優しい約束を二人でしようよ
俺の彼女、名前は俺が知っているどんな女の子よりも可愛い俺の自慢の彼女だ。
優しいし、可愛い。
誰よりも俺の事を愛してくれているし、少し意地っ張りな所もあるけれどそこがまた可愛いというか…とにかく世界で一番愛らしくて世界一素敵な女の子。
オルフェウスのみんなに言ったら「お前おかしいぞ」とか「え、お前ら付き合ってたの?」とか言われたりするけどなんなんだろうね。皆がおかしいんだよ?俺は正常だしね。むしろ何がおかしいのか分からないよ。それに何?俺と名前は結構前から付き合ってるけど?俺と名前、凄いラブラブじゃないか!
「名前より可愛い女の子なんてざらに居るだろ」とか言う奴が居るけどなんだい?名前について口出しするのは百年早いんじゃないかな。名前より可愛い女の子なんてこの世に存在する訳が無いじゃないか。ああ、しょうもない連中だなあ
「よし、昼休憩!一時になったら練習再開!」
はい、午前の練習終わり
時計の針が十二時ぴったりを指した頃に告げると、みんな疲れきった顔をしながらぞろぞろとフィールドを出ていく。
ああ、午前中はほとんど休憩を取らなかったからかな。ごめんね?
一時間ほどある昼休憩。
各自ご飯を食べたり自主練習をしたり…各々自由に時間を使っている。
俺はと言えば午前の練習の反省をして、それから名前と一緒に…あ、名前来た。
「フィディオ、ドリンクとタオルは?」
「ありがとう、タオル貰うね。ドリンクは…今はいいかな」
「わかった。はい、タオル」
ぐいぐい
ぶっきらぼうにタオルを押しつけてきているこの女の子が名前。オルフェウスのマネージャーをやってくれている俺の自慢の名前。
こうやってる今もほら、確かに適当にいかにも仕方ないからあげてますよーみたいな感じの表情や仕草だけどさ、毎日毎日練習の合間の休憩に入る度に真っ先に俺の所にくるんだよ?名前。
可愛いよねえ、どんなに近くに俺以外のチームメイトが居てもそれを無視して俺の所に来ちゃうんだからさ。なんであんなに可愛いんだろう。
…なんて事は名前本人には言わないけどね
自覚してるかどうかは知らないけれどそう言ったらきっと名前怒って口聞いてくれなくなっちゃうだろうから。
名前は照れ屋さんだからね。照れるといじけて、意地張って俺の事ガン無視したりしちゃうからさ。
まあそんなときはそんなときで、解決法はあるんだけどさ。無視される程悲しい事は無いから、出来ればそんな事態は避けたいからね。
だから俺は出来る限り名前の事は怒らせないように努力している。
名前をからかったりいじったりするのは大好きだけどもからかい過ぎるといじけちゃうから、その辺は程度が大事だって思ってる。やり過ぎは注意、ってね。
「ふう…名前、いつもありがとね。すごい助かっているよ」
「別に。マネージャーの仕事をしただけだから」
またまた、意地張っちゃって…
ホントは俺に感謝されてすっごい嬉しいんでしょ?
名前は隠しているつもりなのかもしれないけどさ…口、少し笑ってるよ?ああ可愛い
「じゃあ私、他のみんなにドリンク配ってくるから。」
「ああうん、じゃあ俺はあっちで待ってるね」
「わかった。じゃあね」
そう行って名前はワイワイ騒いでいるみんなの方に沢山のドリンクが入ったカゴを持って走っていった。本当にいつも頑張っているなあ。
俺はと言えば名前の仕事が終わるのを待つべく、木の下に座り込む。
午前中の練習が終わったら名前とお昼ご飯を食べる。それが俺の日課。
パスタだったりピッツァだったりドリアだったり…その日によって食べに行く物は変わるけど、名前とのお昼ご飯は俺にとって日常での最高の至福だ。
何か物を食べている時の名前は、とても幸せそうな顔をしている。
なんでも美味しそうに食べるから見ているこっちも幸せになれるんだ。
美味しい料理に可愛い名前、ああなんて素晴らしい組合わせなんだ!
