あやまらないで


(やっぱり、あれは夢じゃなかったんだ・・・)
トランクスにワイシャツというずいぶん中途半端な格好で隣に寝ている黒澤くんを見てため息がもれる。
(あー、もう、どうしよう!恥ずかしくて会社行けないよ・・・)
それでも休むわけにはいかない。
私はとりあえずシャワーを浴びて身支度をしようとベッドをそっと抜け出した。










中途採用された人が私のチームに配属された。
私にとっては年上なのに部下という少し複雑な関係だけれど、うちのチームの子達はみんな周りをよく見れる子ばかりだから、なんとかなると思う。
(でもみんなに頼ってばかりじゃなくて、私もちゃんと向き合わないとね)
そう決意していた私は、歓迎会の席でその彼の隣に座った。
───のだけれど。


(イタイ、視線が痛いよ黒澤くん)
少し遠くの席にいる黒澤くんがずっとこっちを見ている気がする。
(なんでー?お昼頃話したけどその時は変わった様子はなかったと思うんだけど・・・)
普段の飲み会でも近くに座る事はあまりない。
私たちが付き合っている事を知っている人は居るけれど、私はみんなが居る所で黒澤くんと個人的な話をするのは苦手だった。

「──戸田さん?」
黒澤くんの事を気にしていたらうっかり新人くんの話を聞き逃してしまった。
「あ・・・ごめんなさい、もう一度いいですか?」
「戸田さんは、休日は何してるのかなって」
「え、っと・・・特に何と言うことも・・・ゆっくり寝たり、掃除したり、ご飯まとめて作ったり・・・」
「料理得意なんですか!?」
「いやそんな、得意、って程ではないと・・・」
(気をつかわせちゃったかな。隣に座ったの、失敗だったかも)
彼とチームの親睦を深めるつもりが、さっきから彼は私に質問してばかり。
黒澤くんだけでなく、他の人の視線も集めている気がする。

「戸田さん、日本酒どうですか?この日本酒かなり珍しいんですよ。居酒屋にあるなんて驚きです」
「えっと、ごめんなさい日本酒は・・・」
(苦手、なんだよね。比喩じゃなく本気で目が回る・・・)
「これは特殊な製法で作られているやつでね、日本酒らしくないという人も居るけど、とても飲みやすいんですよ」
そう言った彼にお酒をついだお猪口を目の前に差し出されてしまう。
(どうしよう。ここは飲まないといけない所かな)

「駄目です!!」
その時、突然向かいに黒澤くんが現れた。
ぐいっと身を乗り出した黒澤くんは彼からお猪口を奪うと一気に飲み干した。
「ゆかさんはあんまりお酒強くないんです。日本酒飲むとぐるぐるしちゃうんです!」
黒澤くんは酔っているのか、いつもより声が大きい。
「ゆかさん酔わしてどうするつもりですか!」
「どうするも何も、僕はただ・・・」
「ちょっと、黒澤くん!!」
私は必死で声をかけたが黒澤くんは止まってくれなかった。

「お酒に酔った可愛いゆかさんを見ていいのは、俺だけなんです!!」
(うわぁ、言っちゃった・・・)
歓声が上がりうちのテーブルは一気に騒がしくなった。
中には黒澤よくやった!なんて言う人まで居て、私は恥ずかしさにどうしたらいいか分からなくなった。
もう消えてしまいたかったけれど、みんなにすすめられたお酒をどんどん飲み干していく黒澤くんを放ってはおけなくて、結局子泣き爺みたいに私にくっついて離れなくなった黒澤くんを引きずるようにして帰ったのだった。










「すみませんでした!!!」

部屋に戻ると中途半端な格好のままの黒澤くんがベッドの上で土下座していた。
「なにに、謝ってるの?」
「えっ、と・・・大人気なくヤキモチをやきまして」
「うん」
「まだチームに来て間もない人を悪者扱いして」
「うん」
「あ、でもゆかさん気をつけてくださいね?あの人ほんとに悪者も。だってゆかさんに・・・」
「黒澤くん」
「ハイ、ゴメンナサイ」
「・・・」
「それと、ゆかさんあんまりみんなの前で付き合ってるとこ見せたくないのに、あんな事まで・・・」
「・・・」
「ほんと、すみませんでした!!!」
黒澤くんはそれ以上は無理ってくらい深く頭を下げた。

「黒澤くん、もういいよ。それより早く支度しよ、遅刻するよ?」
黒澤くんは悪くない。
恥ずかしかったのは本当だけど、黒澤くんは、私を助けてくれた。
──問題は、恥ずかしいと言いながらあまり嫌だと思っていない私の方だ。
でも、まだそれを口にする程素直にはなれそうにない。
「ゆかさん大好き!」
ころっと態度を変えて抱きついてこようとした黒澤くんをするりとかわす。


「今日は会社で、極力話しかけないで」
「ど、努力します・・・」









*an afterword
過剰な愛を謝られたい。
 
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