07 塗りすぎじゃないですか?


 
朝から母親に若干怒られながら起こされ用意をして玄関を出た瞬間テンションが下がる。

「ゲ、雨降ってる」

折角良い感じに髪の毛が纏まってるのに湿気で広がりそうだなって考えながら駅に着くと友子が既に待ってくれていた。

「おはよ」
「はよー!朝から雨とか最悪だわ」
「ほんとにねー。ローファーも濡れるしねー」

朝の通勤ラッシュ。いつものように友子と喋りながら降りる駅に着いた瞬間、友子がワザとらしく声を上げた。私的には出来れば触れて欲しくない話題。

「で?昨日のデートはどうだった?」
「いや、デートとかじゃないし…」
「えー?でも楽しかったんじゃないの?」
「まあ楽しかったのは楽しかったけどさ」
「じゃあ昔の気持ち戻ってきた?」
「それはないね!」
「ふーん…」

それ以上は何も聞いてこなくなったのでラッキーって思って校門を入った瞬間、ある事に気が付いた。ボソボソと聞こえる声に嫌な視線。周りを見てみると明らかに私達を中心に起こっていた。

「え、なにこれ」
「…あれじゃない?昨日ミヤアツとデートしたじゃん名前。昨日も話聞いてた人沢山居たっぽいし、そこから広がったんじゃない?バレー部休みの日、誰がミヤアツとデートするかって競争ヤバイらしいし」
「いや。何回も言うけどデートじゃないから!てかめっちゃ居心地悪いんですけど!」
「1年にしてファン多いからなーミヤアツ。可哀想だけども諦めるしかないんじゃない?」

ただでさえ朝から雨でテンション下がるのに、面倒くさい事に巻き込まれている気がする。嫌だなーって思いながら下駄箱をみるとスリッパがない。ご丁寧に誰が持って行ったようだ。

「まじかー。今でもこんな事する人いるんだ」
「ほんとによ…はあー、職員室行って来客用のスリッパ借りてくるわあ」

ため息を吐きながら職員室へ向かおうとした時、何かが足に引っかかり盛大にこけてしまった。そしてこけた先には何故が運悪く水浸しになっていた。慌てて友子が駆けつけてくるが、髪の毛から顔、シャツまで濡れてしまった。全身じゃないだけまだマシだったかなと思っていると、どこからか人が沢山出てきた。

「あー!ごめんねぇ?雨で汚れてたから掃除しようと思って水撒いてたんだけどぉ」

多分リーダー格であろう先輩がワザとらしく心配してくれる。明らかにワザとなんて直ぐに分かる。周りの取り巻きはクスクス笑っているから。てかそんな長い爪でほんとに掃除とか出来んのかよ。ワザとされている事に友子も分かったようでキレかけていた。変に何か言うとギャーギャー煩そうだし無視が一番かなあって濡れた頭でボーッと考える。

とりあえず服濡れて冷たいし、これ以上めんどくさくなられても困る。さっさとこの場から離れるのが良さそうだ。失礼します〜と軽く流しながらキレてる友子を連れて去ろうとした瞬間リーダー格の先輩がポツリ。

「ブスが侑狙ってんなよ」

それまで我慢していたが、その一言で無理だった。これまでどんな努力してきたか知らない奴に何故言われなきゃいけない訳!?てか、別に私は好き好んで侑と出かけた訳じゃないし?てか、やる事1つ1つがしょーもないんだよ、こいつ等!

「ブス?私が?せんぱ〜い、何言ってんですか?その目飾りですかあ〜!?あ!マスカラ塗りすぎて視界でも悪いんですかあ〜!?先輩も顔面、水浸しにしてあげましょうか?マスカラ取れて視界良くなるんじゃないですか?あっ、でも化けの皮も剥がれちゃいますね!」

さっきまでクスクス笑っていた先輩達は黙り、みるみる顔を赤くして震えている。その代わりに友子が隣でプッと吹き出していた。別にぶりっ子だの言われるのは別に気にはしない。どうでもいい。ただ、ブスだけは許せない。沢山努力して、挫けそうになった時もあったけど、努力した分今の自分に自信を持っている。

「私、先輩達みたいに暇じゃないんで。」

一言そう言って歩き出すと、それまで先輩達とのやり取りを見て笑っていた他の人達も気まずそうな表情をしている。校門を入ってからボソボソと聞こえてた声も消え、変に鎮まりかえっていた。