「あっ、フィディオくーん!」
今日は名前を何処に連れて行ってあげようか
そんな事を考えていると俺の真上から女の子の声。この声は名前の声じゃないな。
じゃあ誰なんだろうとか思いつつ顔を上げるとそこには数人の女の子が。
「フィディオくーんっ、練習お疲れ様!」
「ありがとう」
笑いながら、だけどぶっきらぼうに返し思う、今の返し方、まるで名前みたいだなあって。
こんな時でも名前の事を考えている俺自身に苦笑した。ホントに俺、名前の事が好きだよね
「あのねフィディオくん、私たちフィディオくんにお弁当作ってきたの!」
またこれか
「ごめんね、俺これからご飯食べに行く約束してるからさ」
瞬時にあらかじめ用意しておいてあるお断りの言葉を返す。やれやれ、何回この言葉を言ってるんだろ
俺自身、自分が女の子にモテているという自信はある。
俺が近寄らなくとも自然に女の子は言い寄ってくるしね。正直言って邪魔で仕方ないけどさ。
名前に出会う前は女の子達に囲まれている状況を凄い幸せに感じていたっけ。今じゃありえないけど
だけど、今回の女の子達はなかなか引き下がってはくれないようだ。
「えー、だってフィディオこの前はまた今度ね、って言ってたじゃんー!」
うるさいうるさい。俺の事呼び捨てで呼んで良い女の子は名前だけなんだってば。うるさい。
「今日は先約があるから、諦めてくれないかな?」
「やだやだー、私たちはずっと前からフィディオと約束してたもん!」
俺がいつ君たちと約束したんだよ。
なに?俺君たちと絶対、必ず、ご飯を今日食べる、だなんて約束してたっけ?してないよねー。
駄々こねないでくれないかな、見ているこっちが不快な気分になるからさ。
「どうせまたあの名前っていう子でしょ?いいじゃん、たまには私たちと食べようよー。」
俺の腕に絡み付いてくる腕、顔。やめてくれ触らないでくれ。俺に触っていいのは名前だけなんだから。まああんまり触ってくれないけれども。ホント、べたべた触らないで欲しいんだけどな。
というか、どうせってなに?彼女なんだからいいだろ?当然だろ?一緒にご飯食べてなにが悪いんだ?
内心怒り狂っている俺だけど、イタリア男児として女の子には優しくしなければならない。
そう思って優しく、だけどはっきり突き放そうと口を開いた時だった。
「…アンタたち、何やってんの」
仕事を無事全て終えたのか、名前がやって来た
俺の腕に絡んでいる子たちを一瞥すると、真っ直ぐに俺の事を見つめながらこちらに歩み寄ってくる。
なんだろう、なにするつもりなんだろう
俺の方に歩いてきたと思ったら勢いよく俺の腕を引っ掴んで、べりっと勢いよく女の子達から引き剥がした。
きゃーきゃー言いながらバランスを崩してよろける女の子達。彼女達には申し訳ないけれど内心ざまあみろ、とか思ってしまう。
「何してんのアンタ」
「ごめんごめん」
でも助かったよ、ありがとう
そう言うと別に、フィディオのためじゃないってば。とか返す名前。やっぱり意地っ張りだね?
「お腹減った。ほらさっさと行くよ」
「はいはい。…じゃ、そういう事だから」
やれやれ…
名前が来てくれなかったら、とか考えたら若干悪寒が走った。ナイスタイミング名前。あのタイミングで来てくれてありがとう。いやホントに。
「で、今日何処に食べに行く?」
「別にどこでもいい」
あれ、名前もしかしてご機嫌斜め?
いつもに増して返事が冷たい気がする。いや気のせいじゃないな。
名前、なんか怒ってる…?
「名前、俺何かしたっけ?」
「うるさい、何でもないから」
ぴしゃりと言い放たれ、思わず肩をすくめる。
なんとなく名前が怒っている理由が分かった気がしたから弁解してみる。
「仕方ないだろ?あの子たちが勝手に来たんだからさあ」
「怒ってないってば。しつこいよ」
「名前が嫉妬したくなるのは分かるけどさ?」
「はあ!?」
あからさまな反応を見せる名前。あれ、冗談のつもりだったんだけどな?
顔を真っ赤にして否定し続ける名前。ごめん、否定されている気がしない
「私以外の子に触られて欲しくない、って?」
「…っ!」
「あは、かーわい」
「…う、うるさい!」
そう言ったきりぷいっとそっぽを向いてしまう名前。ああ更に機嫌を損ねてしまったか。
いくら名前を呼んでも知らんぷり。あー、完全に拗ねちゃったか。
「機嫌直してよー」
「ご飯奢ってあげるからさ?」
「いいじゃん嫉妬、俺は嬉しいのに」
いくらご機嫌取りをしようと言葉を掛けても知らんぷり。こうなると名前は厄介なんだよなあ。まあそんな所も好きだけどね
こうなったら、最終手段かな
顔を合わせたくないのか俺の少し先を歩く名前の肩を掴んで無理矢理振り向かせる。
そのまま肩に乗せた手ともう片方の手で名前を引き寄せてきつく抱きしめ顔をずいっと近付ける。
いきなりの展開にまったくついていけていないのか大きく目を見開く名前にそのまま触れるだけのキスをした。
唇を離すと唖然とした表情の名前の顔が見えた
「ごめんね、もう他の女の子に抱きつかれるなんて事はしないから。約束」
そういってから抱き締めていた腕から解放し、名前にそっと小指を差し出してみる
「……絶対だからね」
抱き締めてキスして、ゆびきりげんまんで仲直り
いつも意地っ張りでぶっきらぼうで、そのくせすぐ拗ねる名前
そんな名前が俺は大好きだけどね!
―――――――
『
戯言』さまに提出
なんていうか、
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