3文字で50のお題


11〜
21〜
31〜
40〜
44〜


1.温度差

「あ〜!もう、こんなに手が冷えてる!」

「黒澤くん!まだ、会社から見える・・・」

「でも!このまま100Mも進んだらゆかさんの手が凍傷になっちゃう!」

「そんなワケないでしょう」

「さっきまで室内に居たのに。フロア寒かったですか?」

「ううん。帰る前にコーヒーメーカーの掃除したから・・・」

「またゆかさんはそうやって!俺に頼んでくれれば、」

「そう言ってまだ沢山あった洗剤を使い切ったのは誰だったかなぁ?」

「ぐ・・・いや、同じ過ちは繰り返しませんって!」

「別にいいの。気がついた人がやればいいんだから」

「・・・そう言いながらゆかさん帰る前に必ずやるクセに」

「残業して、ようやく帰れると思った時に掃除が残ってたら嫌でしょう?」

「敵わないなぁ、ホント」

「ん?何か言った?」

「ゆかさんの手が、温かくなってきて良かったなぁって」




2.口喧嘩

「ねぇゆかさん。俺いつも言ってますよね!?」

「うん?」

「何かあったらすぐ言って欲しいって」

「うん。・・・何かあったっけ?」

「あったっけじゃないですよ!どうしたんですかその手の怪我!」

「あ。これは、その・・・」

「ほう!れん!そう!」

「・・・」

「報告連絡相談が大切だっていつも言ってるのはゆかさんじゃないですか」

「いや、それは仕事の上でね、」

「俺には・・・俺には何も話す必要はないと・・・!?」

「・・・黒澤くんが言ったんじゃない」

「へ?俺??」

「手作りのプリン食べたいって。・・・私がお菓子作るの苦手な事知ってるクセに」

「まさか。」

「どうしても上手に作れるようになりたくて・・・。練習してるのを、本人に言えって言うの?」

「・・・負けました。完敗です」




3.致命傷

「黒澤ゴメン!これ、代わってくれない!?」

「勘弁して下さいよ田村さん・・・俺も手一杯ですって」

「だって今日は大事な合コンが・・・!」

「今日はじゃなくて今日もじゃないんですか?」

「何よアンタだって少し前まで行ってたクセに」

「それは情報を集める為であって、俺は元々ゆかさんにしか興味はありません!」

「じゃあ分かった!ゆかさん情報をあげる!」

「・・・要りませんよ俺はゆかさんの彼氏!なんですから」

「ゆかさんが黒澤の居ない所で黒澤の事、何て言ってたか・・・知りたくない?」

「ぐ・・・」

「どうする?黒澤」

「・・・前払いでお願いします」

「って簡単に釣られてたってゆかさんに言っちゃうよ?」

「脅しかよ!!」


※田村さんは同僚です。



4.不器用

「ごめん黒澤くん!待たせちゃったよね・・・」

「全然待ってませんよ!むしろ時間ぴったり!」

連絡もなく遅れてしまったのにいつも通り笑ってくれる黒澤くん。
うやむやにされる前に彼の手を捕まえると、思った通りすごく冷たかった。

「・・・うそつき。電話だってくれたクセに」