「ほんと強いねー名前って。てか中学ん時もミヤアツに言われた時そうやって言い返せば良かったじゃん」
「…あの時は自分に自信なかったし。てか、あんなに性格悪いと思わなかったの!!」

それは確かに!なんて笑いながらハンカチを貸してくれる友子にお礼を言いつつ職員室に来客用のスリッパを借りて保健室でタオルも借りて着替えさして貰った。友子に「お待たせ」と声をかけると「気にしなくてオッケー」と笑顔で言ってくれ一緒に教室に向かう。上はジャージ下は制服、そして来客用スリッパと変な格好の私を見た瞬間、クラスメイトは少しビックリして心配してくれたが私が大丈夫と答えると安堵の表情をしていた。借りたタオルで髪の毛を拭きながらコンパクトミラーで顔を見ると少し化粧がよれていた。軽く直そうとバックからポーチを取り出した時に豪快に教室の扉が開いた。

「おはようさ〜んってなんや名前、お前傘ささずに来たんか?アホやな〜!てかなんでスリッパ来客用なん?」

ご丁寧に全部いじってくれる侑。ヘラヘラと人の気も知らずに言う侑に腹ただしさが出てくる。誰のせいでこうなったと思ってんだよ!いくら知らないとはいえ、朝から変な事に巻き込まれた身にもなれよ!今日髪の毛いい感じだったのに!!
ムッとした表情で見ていると「そんな熱い視線送んなや〜」とアホみたいな事言いやがったので無視をした。騒ぐ侑を無視してヨレているところティッシュで軽く押さえ上から軽くファンデを塗る。あとはグロスを薄く塗り、借りてきたタオルで髪の毛を乾かしていると侑と目があった。

「なに?」
「お前、案外薄化粧なんやな」
「私はなるべくナチュラルにしたいの」
「ふーん」

それからは特になにも言わず、じぃっと見てくる侑に調子が狂う。なんなら横でボソボソ何か言ってるのも気になる。いつもなら何かしら絡んでくるのが絡んでこない。気持ち悪さはあるけどなにも絡まれない日なんて久々だしラッキー!って思いながら友子達とお菓子を食べながらゆっくり喋れた。その間チラチラと視線は感じるが絡まれる訳でもないので珍しく1日優雅に過ごせた。

珍しく平和に1日が終わり、下駄箱からローファーを取り出し友子と外に出ると朝の雨が嘘みたいに帰りには晴れていた。友子とどっか寄るか話していると名前を呼ばれ振り向くと侑が立っていた。制服ではなく練習着だろうか、体操服ではない服を着ていた。

「名前、やる」

そう言って差し出されたのはスポーツドリンク。なんでドリンク?と思いながらも、ずっと差し出されているドリンクを受け取る。どうしていいか分からず変な空気が流れる。気まずくなりその場を去ろうかとした時に侑がボソッと謝ってきた。

「悪かったな…今日名前が濡れとったん俺のせいやったんやな」
「え?なんで?」
「ちょっと風の噂で聞いた」

それ以上何も言わず何か考えている表情の侑に気まずくなり「じゃあね?」と声をかけた時、早口に「スマホ」と言われ侑の手を見るとスマホが出されていた。主語もなくいきなり言われても困るんですけど…。

「スマホ出せ!俺の入れとくから…何かあったら連絡入れろ。…今日みたいな事あったらすぐ言え」
「…いや、もう今日みたいな事は経験したくないんだけど…」
「うっさいのー!お前はいちいち!とりあえず今度からはすぐに言えよ!分かったか!?」

言われるままスマホを取り出すと手際良く私のスマホに侑の連絡先が登録されていて、こっちの返事を聞く前に何故か怒りながら去っていく侑に呆気にとられていると友子が隣でニヤニヤしていた。

「ミヤアツカッコいい〜」
「はあ!?私なんか理不尽に怒られた気がするんだけど!?」
「ミヤアツ、名前の事心配してくれてるんでしょ?良かったじゃん。連絡先ゲットできて」
「別に欲しかった訳じゃあ…」

画面に表示されている侑の連絡先。友子にはああ言ったものの、少し嬉しく思っている自分がいるのは内緒だったりする。




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