伽さん宅の凍った湖、その後
コラボさせてもらいました!


with 思謳




「あ、そう言えば君、のたなさんとてんらいくんと同じ制服だね」


先輩は今思い出した、と言わんばかりの顔で他校生に話し掛けた。彼はそうだよと頷いた


「もしかしなくても友達?」
「まぁそういう括りに入るかな」
「いいなぁ、また会いたいな」
「先輩はあの2人が気に入ってるようだね」
「うん! だって可愛いもの」


初めて会ったようにはみえない程の話の弾みぶりだ。先輩はきっと人見知りなどしないのだろう

ピアノの横に立つ先輩と他校生、その身長差は理想的な高さ。少しだけ、本当の本当に少しだけムカつく


「君も、あの2人を覚えてるかい?」


表面上はにこやかに聞かれた。笑っている、のだけど、瞳は違う。探るようにこっちを見ている。最初から感じていたけど、見透かされてるみたいで居心地が悪い

なのに先輩は何も気付いてない顔で「もちろん覚えてるよね?」なんて、同意を求めてくるから面倒で仕方ない

無視してしまえば良いのに、先輩相手だとそれも出来なくて(他校生だけなら確実に無視してた)、ため息を吐き出して答える。そうしたら先輩の笑顔がより輝く事を僕は知っている


「…七夕の頃に来た2人ですよね」
「そうそう! のたなさんが色んな事教えてくれたんだよね」
「あぁ、なことがそんな事を言ってたな。慈草が雑学を披露してたって」
「そんな事ないよ! 難しくってよく分かんなかったけど、楽しかったし」


先輩は楽しそうに笑いかけた、僕ではなく他校生に。なんだろう、すごく胸がムカムカする。先輩を見ているとなのか、他校生をなのか。あぁ、2人共を見ているとか

だったら視界から外してしまおう。ピアノに集中してしまえば、耳障りな話し声も聞こえなくなるだろうし

笑い声も笑い顔も見たくなくて、僕はピアノを弾こうと鍵盤に両手を置いた。けれど、メロディも何も浮かばない。ピアノが弾けない。先輩の笑い声。他校生の声。音、音、音。様々な譜面を思い出すのに、どうしてもピアノが弾けない。僕はどうしたんだ?


「そう言えば、さっきの曲。どんな曲なんだい?」


1人、訳が分からなくなっていた僕に他校生が聞いてきた。聞かなくても知ってるんじゃないかと思わなくもないが、先輩が「なになに? なんか弾いてたの?私も聴きたい!」と、矢継ぎ早に言うから選択肢は1つになってしまった


「…リストの、ため息という曲です」
「ため息? どんな曲なの?」
「あまり有名ではありませんが、弾き手の技量が出やすい練習曲です」
「あんなに綺麗なのに練習曲なんだ?」
「へぇ! いいな、私も聴きたい!」


期待の眼差しで見られた。それはいつもの事、なんだけど。何故だろう、今日はいやに鼻につく。「俺ももう一度聴きたいな」と、他校生が先輩の隣りで笑う。先輩も笑っている

一言で笑顔とは言ってもこうも種類が違うものなんだな、とどこか頭の隅で思った。子どもみたいな笑顔と、大人の営業的な笑顔。どんな顔でいられようと、どうでも良かったのに

また視界を外してピアノを睨んで口を開く


「僕のピアノなんていらないんじゃないんですか」


2人で話している方が楽しいんじゃないか、とは言わない。それじゃあ僕が駄々をこねてるみたいで子どもっぽい。こんな感情いらない

あぁ、早くいなくなってくれたらいいのに


「どうしてそんな事言うの?」


驚きと動揺と、悲しさが滲んだ音がした

自分の事しか考えていなかった僕は、先輩がどんな顔をしているか全く見えていなかった


「私、なんかした?」


震える声に堪えきれず先輩を見て、後悔した。今、先輩をこんなにも悲しませているのは間違いなく僕だ


「せんぱ、い」
「私は少年のピアノ、聴きたいよ。そのために来たんだし」
「…その割には楽しそうに話してましたけど」


謝ってしまえばいいのに僕の口は言わなくていい事を言った。先輩の顔が険しくなる(悲しい顔よりはマシだけれど)

他校生は話に入ってくるつもりはないらしく、高みの見物をしていた


「え? 普通に話してただけだよ?」
「ソウデスカ」
「何その言い方? もしかしてそれで怒ってるの? なんで?」


ここまで鈍いのはどうなんだろう。いやでも、僕は別に怒ってなどいないけど

ただ他校生がやたらと面白そうに見てるのはムカつく。睨んだところで笑われて終わりだ。本当にムカつく


「あっ! 分かった!」


先輩の明るい声に他校生が目線をずらした。僕も先輩を見る。すごく、嬉しそうな顔をしていた。…何を分かったというんだか


「話に入れなくて怒ってたんでしょ? 別に仲間外れにしたんじゃないのに」


仕方ないなぁ、なんてお姉さん面された。ムカつく。そんな訳ないと反論しようとすると違うところから笑い声が聞こえてきた

見れば、他校生がキレイな顔をして笑っていた


「何、笑ってるんですか」
「面白いなーって思ってね」
「ね、そうなら早く言えばいいのにー」
「そうだね、素直すぎるのもそうでないのもなかなか興味深いものだ」
「…話、噛み合ってませんよ」


言ったところで笑って流されたけれど


「まぁ、とにかくだ。もう一度ピアノを弾いてはくれないかな? 少年くん」


優雅に諭されるようで気に食わないが、他校生の言葉の裏にもう先輩を悲しませたくないだろう、と言われた気がして

先輩と口論を続けるのは好ましくないと思っているのを、見破られていたのだろう。だからこその話題転換、むしろ話を戻したと言うべきか

数秒考えて(恐らくこの思考も見透かされてる)、ため息。先輩の期待感丸出しの顔と、他校生の満足そうな顔を交互に見て、またため息


「…一回だけですから」


思ったよりも低い声が出たけれど、2人の笑顔を引き出す事はできた。やっぱり全く種類の違う笑顔だけれど


「やった! ありがとう、少年!」
「良かったね」


それぞれが僕に向かって言った。前者は単純で分かりやすい感謝を、後者は複雑で分かりにくい賛辞を

何に対しての「良かったね」か、なんて。それは先輩が笑ってくれて、尚且つ僕が安堵した事に言ったんだろうから。本当にムカつく


「いいじゃないか。君はピアノ演奏者なんだろう?」


勝手に読み取らないでほしい


ため息
(その意味すらも彼には見抜かれているのだろう)


Un sospiro by Liszt

20120916


伽さんへ!
おめでとうございます&ありがとうございます(*´∇`*)


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