05 みやあちゅむくん


 
「いらっしゃいまー…はあ」
「客の顔見てため息つく奴がおるか」
「定員だって客選んでもいいでしょ。てか1人でカフェって何気取ってんの」
「ほっんま態度の悪い定員やの。あとでサム達来るわ」

あっそと返事をし案内しようとすると店長が、こちらにどうぞと外から目立つ場所に案内していた。その理由はすぐに分かった。宮侑が来てからあきらかに女の人のお客さんが増えた。客寄せパンダ宮侑のお陰でお店は繁盛していた。つくづく顔が良いんだなと実感した。まあ、黙っていればの話だけど。

「おい!注文!」
「…」
「おいブス!お前無視すんな!」

どこのおっさんだって言いたくなるような呼び方に無視をするが学校の外でも宮侑はしつこかった。近くに先輩いるのにそっちに注文聞いて貰えばいいのに。先輩達さっき裏で水出すのも言い合いになってたくらいだし。

「ご注文は?」
「メロンソーダ」
「…メロンソーダ?」
「文句でもあるんか!」
「そんな図体してメロンソーダ!?そんな可愛い物飲むの!?みやあちゅむくんはメロンソーダが好きなんですねぇ?」
「お前馬鹿にしてんのか!?メロンソーダの何が悪いんや!!うまいやんけ!あの体に悪そうな色してんのに!」

バイト先だという事を忘れて言い合ってあっていると、ええ加減やめときと私達の間に治くんが入っていた。治くんの後ろには角名くんや銀島くんが苦笑いで立っていた。なんならその後ろに店長が慌てた様子で立っていた。慌てて戻ると店長は少し安心した様子だった。

「すっ、すみません店長」
「名字ちゃんのお友達だと思ってたらいきなり喧嘩し出すからビックリしたよ」
「恥ずかしながら、いつもあんな感じと言いますか…。てか友達じゃないです!」
「え?そうなの?」
「ただのクラスメイトです!!」

店長に本当に?って凄く怪しまれどうしようかと思っていると注文を催促する声が聞こえて逃げるように向かう。タイミングが良かったのか最悪だったのか向かった先は宮侑達の席だった。てかこの人達来てからお店に女の子増えてない?

「とりあえず俺はココアとチーズケーキとモンブランとショートケーキで」
「げ、治それ全部1人で食べるんか?さっきもハンバーガー食うてたやんけ」
「おう、デザートは別腹やでな」
「いや、それ女の子が言うセリフでしょ?名字さん俺コーヒーお願い。」
「じゃー、ミルクティーと俺もモンブラン食おうかな」
「銀島くんチョイス可愛いね。みやあちゅむくんはメロンソーダおかわりで良かったかなあ?」
「分かってるんなら聞くなや!後そのキッショいニヤけ面やめろ!」

はいはいと適当に返事をして注文内容を伝え、他のお客さんの対応をしていると床にゴミが落ちているのに気がついた。それを拾おうと前屈みになり手を伸ばした時、後ろからイテェ!と急に大声が聞こえてビックリして振り返ると宮侑がお客さんの腕を捻り上げていた。

「ちょっと!お客さんに何してんのっ!」
「こんなクズ客ちゃうやろ!お前のスカートん中撮ろうとしてたんやぞ、こいつ」

そう言われてよく見ると宮侑に捻られている手にはカメラを起動したスマホを持っていた。別に短いスカートではない。なんなら膝の少し下くらいだ。だけど前屈みになると確かに撮ろうと思えば撮れるかも知れない。
その人も逃げようにも相手は180越え、しかも運動部で力も強いので抵抗も出来ないみたいだ。おまけに顔はめちゃくちゃ怒っている宮侑の迫力は本当にやばい。騒ぎに気付いた店長にその人は連れて行かれ警察の人に引き渡していた。あっという間の出来事で、呆気に取られているとバシッと頭を叩かれた。

