09 中学生じゃあるまいし


 
「ねぇ、今日帰りここ行かない?」

昼休み、誰かが集合をかけた訳でもないのにバレー部メンバーで昼飯を食べてる時俺等にスマホを見ながら言うスナ。画面を見ても対して乗り気にはならんかった。どこにでもありそうなカフェ。何が楽しくて滅多にないオフを野郎共とおらなあかんねん。

「俺パスや。先輩からデート誘われとる」
「先輩って最近現れるあの香水キツい先輩か。俺あの人苦手やわ。ベタベタ触ってくるし」
「まあ、やたらボディタッチしてくるし臭いけど胸はデカいでそこは我慢や!顔も結構見れる顔しとるし!」
「ふ〜ん。ここ名字さんがバイトしてる所だったんだけどね」

スナの言葉に何故か箸が止まる。
ふ、ふ〜ん?あいつバイトしてんのか。別にあいつがどこでバイトしてようが俺には関係あらへんし?俺は今日胸のデカい先輩と遊ぶんや!あわよくば1回やれたらええなって用意してきたしな!そうそう!だからあいつがどこでバイトしてようが関係あらへん!!!





「ほんまごめん!!!」

いつもならニコニコしながらベタベタ触ってくる先輩が明らかに不機嫌な顔で見てくる。化粧ヒビ入るんとちゃうかってくらい鬼の形相。そりゃ、デート直前でドタキャン食らったら俺でもキレる。

「急にバレー部の奴等と寄るとこできたもんで、ほんま悪いと思ってるんやけど今度にしてくれへん??」
「……それは侑は絶対行かないといけない訳?」
「あー…まあそうやな」

俺の言葉に納得はいっていないようだが、しつこく言うて俺に嫌われるのがイヤなのかそれ以上は何も言わず去っていく先輩に胸をなでおろす。
早速サム等と合流しようと校門に向かうが姿がない。SNSのグループを開き一言"どこや?"と連絡を入れるが既読にすらならん。変に校門で待ってて他の奴等に絡まれるのもめんどい。

どうしたもんかと考えていると携帯から短い音が鳴り画面を見てみるとスナからで、店のURLと共に"先に向かってて"の文字。別にええけどあいつ等どこにおんねん。
学校からそんなに離れていない距離にURLから飛んだサイトに乗っていた建元と同じ建元を見つけた。"まだかかるんか?"の問いかけの即レスでの"まだ。先に入ってて"とスナの返事。店前でウロウロすんのもやらしいし、店の扉を開けると癒そうな顔をするあいつ。

ほんま嫌な顔すんな、こいつ。
何か知らんけど店長に案内されながらメニューを見るが洒落たモンしかない。コーヒーなんてあんなモン飲みモンとちゃうやろ。なんとなく飲めそうなモンを探して見つけたのがメロンソーダ。なんとなく頼みたくない。けど何も頼まんのも悪いし、注文をしようとあいつを呼ぶが見向きもしやん。腹立って言い合っとると、いつの間にかサム等が来てて呆れられた。

「侑さ、喫茶店で静かにする事も出来ないの?」
「あいつが先に喧嘩売ってきたんや!!」

あいつが注文を聞き終え戻ると呆れて言うスナ。つかこいつ等俺放置でハンバーガー食いに行っとんなよ!
苛々しながら視線を何気なしにあいつに向けてしまった時にある事に気が付いた。周りをキョロキョロと確認している男。スマホをおろした先を目にした瞬間、体が動いた。何が起きたか分かっていないあいつに思わず手が出た。

「お前もっと危機感持てや。世の中物好きもおんねんぞ」

俺の言葉に被せるようにサム達が絡んでくるのがダルい。気が付くといつの間にかあいつの姿は無くて、他の定員達に囲まれていた。あいつのバイト仲間なら、しゃーなし仲良くしたる。しゃーなしな。




「侑は帰らへんの?」
「俺等は先に帰んぞ残念なイケメン」
「名字さんの写真ゲット出来なくて残念だったね、残念なイケメン」
「サムとスナうっさいわ!スナは残念2回言うな!!後、写真なんかいらん!!さっさと帰れやっ!!」

なんか知らんけど、あいつのバイト先で残念なイケメンにキャラ付けされとった。俺が残念な訳あるか。イケメン過ぎるくらいイケメンやろ。
腑に落ちやんくて足元にあった小さな石を蹴った先のドアが開いた。急いで座り込み何もかかったように振舞ってみると、ドアを開けた本人は俺を見るなり露骨に嫌な顔をしやがった。ゲッて何やねん。ゲッて。

顔を見るなり自然と言い合いになってしまうのは、こいつが生意気なのが悪い。俺がこいつに合したっとるだけや。そんな事を考えているとあいつが勝手に歩いて行くのが見えた。

「あ。ちょっと待てや!…名前!!」

思わず出たあいつの名前。名前も名前でビックリしたのか何も言ってこない。なんか恥ずなってきて名前の事を待っていた筈なのに勝手に足が動き出す。
いつもより大人しく俺の後をついてくる名前になんか変な感じでいるとポツリと今日のお礼を言われた。別に大した事ではないし、俺が腹立っただけやし。けどなんか俺だけ名前で呼ぶのはなんか負けた気がする。

「お前も名前で呼んでええぞ…俺の事」

なんとなく言ったつもりの言葉が何かハズイ。けどその感情は名前のいつものようなやり取りで無くなるはずやった。

「侑」

不意打ちで聞こえた自分の名前。別に異性から名前を呼ばれる事なんて慣れとる。慣れとる筈なのに名前に呼ばれただけでちょっと、はんまにちょとだけ喜んでる自分が居る。恥ずかったのか先に歩き出す名前の横に並ぶ。いつもみたいに言い合いなんてない。珍しく静かな空気に耐えれんくなった時、人通りの多い場所まで来た。名前の返事を聞く前に適当な理由を付けて別れた。名前の姿が見えなくなったのを確認し、盛大なため息と共に座り込む。別に大した事ない。名前を呼ばれただけ。
なのにアホみたいに喜んどる自分がおる。中学生じゃあるまいし。もう高2やぞ?年上、同学年、年下、モテモテのこの俺がたかが名前ごときで。

「俺名前の事好きやったんかあ…」

無意識に気付かんフリをしていたこの感情に気が付いてしまった。いつからなんてどうでもええ。これから俺が頑張ったらいいだけや。






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