか言うタイミングがなかっただけで」
「そうですか」
「そうですよ」


聴き手は自分の左手と演奏者の右手とを合わせて、ほらやっぱり、と笑った。

演奏者の手は聴き手の手よりも一回り大きかった。骨ばった、長く細い指。この指がいつもキレイな音を奏でているのかと聴き手は不思議に思った。


「いいなぁ」
「何がです?」
「指。長くてキレーで、白い!」
「…嬉しくない」
「えー? なんで?」
「なんでって………白いとかキレイとか、誉め言葉じゃないですよ」
「そう? 私は言われたら嬉しいけどな」
「それは先輩が女性だからですよ」


そうかなぁ、と言って合わせていた手を離した。腕を伸ばし自分の手を眺めるが、やっぱり演奏者の指の方が長くて白くてキレイだと思った。


「少年のが手おっきいから、そのうち身長も越されちゃうのかなー」


正面に立つ演奏者は聴き手よりも目線が下だった。丁度、聴き手の目線に演奏者の頭があった。


「……イヤミですか?」
「え? なにが?」
「……(素か、それはそれで嫌だな。…でも)」
「少年?」
「…なんでもありません」
「そう?」


首を斜めにして見下げる聴き手を見て演奏者は思った。


(でも、いつか必ず追い越してやる)


その日から演奏者は牛乳をよく飲むようになったとかなってないとか。


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