「いった!普通女の人の頭叩く!?」
「お前もっと危機感持てや。世の中物好きもおんねんぞ」
「物好きってなによ」
「そーやぞツム。その物好きの付き合いで俺等ここに来たんやろ」
「ほんとめんどくさいよね侑って。名字さんとりあえず写真撮ってもいい?」
「お前等うっさいねん!あと角名はなに写真要求しとんのや!」
「名字さんの写真あったら侑脅せるかなって」
「こんな奴の写真で何が出来るつーんや!」

あのね、人のバイト先で騒ぐのはやめてくれ。
助けてくれたのは有難いがめんどくさくなって放置をしようと戻ろうとした時、銀島くんが1人でモンブランを美味しそうに食べててめちゃくちゃ癒される。その後何故か私のバイト先の人達と仲良くなる宮侑達は凄いと素で思った。宮侑なんて最初バイトのお姉さん達にチヤホヤされていたのに、最終的に“残念なイケメン”って言われてて少し笑った。化けの皮剥がれたんだろうな、多分。
あいつ微妙に猫かぶる癖にすぐバレすぎでしょ。学校の制服に着替え、お先に失礼しますと一言声をかける。お疲れ、気を付けてね等皆声をかけてくれる。

「名字ちゃーん、今日来てた残念イケメンくん面白いからまた連れてきてよ」
「…絶対嫌です」
「えー!あの子ええわあ、気に入った」
「あんな奴やめといた方がいいですよ?」
「別にそんな意味と違くて、あの子面白いわ。いじりがいがある!」

まあ、頼むねと言われ適当に返事をし外に出ると思わずゲッと言ってしまった。そこには大分前に帰った筈の宮侑がしゃがみ込んでいた。

「ゲッてなんやねん、お前」
「柄の悪いヤンキーかと思った」
「はあ?こんなイケメンのヤンキーおったら伝説になるやろ」
「意味分かんない事言わないでくれる?“残念なイケメン”さん?」
「あ!お前それちょっとカバーしろや!残念ってなんや残念て!」

バイト終わりまで何でこいつと言い合いをしないといけないのか。なんだかアホらしくなって宮侑を放置して帰る。

「あ。ちょっと待てや!…名前!!」

いきなり宮侑に名前を呼ばれてビックリして振り返ってしまった。だって今まで、ブスやおいとかばかりだったのがいきなり名前で呼ばれるなんて思いもしなかった。言った本人も少し耳が赤くなっているのに気が付いた。私が何も言い返さないのが余計恥ずかしくなってきたのか少し早歩きで歩き出す宮侑。ちょっと照れている宮侑が可愛く思えて小走りで追いつく。

「そういえば、今日はありがとう」
「え?ああ、貸し1つやな」
「うわ、図々しい!ジュースでいい?」
「そんなんじゃなくて…あれや、……お前も名前で呼んでええぞ…俺の事」

こちらを全く見ずに言う宮侑。てかこんな時も上から言うんだ。けど、嫌な気持ちはなかった。

「なに、その偉そうな感じ。仕方なく呼んであげるわよ、あちゅむくん?」
「お前、それほんまやめろ!なんやあちゅむって!何歳児や!」
「はいはい、時間も遅いんだから余り騒がないでよね…侑」

やばい。ちょっと照れくさい!
照れてるのをバレるのが嫌で早歩きになるが、侑の足だとすぐ追いつかれた。けど気が付いた。いつも勝手に付いてきたりする時、結局は歩幅を合わせてくれている事を。そして今も私のバイトが終わるのを待っててくれて多分、送ってくれているんだと思う。

「あー、俺コンビニでジャンプ買うでほんじゃの」

そう言って私の返事も聞かずに歩き出す侑。人通りの多い所まで送ってくれたのだろう。確か地元は一緒でも家は正反対のはずだ。朝早く練習もあって、ただでさえ大変なはずなのに。

「あいつの好きそうな物買ってあげようかな」

なんて、軽くなった足取りで帰路についた。作ってもらっていたご飯を温めながら食べていると母親に、何かいい事あった?なんて聞かれたから、んー別に?と答えたが母親にはお見通しだったみたいで、顔ニヤけてるわよと言われた。




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