少年、留学中
練習中、サイレントモードにしていた携帯電話。着信を知らせるイルミネーションが点灯していた。手に取り確認すると、留守番電話が一件入っていた。名前はこの携帯電話に一番かけてくる彼女。再生。
「―――――」
耳にあてても声は聴こえてこない。彼女の事だ、イタズラかもしれない。そうも思ったけれど、かすかに何かが聴こえてきて耳を澄ます。
「―――――」
静かな音、何かが落ちる音、それからやっと聴こえる彼女の声。
「しょうねーん、聴こえたー? 初雪が降ったの! 今、すごく静かだからね、雪降る音が聴こえる気がして…。そしたら少年にも聴かせたくなったの」
ねぇ、聴こえた? そう言って笑う彼女の顔が目に浮かぶ。きっと降り出した雪に慌てて外に出たんだろう。十分な防寒もしないで、鼻を赤くしながら雪を見上げて。
「少年、そっちはどう? 寒い? ピアノの練習ばっかりしてないで、たまにはさんぽしてみると楽しい事あるかもよ」
茶化すような声に苦笑して、窓の外を見る。数分前までは全く興味がなかったのに、彼女に言われるとそれもいいかもしれないと思えてくるから不思議だ。
コートとマフラーを取ってドアに向かった。
「ね、一緒にさんぽしようよ?」
終わりを告げる発信音がして、一度携帯電話を耳から離す。防寒をきちんとして外に出た。アパートの外は予想以上の寒さで、思い付きを少しだけ後悔した。
けれど、出てしまってものは仕方ない。早歩きで進んで空を見た。どんより曇り空、雪は降っていない。でも、
「―――――」
彼女からの音を聴いて歩けば、楽しい気がするから。
演奏者が折り返し電話をしないのは向こうがまだ真夜中だからです。紳士!笑