「ゆかさんズルいですよ!着信見たんなら、」

「うん、ごめんね。もう黒澤くんの姿見えてたから」

いつもの黒澤くんなら、私に信じさせる事だって出来ると思う。
だけど、こうやって隙を見せてくれる彼が愛おしい。

「黒澤くんの手をあっためる方が先かなって」

「・・・ゆかさん格好良過ぎ」




5.不安定

彼女はしっかりしているように見える。
――いや、実際、しっかりしているのかも知れない。
だがそれは強いことと同義ではないのだ。

「ゆかさーん」

「・・・なぁに」

「もう、平気ですよ」

「・・・」

「みんな帰っちゃいました。だからもう、泣いても、」

「泣かない!・・・よ、こんな、仕事がちょっとうまくいかなかったくらいで」

「ちょっとじゃないでしょ」

「・・・」

「ゆかさんが、この企画にどれだけ力入れてたか俺知ってるよ」

「・・・でも」

「理不尽なNGに対してゆかさんはきちんとした対応をした。そしてとっくに定時は過ぎてて、みんな退社した。・・・もう、いいと思いませんか?」

「黒澤くん・・・」

「はいは〜い。どうぞ透くんの胸においでませ!」




6.居留守

頑張って定時で仕事を終わらせて、病欠した黒澤くんの元へ向かう。
欲しいモノを聞こうと電話をすると、通話になっている筈なのに黒澤くんの声は聞こえてこない。

「もしもし、黒澤くん?」

「・・・」

「寝てるの??」

「・・・寝てマス」

「ちょっと!びっくりしたぁ」

「あの、寝てるという事にしておいてください」

「どうして?」

「・・・」

「黒澤くん。・・・怒るよ?」

「そ、それは困ります!」

「じゃあちゃんと話して」

「欲しいモノなんて!ゆかさんの笑顔に決まってます!」

「・・・え?」

「だけど、風邪うつしちゃうかも知れないし、そもそも風邪をひいた原因が飲み会のあと大野さんと真冬の公園で悪ふざけしてたからなんて情けなくて・・・会わせる顔がないというか・・・」

「・・・私、も、黒澤くんの顔見たいんだけど。だめ?」

「今すぐお迎えに上がります!」

「何言ってるの安静にしてて!」




7.深呼吸

チャイムの音に気づいて、コンロの火を止めて玄関へ向かう。

「ただいまです〜」

「おかえり、黒澤くん。交渉うまくいった?」

「もっちろんですよ〜俺が行ったんだから当たり前ですって!」

「そうだね。お疲れさま」

「ちょ、そこは・・・調子に乗るなとか言ってもらわないと・・・」

「あ。ひどいな。私が普段怒ってばっかりいるみたいじゃない」

「え!いや、そんなつもりじゃ・・・ってゆかさん、からかってます?」

「ふふ、バレちゃった」

「ゆかさん〜〜〜」

「でもホントに思ってるよ。黒澤くんは交渉上手で頼りになるって」

「ちょ・・・勘弁してくださいお邪魔したばっかりなのに変な気分になっちゃう!」

黒澤くんの反応が楽しくなってしまってじっと彼を見上げていると、黒澤くんは頭を抱えてうなりだしてしまった。

(ちょっとやりすぎちゃったかな・・・)

