04 その顔やめろ


 
ムカつく程の晴天。向かう先は学校。
別に宮侑に言われたから見に行く訳ではない。今は普通にバレーボールが好きだから見に行くだけで、宮侑なんてどうでもいい。
自分に言い聞かせながら体育館に向かうと凄い人数の女の子達がいた。どこぞのアイドルかって言いたくなるような団扇を持って体育館のちょっとした2階のスペースにギュウギュウになっていた。何となくこの子達と一緒のくくりにされるのが嫌で少し離れた所に移動する。ちょっと見にくいけど試合は静かに見たいから丁度いい。

相手の高校は兵庫の中でも強い所2つが稲荷崎に来ていた。流石の稲荷崎でも苦戦するかな?って思ったら、そんな事なかった。とりあえず1回目の試合を見ていたが、圧勝も圧勝。稲荷崎は続けてだったたが次の試合も勝っていた。

その後も何試合もしていたが、勝っていた方が多いと思う。ただ、宮侑は本調子じゃない気がする。何か落ち着きがないと言うか….。現に今も監督に何か言われているようだ。まあ他の選手達も笑ってはいるし、よくある事みたいだ。そろそろ帰ろうかなと思って居ると「あっ!!」と宮侑の大きな声が体育館に響いた。声がした方を見ると、思いっきりこっちを見ていた。
ヤバイ。宮侑に「ほんとに来た」と思われる!!思わずその場を去ろうとすると、指を指して何やら言っている。

“よぉ見とけ”

多分そんな感じだと思う。なかなかの距離あるからハッキリとは分からないが、あのちょっと調子乗った感じはそうだと思う。私の近くにいた子達が「今私達の方見た!?」とか可愛らしく騒いでいる。実際、私宛に言った言葉なのかは分からないが、そのまま試合を見る事にした。

さっきまでの試合とは宮侑の動きは違った。先程よりも集中している。サーブも精度が上がってる気がする。多分他の子達は分からないとは思うくらいだけど。…下手に今まで見てなかったなと昔の自分に苦笑いしながら練習試合もさっきので最後だったみたいで片付けを始めていた。

多分稲荷崎ファンの子達が出待ちするだろうし、その前に帰ろうかなと階段を降りていると他校の人達と目があってしまった。何となく気まずくて会釈だけしてその場を去ろうとしたら「ここの生徒さんやんな?これどこに返したらええか教えて?」と声をかけられた。

近くにバレー部の人居るじゃん。しかも何かニヤニヤしていて気持ち悪い。当たり障りのない態度で対応していると、何か距離が近い事に気が付いた。てか皆デカイから威圧感がすごい。早くその場を去ろうとするがなかなかこの場から離してくれなさそうだ。

どうしようかと悩んでいると「おい」と低い声が聞こえた。一瞬でその場の空気が冷たくなった気がする。振り返ると案の定宮侑がいて凄いこっちを見てくる。私の周りにいた人達も「宮侑だ」とか「迫力ヤベェ」とか言っている。ちなみに私もあの顔はヤバイと思う。

「何ボケっとしとんねん。行くぞ」
「え、ちょっ、痛い!」

首根っこを掴まれて猫みたいな状態で引っ張られる。いや、こっち制服だから!てか歩幅少しは合わせてくれても良くない!?

「ちょ!こける!!」
「あ?足短すぎるやろ」
「身長差考えてくれる??」

ギャーギャー騒ぎながら歩いていると他のバレー部の皆さんが集まっているのが見える。ふと他の部員より何だか威圧感がある人と目が合った。何か無意識に背筋が伸びる。

「侑、お前何しとんねん」
「あ、いや、別に何もしてないですよ??」
「そこのお嬢さん嫌がってるやろ、離したり」
「また名字さんツムに捕まったん?」
「…好きで捕まったんじゃないから…」

治くんと話していると、妙な視線を感じる。バレー部の皆さんが何故か凄い見てくる。何かしただろうか?と考えるも何も思い浮かばない。

「君が名字さん?」

隣のクラスの角名くんに声をかけられ返事をすると、さっきまで無表情だったのに少し表情が緩んだ。角名くんに聞かれてから他の部員さんも「あの名字さんか」とマジマジと見てくる。どの名字さんだよ!と若干困って居ると先程の威圧感がある人が助けてくれた。

