「私、少年がすき、みたい」


小さな声はゆっくりと時間をかけて演奏者の胸に浸透した。


「せんぱい……本当、に…?」
「え…う、うん」
「もう一度、言ってください」
「むむむむ無理っ」


耳まで赤く染めた聴き手は楽譜で顔を隠した。言ってから急に恥ずかしくなったのだ。言葉にした事で余計に実感してしまった、自分は彼の事がすきなのだと。でも、だからといってこんな風に告白するつもりなんてなかったのに。演奏者の真摯な言葉に言わずにはいられなかったのかもしれない。こんなに恥ずかしい事態になるとは思っていなかったけれど。


「先輩」
「……」


柔らかい声が降ってきて、聴き手は身を固くした。

(恥ずかしい! なにコレ無理もう顔見れない逃げたい!)


「先輩、顔見せて」
「……」
「…。僕が無理やり向かせてあげましょうか?」
「っ! 意地悪!」


顔を隠していた楽譜を持つ手に触られて聴き手は勢いよく腕を下ろした。きっ、と睨むように見ても、赤い顔に少し潤んだ瞳ではあまり威力はなかった。


「先輩、顔が真っ赤ですよ」
「言わなくていいっ」
「かわいい」
「…っ、 だから!」


言い合って、けれど繋がった手は放れなかった。演奏者は嬉しそうに、本当に今までにないくらい嬉しそうに笑った。見ている聴き手まで嬉しくなるようで、恥ずかしくてたまらないのに憎めない。


「先輩」
「…なに」
「すきですよ」
「う、…そんっ、何回も言わなくていいから!」
「抱き締めていいですか?」
「んなっ! 聞かないでよ!」
「いいんですね」
「え、」


そして聴き手と演奏者の距離はゼロになった。

ドキドキと鳴る音が、自分のものなのか相手のものか分からないくらいで。それでも心地よいと感じた。聴き手は強張っていた体の力を抜いた。


「…待ってるよ」
「え?」
「少年のこと、待ってる」


演奏者の肩に頬を乗せて、聴き手は続けた。


「私、ちゃんと待ってるから」
「……」
「だから。ちゃんと迎えに来て」


ゆっくり、顔を上げた聴き手は演奏者に向かってはにかんだ。











はろー、少年!
久しぶりのお手紙だね。お元気ですか? 私は相変わらずです。って、メールとかしてるんだから知ってるか

最近は大学楽しいし、サークルも楽しいし、お付き合いという名の飲み会も楽しかったよ。あ、浮気なんかしてないから安心してね! むしろ少年こそ浮気しないでよ(笑)

少年がウィーンに行ってもう2ヶ月だよ。こっちはそろそろ秋の気配がしてるけどそっちはどうなんだろね? 日本よりも寒い? 風邪には十分に気をつけてね。ピアノの練習もいいけど、ちゃんと3食しっかり食べてあったかいお布団で寝るんだよ! 私、応援してるからね

それじゃあ今日はこの辺で。バーイ!

P.S.やっぱり春休みに少年のところに遊び行こうかな!







こんにちは、先輩
手紙ありがとうございます。ただ手紙が届く前に電話やメールしてたら意味ないと思います。でも手書きってなんか好きなんでまたください

学校楽しいみたいでよかったです。僕もだいぶ慣れてきました。メールでも書きましたが、課題の量がハンパじゃないです。だから浮気なんてする暇ないんで安心して

ウィーンは日本よりは寒いですが、まだそこまでではないんで大丈夫ですよ。先輩こそ面倒だとか言っていつまでも夏服ばっか着てないでくださいよ。もしも風邪ひいたら笑ってやりますから

それから、遊ぶのもいいけどちゃんと勉強した方がいいと思います。あとで泣くのは先輩です

では、また

P.S.春休みなら時間作れると思うんで、待ってます




3つのピアノの曲


(離れ離れは寂しいから、早く早く、君のピアノを近くで聴きたい)(どうしようもなく、貴女に逢いたい)




klaviersonate Nr.14 op.27 Nr.2 cis-moll "Quasi una Fantasia" by Beethoven
20110521


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