「ねえ、ナマエ」

「…どうしたの?」

「なんでも、秋にはハロウィンっていう行事があるらしいね」

「…そうだね。それで?」

「だから…trick and treat」

「は?」

「え?だから、トリック…」

「それは分かった。」




家の扉を叩く音が聞こえたから何かと思って扉を開けてみた。
するとそこには、実におかしな格好をしたNが立っていた。
ヒトモシをかたどった大きな帽子。紺色のマントがNのいつもの服を隠している。
いや、私もNが何をしたいのかは分かってる。ただ…


「…あのね、N」

「うん?」

「さて、今日は何日でしょうか?」

「10月30日、だね」

「その通り。…私が何を言いたいか、分かる?」




ハロウィンが10月31日だと言う事を宣告した時のNの顔と言ったら…忘れられない。
口を半開きにして…まさにポカーンって感じの表情をしてた。


必死になって笑いを噛み殺し、Nの反応を伺っていた私。
…まさか、Nがあんな事を言うとは思わなかった。



「ふうん?じゃあ…trick and treat」

「あのさ、人の話聞いてました?」

「trick and treat」

「トリックもトリートもありません!」

「えー。」

「えー、じゃないっ!」

「…ナマエはケチだね」

「はあ!?」



突っ込みに疲れる。
絶対N分かってて言ってるよね。全く…どうしてそんなハロウィンに執着するんだか…
というか、Nと話すときは私毎回ツッコミ役な気がする。
…他でもないNのせいで。Nがボケ倒ししてくるから私がツッコミをしざるを得ないんだ。
毎回毎回困り果てる私を見て意地悪く笑うN。そんなNに何回面倒事に巻き込まれた事か…
ま、私はそんなNが嫌いじゃなかったりするんだけどね


ちらっとNの様子を伺ってみる。
…ありゃあ、いじけてるよNくん。
Nは靴を脱ぎながら、お菓子くらい良いじゃない…とか言っていた。おい、勝手に家に入るな


とりあえず機嫌治しはしてあげないと。
機嫌治しておかないと後で後悔する羽目になる。この間はベッドの中にダンゴロを仕込むというかなーり陰湿な虐めを受けた。
帰ってきてベッドにダイブしたら腹部に衝撃…あれは忘れられない。というか大事なトモダチをなんて事に使ってるんだあいつは

Nにそこに座ってて、と言い残しキッチンへ向かう。
確か買い置きしておいたお菓子が冷蔵庫に…



冷蔵庫に……無い。
あれ?チョコは?あれわざわざR9まで行って買ってきた奴なんですけど。スッゴい楽しみにしてたんですけど…?
まさかと思いこっそり、Nの方を見る。…うん、ちゃんと大人しくしている。
来たばっかりだし、ありえないかと思いNから視線をずらした時ちらりと見えた白い物
ん…?チョコの、包み紙、?
包み紙は何枚か落ちていて、それは私の部屋に続いていた。

包み紙を拾い上げながら、私の部屋を覗き込むとそこには…
私のベッドに偉そうに座って、チョコをほおばる私の手持ちのエルフーン。
私の視線に気付いたのかエルフーンはこちらを見上げ…にやり、と笑った


「私のチョコ返せえええええ!」










「まあ…ご察しの通りな訳ですが…」


数分後、私は何故かNに頭を下げていた。
なんでだ。意味が分からない。
いや、確かにね?さんざん待たせておいてお菓子ありませんよーっていう結果はあんまりだと思う。
だけどさあ、一応善意でやってたんだよね。え、なんですか強制だっけこの行事?え?


「ボク、お菓子楽しみにしてたんだけどなあ?」

「いや、それはエルフーンが悪くて!」

「トモダチのせいにするのかい?…可哀そうに」



Nは慈悲深げにエルフーンを抱えて、見つめている。なんか私悪者じゃね?
エルフーンもエルフーンだ。なあに被害者ぶってるんだ!むしろ加害者でしょーが!

そんな思いを頭の中で爆発させていた私。


「仕方ないなあ」

「えっ」


Nがいかにもしょうがないなあ、というような顔つきでこちらを見てくるのでぎょっとしてしまった。
だってあのNが!Nが怒りもせず不届きな事をした私を許すなんてそんな…!
Nの気持ちが顔に表れていたように私にもそんな感情が顔に表れていたらしく失礼な事考えてるでしょ、とジト目で見られてしまった。


「まったく…仕方ないからイタズラだけで許してあげるよ」

「まじか!いやあ、さすがN………え?」

……え?

「お菓子とイタズラ、の所をイタズラだけで許してあげるだなんてボクってなんて優しいんだろう。ねえ?」

おい、エルフーンに同意を求めるな。そしてエルフーンも頷くな、おい、おいこら!

「実は今日のために色々とイタズラの道具を集めて来たんだ!」

「いや帰れ!今すぐ帰れー!」


マントの内側から次々と得体の知れない道具を出してくるNを見て悪寒が走る。ねえN、君絶対私以外に話せるような人居ないでしょ、絶対そうでしょ。
そんな事を考えている私なんて知ったこっちゃないとでも言うように道具を出してはつらつらと説明をしていくN。誰に説明してるんだろ。ホントによく分かんない奴。


まあたまにはこいつのワガママに付き合ってあげてもいいかな。



「あ、このヒトモシは、帽子に見せ掛けて実は本物の…」

「ばかやろうううううう!」


また明日来るからね!





(1030)
フライングハロウィン






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