とある愛の終焉




結局のところ、釣り合わないだけ?
私じゃ君の支えにはなれない?

好きなのは、私だけ。私ばっかり好き好き言ってるだけでしょ?





とあるの終焉







精市くんが、冷たい。
付き合ってから毎日毎日電話とかメール、してたけど今じゃ精市くん専用の着信音は忘れられた旋律に
精市に誘われて毎日毎日一緒に食べてたお昼ご飯。今はテニス部と、だっけ?それは忘れられた時間に


忘れられた色彩、忘れられた香気、忘れられた約束




全部全部、時の流れと飽和して消えた。
「好きだよ」って、囁くようなその声は「ごめん、今はちょっと無理なんだ」私を軽く、冷たく突き放す
私が嫌いになった?愛想が尽きた?それとも、最初から遊びだったとか?



告白された時は吃驚した。そして考えた。なんで私が、とか釣り合わないとか…正直精市くんと話した事も無かった私は断るつもりだった。
けれど帰るときにチラリと見た。精市のテニスへ向き合う姿勢や時々見せる少年らしい一面に心を奪われた。
この人なら、精市くんなら本気で愛せるかもしれない。



「精市くん、大好きっ!」

「ふふっ、俺もだよ」



愛してるんだよね?
それとも、もしかして変わってしまった?
やっぱり私ばっかり好きなんだよね。
でもさ、精市くんは意地悪だよね。別れだけは告げてくれないんだもん。
だから私はこの精市くんへの愛情を心に秘めて行かなくちゃいけない。精市くんとずっと一緒だった私には友達は片手で数えるくらいしか居ないわけで、孤独の時間だけがどんどん増えていった。


そんな孤独な私は精市くんと過ごすハズだった昼休み、1人で屋上の給水搭の上でぼんやりと空を見上げる。それが日課になりつつある。
他の生徒は購買でご飯を買ったり、友達と合流してからだから私はまさに孤独の時間を過ごせる。
屋上はあまり人も食べにこないし、快適だ。人が来たならiPodでお気に入りのあの旋律を流せば良い。そしたらそこは私の世界だ。



愛したっていいじゃないか。
縛り誰も触れないよう
これも運命じゃないか
消える消える、とある愛世



あの旋律が脳内で蘇る。
私も消えていくのかな?別れもまた、運命なのかな?
私は束縛なんてできないよ。だから消えようか?




その時、がチャリと重たい音を出しながら屋上のドアが開いた。
珍しいな。人が来るなんて。
首にかけていた大きめのヘッドホンを頭につけながらこっそりドアのある方を覗き込む。


精市くんが居た。


テニス部の仲間を引きつれてやってきた精市くん。私には気付いていない。


「やはり屋上は誰も居ないようだな。」

「そうだね。ならここで食べようか。」



柳くんと精市くんの話し声が聞こえる。ここで食べるって…私帰れないじゃん
それに今ここで精市くんの声を…私に向けてじゃない精市くんの声を聞くなんて耐えられない。


「あ、ねえ。最近近くに植物園が出来たの知ってる?」

「ええ、先月の初旬辺りにできた物ですよね?」

「うん。…誰か一緒に行かないかい?一緒に行く人居なくて困ってたんだ。」




あはは、精市くんの嘘つき。
約束したよね?今度部活の休み取れたら2人で行こうって
忘れたの?それとも無かったことにしたの?

これ以上聞きたくなかった。話を、声を、聞けば聞く程心が傷だらけになっていく気がしたから。
世界と私を遮断する旋律。響いて響いて、精市くんの声なんて掻き消してしまえば良いよ。


殺したっていいじゃないか。君が嫌うアタシなんて



なんてフレーズがヘッドホンから届く。
そうだよ感情なんて消えてしまえばいい。好き、だなんて邪魔な感情。
この気持ちが無ければ私は自由だし苦痛からも逃れられる。
それに、泣かなくても良いでしょ?今みたいに、さ






あ、れ
なんだよコレ。なんで私泣いてんだよ。訳分からない。
大体なにが悲しいんだか。精市くんが私を見てくれないから?私が、独りだから?