「あんまジロジロと見るもんとちゃう。名字さん困ってるやろ。」

ごめんな、と言ってくれるこの人は多分主将さんだ。良く見るとユニフォームの1の下に線が入っている。この人が噂の北さん…!ちょっと感動した。この双子の喧嘩を止めれるのは、この人だけらしい。実物を見て思わず感動してしまった。
呑気に感動何かしていたが今気が付いた。稲荷崎ファンの子達の視線が痛い。そりゃそうだ。バレー部が集まるとなかなかの迫力で話しかけれる雰囲気ではない。だからこそ皆が遠くから見るというのが暗黙の了解的な雰囲気がある中、あろう事か宮侑と絡みバレー部の人達と話している私は目立ったんだろう。めちゃくちゃ怖い。

「あの子ってさあ、」
「ああ?ぶりっ子の名字さんでしょ?」

ワザと聞こえるように言っているんだろう。ヒソヒソと言っているが丸聞こえだ。何よりバレー部の人達も何も言わないのが怖い。てかなんなら治くんと角名くんはニヤニヤと笑っている。笑っているくらいなら助けろよ!と思ったが、助けられても面倒だ。試合も終わった事だし、さっさと帰ろう。行動に移そうと私が動く前に低い声が辺りに響いた。

「おい、言いたい事あんならハッキリ言えや」
「え、別に…」
「あ?別にって言う割にはヒソヒソと言うてたやんけ。鬱陶しいわ」

シーンと宮侑の言葉が響き半泣きになる女の子達。お通夜みたいな重い空気に耐えきれなくなった女の子達が小走りでどっか行ってしまった。可哀想に泣いている子もいた。多分助けてくれたんだろうけど、もう少し優しく言えないのだろうかと宮侑を見ていると、さっきよりも眉間のシワが深くなった。

「お前も何か言い返せや!」
「いや、言い返すと面倒な事になりそうだったし…」
「俺ん時はブッサイクな顔してギャーギャー言い返してくるやんけ!」
「そ、それはあんたが無視したら、それはそれで面倒くさいからでしょ!?1回無視したら返事するまで暴言吐いてきたの覚えてないの!?」
「いちいち覚えてへんわ!そんなの!!!」

最終的に逆切れしやがったこいつ…!
まあまあ、と私と宮侑の仲裁に角名くんが来てくれたお陰で醜い言い争いは短く済みそうだ。

「侑さ、もう少し女の子に優しくしたら?」

角名くんのこの言葉に、何故か私にドヤ顔をしながら「可愛い奴には優しいんや俺わ」と言いやがった。ここで反応しても宮侑が面白がるだけだからやっぱりここは無視だ。だけど今日の宮侑は止まらなかった。

「大体お前もっと目立つとこおれよ!俺やから見つけきれたよぉなもんやぞ!」
「何でわざわざ目立つとこ居ないといけないのよ!しかも宮侑の為に来た訳じゃないし?バレーが好きだから見に来ただけだし?」
「はあ!?性格までブスやな!お前!」
「ちょ、それ今ここで言う!?」

周りの目がどうのなんて言ってられない。結局いつもみたいに騒いでいると宮侑の表情が急に固くなった。その理由はすぐに分かった。北さんがこちらを見ている。しかも真顔。何か言ってくれた方がいいのに何も言わず、ただこっちを見ている。

「す、すみません!騒いだりしてっ…!」
「今日侑が朝から落ち着きがなかった理由は名字さんやったんか」
「はあ!?北さん何気持ち悪い事言うてるんスか!」
「その割には周りキョロキョロ見てたやろ?落ち着きもない、セットアップも何本かあかんやつあったやろ」
「いや…そんな事わ…」

北さんにアレコレ言われ何も言えない様子の宮侑。何かこんな宮侑を見るのは新鮮でちょっと笑ってしまう。するとどうやら私が笑っているのに気が付いたみたいで、またいつもの怖い顔に戻った。何か言って来そうな勢いだったがシレッと北さんの後ろに隠れるとなんとも言えない表情になっていた。





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