君が泣いた日



私の彼氏…フィディオはとっても意地悪です。
意地悪で、自分勝手で、横暴で…すぐ私に意地悪をしてきます。
あまりの意地悪にたまに私は彼がホントに私の事が好きなのか、疑ってしまいます。
でも私はそんな彼が大好きです。



ケーキ屋さんで私が苺のタルトとアップルパイどちらを食べようか悩んでいる時だって嫌みを言いながらも両方を買って半分こしてくれました。果物、あまり好きじゃないくせに。馬鹿な人です。

久しぶりの二人きりでのデート。
私はその前の日はどきどきして眠れなくて…起きたときには既に時計の針はお昼時を指していました。約束の時間は十時。大寝坊です。彼はきっともう居ないと思いながらも全速力で待ち合わせの場所に。待ち合わせの場所に彼は居ました。怒ってるはずなのに彼はたった一言「遅いよ」馬鹿な人です。


そんな彼、フィディオ

私には意地悪でひねまがった態度で接してくる癖に
サッカーにはとても純粋で真っ直ぐな愛を注いでいます。

私にサッカーをする時の彼は、まるで小さな子供のような…とても生き生きとした表情をしています。


フィディオが大好きなサッカー

デートの約束がサッカーのせいで潰れてしまっても私はちっとも悲しくありませんでした。
だって私はフィディオのプレーが大好きだから
フィールドに立つフィディオはきらきらと輝いて見えます。でもきっとそれは私だけでは無いと思います
イタリアの人達みんなが、フィディオのプレーに元気づけられている。
そう考えるとデートが潰れてしまっても悲しくはありませんでした。そう言うと彼は怒るでしょうけど


彼はいつも言っていました。

「俺は、俺の大好きなサッカーで世界一になる。必ずね」

見ていて、俺が頂点に立つその時を

そう言った彼がとても輝いて見えたのです。
そう、まるでフィールドに立ってプレーをしている時のように。





だけど

だけども彼は、世界一にはなれませんでした。
フットボールフロンティア世界大会
その大会の準決勝で、フィディオのチーム、オルフェウスはコトアール代表に完敗したのです。

そう、あのフィディオが

イタリア中の人が驚愕しました。
無理もないでしょう
相手は無名のサッカーチーム。
負けるはずが無いと思っていた相手に完敗を喫してしまったのですから。


試合の後、チームみんなが泣いていました

最後まで果敢にゴールの前に立ちふさがり続けたブラージ
相手からボールを奪おうと奮闘したアンジェロ
何度も何度も、相手のゴールにシュートを打ち続けたラファエレ

みんながみんな、泣いていました。
悔しかったのでしょう。悲しかったのでしょう。


しかし、1人だけ泣いていなかった人が居ます

フィディオです。
チームのみんなが泣いている中、彼だけが、フィディオだけが泣いていませんでした
泣いているみんなを見つめ「俺たちは最善の力を尽くした。それで負けたんだから仕方ないよ」と励まして。


一番悔しかったのは彼のはずなのに




「……フィディオ」


あの試合が終わってから数日
あれからもフィディオは一度も泣いていません。
ただいつも通り、私をからかってはいたずらに笑っています。
私には彼が我慢をしているように見えます。
多分気のせいでは無いハズです。

私を頼ってくれないんだ、と考えると少しさみしい気持ちになりました



「ナマエ。どうしたの?俺に構って欲しくなった?」



ほら、いつも通り
私には彼が無理して笑っているようにしか見えません。



「どうして?どうして泣かないの?」

「ナマエ?」

「負けて一番悔しいのはフィディオだよね。なのに、なんで」

「俺たちの力不足だったんだ。それに俺が泣いたらチームのみんなに示しがつかない」

「なんで我慢するの?なんで隠すの?誰がフィディオは泣いちゃダメって決めたのさ!」

「……っ」




私は泣いていました
誰よりもチームのために努力したフィディオ
強がりで意地悪で…だけど誰よりも優しくて仲間思いなフィディオ
そんな彼が抱えているだろう悲しみを感じてしまったからでしょうか


「ばっかじゃないの…一番悔しいのはフィディオのくせに!なんで我慢するの…フィディオは頑張ってたじゃん!今ぐらい泣いたって誰も…!」


ぎゅっ


涙声で話していた私に寄りかかるかのように抱きついて来たフィディオ。
支えきれなくて地面に倒れこんでしまいました。
びっくりしてフィディオの顔を見上げました。

…フィディオは、泣いていました



「…ナマエのくせに生意気な事言うんだね」

「わ、私のくせにって…」

「ごめん」




あの、フィディオが、謝っている

驚きのあまり言葉を発することができない私に向かってフィディオは話し掛けてきます


「俺、ナマエに言ったよね。必ず世界一になるって…なれなかった。俺たちは負けてしまったんだ」

謝らないで

「誓ったはずなのにね、頂点に立つって…情けないな」

情けなくないよ

「それでナマエに泣き付いて…ホント、情けないよ」



私を抱き締めながら涙を流すフィディオ。
私は言葉を掛けることをせず、ただただ彼を抱き締め返していました。
かける言葉が見つからなかったのです。
私は役立ずな自分に腹が立ちました。


「悔しいんでしょ?」

「…ああ」

「なら泣きなよ。私には隠したって分かるんだから。フィディオらしくないよ、今のフィディオ」

「…ははっ、なんだそれ」


フィディオはようやく本来の彼の笑顔を見せてくれました。



「じゃあ、我が儘聞いてくれる?」

「…仕方ないから聞いてあげるよ」

「もう少しだけ、このままで居させて」




そういって、彼は私の胸に顔を埋めました
そして、本当に小さな声で言いました。


「ありがとう」


…本当に、馬鹿な人です。





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少しくらい泣いたっていいじゃない

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