「君が嫌うアタシなんて」



呟いた旋律。空に吸い込まれて消えた。私も消えれば良いよ。
寝転がり、身を丸めて目を閉じた。
涙が伝った頬に風が吹く。それはとても冷たい風。精市くんみたいだね。



それでも、好き、とか…



突然旋律がぱたりと止んだ。
何故?何故?目を開けて世界と繋がった。
目の前には信じられない光景が広がっていた。



精市くんだ。ヘッドホンを片手に、静かに私を見下ろしている。



「せいち、くん」

「やあ名前、久しぶりだね?」



驚きすぎて頭が回らない。
なんでテニス部の人がみんな居ないの?なんで精市くんは私の存在に気付いたの?



「ご飯はどうしたの?友達と食べたのかい?」

「さっき食べた。それに私は一緒に食べる友達なんて居ないよ?」



ホントの事だ。元々居た友達は私が精市くんと付き合ったという話を聞いたが途端、私から離れていったんだから。今居る友達もご飯を一緒に食べるくらい仲が良いとも言えないし。
精市くんの代わりにたくさんの物を失って、その上精市くんすら失おうとしてる私。このままじゃホントの独りぼっちだ。



「君の声と歌が聞こえた気がしたんだ。だから来た。」

「私の、声?」

「うん。『君が嫌うアタシなんて』…あの歌が聞こえたんだ。」


聞こえてたのか。確かに今も精市くんが持ってるヘッドホンからは微かにメロディが。
あの歌が聞こえたから、ここに来たの?


「あはは、精市くん凄いねー!結構小さな声だと思ったんだけどなー。」

「俺がいつ、名前が嫌いなんて言ったの?」

「…え?」

「さっきの歌の事。…俺、君が嫌いなんて言ったっけ?」



は、訳分からない。
だって私を避けてたじゃん。冷たくしてたじゃん。
なのに今度は、嫌いになってない…だって?


「嘘つき。私に愛想が尽きただけでしょ?飽きたんでしょ?だから私を、避けた。違う?」



私が考える間も無く勝手に言葉が口から発されていく。
それが本能からなのか、怒りからなのか私には分からない。
でも答えが欲しかった。曖昧で不確定な物じゃなくて、しっかりとした確証のある真実を。
例えそれが私を苦しめる事だとしても私は感情を殺して耐えてみせる。



「確かに俺は君に冷たく接していたよ。けど、嫌いだからじゃない。名前の為にやったんだ」

「何それ…っ!冷たくする事が私のためになんてなる訳無いでしょ!?」

「名前には、友達が居ないだろう?妬まれたりもしている…その状況から名前を救いたかった。俺が接触しなければ良い話だと思ったから。何度君を忘れようとしたか…」




何それ。何それ何それ何それ。
頭の中でその言葉だけが巡り、私を混乱させる。
私なんて嫌いでしょ?私からの愛が鬱陶しかったんでしょ?だから、なんでしょ?
もう本当に意味が分からない。
そんな時、ふいに頬に温かい何かを感じた。



「でも俺は結局君を悲しませてしまった…泣かせるつもりは無かった。」



ごめんね、
そう言って精市くんは私を包み込むように、優しく抱きしめてくれた。
その途端。枯れたと思っていた涙が再びたくさん溢れだす。



「ばかっ…精市くんのばか…!」

「…うん。」

「私は…!私は精市くんが居ない世界なんて、いらないんだから!」

「うん…俺だって名前の居ない世界なんて考えたくもないよ」

「それならっ!離れようとだなんてしないでよ、ばかあ!寂しかったんだから…!」

「もう離れないよ。ずっと傍にいる。だから…もう一度、君を愛させて欲しい」




今までの恋はおしまいだよ。消してしまおう?
これからは、また新しい気持ちで君を愛すから。





とあるの終焉
(だからたくさんたくさん、愛してよね?)(俺には、君しか居ないから)



―――――
GUMIのモザイクロールを若干イメージしました。この曲大好きです。

切なくもなければ甘くも無いお話。学校祭の準備で疲れはてた脳みそで考えだしたのが間違いでした



8/4 up




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