昔の僕と今日の僕



「明日は練習、午前中なんだって!」


だからどこか遊びにに行こうよ、とロココに誘われたのが昨日のこと。
アレだ、ライオコット島に来て初めての…で、でーとって奴だ。
それで今日はデート当日で、待ち合わせの時間は一時半で現在は…一時半のちょっとまえ。
約束まであと10分もない。

…まずい、非常にまずい…!

せっかくのデートだから可愛くしていきたい。そう思って悩みに悩んで服を選んでたらこんな時間になってしまった。
…だ、だってロココに可愛いって思われたかったから…。
でもこれ以上時間を使う訳にはいかない…そう思って、候補にしていた服を適当に選んで宿舎を飛び出した。


広場にはいつも見慣れているユニフォーム姿ではなく、私服で立っているロココが。
…うわ、やっぱりロココは何を着ても似合う
決して惚れた弱み、とかでは無いと思う


「お、遅れてごめん…っ!」


私に背中を向けて立っていたロココは私の声に反応し、ゆっくりとこちらを振り向く。
そして私の姿を確認すると、きらきらと顔を輝かせながら私の所に駆け寄ってきて、「ナマエ!」と私の名前を呼んだ
全く、犬でも飼っている気分だ




昔からロココは私の酷く懐いていた。
村の子供達に虐められていたロココを助けたのがきっかけ。
助けた、と言ってもロココが数人に囲まれ「弱虫」、だの「いくじなし」だの罵られているのを見つけてロココをその輪の中から連れ出しただけなのだけれども…


確かにあの頃のロココは泣き虫で、弱虫で…他の子供達に泣かされたりする度に私の家に駆け込んで来てはぐすぐすと泣き続けるような子供だった。


けれども、コトアールにダイスケという日本人が来てからというもの、ロココは変わった。
いじめっ子に反抗するようになった。
泣かなくなった。

体格だってがっしりとしてきて、いつの間にか身長だって追い抜かれてしまっていた。

ダイスケ、という存在とサッカー。
その2つがロココをここまで大きく成長させたんだと思う。

元々素質があったというのもあり、ロココのサッカーの実力はぐんぐん伸びていった。
ついにはFFIの代表選手に選ばれたりもした

その事を聞かされた当初は、ロココの代表入りを祝う気持ちや驚きと共に、少し悲しくなったりもした
代表に選ばれたということは、コトアールを離れるということなのだから…

しかしロココはこう言ってくれた

「ボクにはナマエが必要だ…一緒に来て、くれるかな?」
「ボクは…ボクは、ナマエが好きだよ。だから、離れたくない。今度は、ボクがナマエを守りたいんだ」

ロココの言葉を聞いた途端にぶわっと涙が溢れてきて、ロココに抱きついた私
ロココはびっくりしていたけれど、しばらくすると私の事を抱きしめ返してくれた。
その時の私はロココが私を必要としてくれた事への安堵と想いが通じあった事に対する喜びで一杯だった


ロココがダイスケに私の事を紹介してくれた。だから私はここに居る
今ではむしろ私がロココに頼りっぱなしな気がする

「…ナマエ?」

ずいっと私の顔の目の前にロココの顔が表れた
あと少しでも近づいてしまえば触れてしまうだろう距離に私の心臓は大きく跳ね上がる。
ロココも恥ずかしかったのか「あ…ご、ごめんっ!」と言って勢いよく後ろへ下がった
あ、ちょっと残念かも
未だにばくばくと鳴っている心臓の鼓動を感じながらそっとロココの顔を見る
ほんのりと頬を赤らめたロココが取り繕ったかのように話しだす


「…じ、じゃあ…行こうか…?」

「う、うん!」

「ボクまだイタリアエリア行ったことないんだよね!楽しみだなあ…」


…よかった。
いつも通りの調子で話すロココに安心したのもつかの間

右手が暖かい物に包まれる。
…ロココの、手だ
私の指とロココの指が交互に重なり合っていく。所謂カップル繋ぎという奴だ
あわててロココを見上げると、ちょっぴり顔を赤く染めながらもいたずらっぽく私に微笑みかけるロココ
大きくて、がっしりとしているロココの手のひら


「それじゃ、行こっか」


…すっかり成長しちゃったのね



むかしのぼくときょうのぼく

(泣き虫な彼はもう居ません)



0401
弱虫だった男の子のお話





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