「ハグ!!」

「・・・え?」

「ハグだけにするんでお願いします!」

「・・・ハイ、ドウゾ」

「あー・・・今日ってもしかして肉じゃがですか?なんか優しい匂いがする・・・」




8.運動前

「おかしい・・・どうしてこうなるんだ・・・俺、晴れ男の筈なのに・・・」

「まーだぶつぶつ言ってんの黒澤?いいじゃんたまにはビリヤードでも」

「大野さんって雨男ですか?」

「俺のせいかよ!」

「こんな天候じゃ、BBQ中止はしょうがないです。でも、なんでビリヤードなんですか!!」

「そりゃあの新人さんが、いいとこ知ってるって言うから」

「もう下心しか感じません!あの人まだゆかさんのこと狙ってるんだ・・・教えるフリして近づこうとしてるんだ・・・」

「お前が教えてやればいいじゃん」

「・・・俺、ビリヤード苦手なんです」

「ドンマイ!」

「ボーリングだったらよかったのに!」

「女子が爪折れるから嫌だってよ」

「・・・ダーツだったらよかったのに!」

「ここいらにないじゃんターツできる所」

「・・・・・・」

「諦めろ。そしてフラれろ!」


※大野さんも同僚です。



9.運動後

「・・・これは予想外の展開でした」

「ほら、黒澤くん次!6番狙って!」

「・・・」

「腰引けてるよ?もっと重心を前に!」

「ゆかさんがビリヤード得意だったなんて・・・」

「・・・ねぇ、聞いてる?」

「しかもスパルタ!」

「黒澤くんってば」

「これはこれでおいしい」

「なにぶつぶつ言ってるの?」

「ゆかさん、眼鏡かけてみてもらえませんか」

「なんで??」

「先生感がアップすると思うんですよ!」

「・・・もう教えてあげない!」



「・・・あれはお前がいけなかったと思うよ」

「大野さんに正論で諭されるなんて!」

「お前俺のこと何だと思ってんの」




10.保護者

「ゆかさん、コーヒーどうぞ」

「ありがとう」

「まだ熱いので気をつけてくださいね」

「うん」

そう言いながらも目線はPCに向けたまま手を伸ばすゆかさん。
俺はため息だか笑いだか分からないモノを小さく吐き出しながら、ゆかさんの手を握った。

「え!!・・・ちょ、黒澤くん」

「熱いから気をつけてって言いましたよね?火傷しても知りませんよ?」

「ご、ごめん・・・?」

「あ。知らないってのは嘘です。ゆかさんが火傷したら困ります」

「う、うん・・・」

「休憩しない悪いコにはコーヒーあげません」

「えー!?」

「早く保存しちゃってください」

「分かった!分かったから、手、離して・・・」




11.予想外

「ゆかさーん」

「・・・」

「無視はヤメて心が折れる!」

「なんでしょうか」

「敬語もヤメて心が痛い!」

「・・・」

「ほんとにどうしちゃったんですゆかさん」

「私が怒ったらいけないの」

「そんな事ないですよ!でもスミマセン、原因が分からなくて・・・」

「黒澤くんが・・・」

「ハイ」

「黒澤くんが、会いたいのは自分だけみたいな顔するから」

「・・・え?」

「自分が我慢すれば解決するみたいな顔するから・・・私だって、会いたいと思ってるのに」

「・・・」

「私がこんなこと言ったら・・・だめ?」

「どうしようゆかさん・・・心臓壊れそう」




12.無期限

「あぁっ・・・!」

「どうしたんですか??」

「これ・・・せっかくもらったのに忘れてた・・・」

「水族館のチケット??。あちゃー、今週までか。ゆかさん出張ありますもんね」

「・・・黒澤くん、良かったら誰かと、」

「嫌ですよ!男と水族館は嫌だし、それともゆかさん・・・俺が他の女の子と出かけてもいいって言うんですか!?」

「・・・それはいや、かも」

「よかったぁ。これは、大野さんにでもあげましょう」

「そうだね。でも久しぶりに行きたかったなぁ水族館」

「行きましょう行きましょう」

「?」

「別にもらったチケットがなくったっていいじゃないですか!」

「それもそうだね。あ、でも次の週は友達の結婚式・・・」

「焦らなくても平気ですよ。水族館は逃げませんから」

「・・・うん」




13.最上級

俺の彼女は、可愛い。

(外では強がってるから、淡白な人に見られる事もあるけどちゃんと見ればすぐ違うって分かるし、甘え下手だからなかなか頼ってくれないけどタイミングを見て声かければ話してくれるし、言葉がないと信じられないなんて言う程俺も子供じゃない)

「ゆかさんこれなーんだ!」

「その袋・・・新しく出来たパン屋さんの!!」

「ゆかさんの好きなめんたいこ系もありますよ〜」

「食べたい!待ってもうちょっとでキリがつくから」

「ダメです〜そんな事言ってもう14時ですよ?」

「う・・・」

「ホラ、腹が減っては戦は出来ぬ!ですよ!」

「・・・うん。ありがと」

(そう。この顔が見れれば十分)




14.命令形

「ゆかさん」

「なぁに?」

「洗い物は後にして、今すぐ俺の傍に座るように」

「・・・どうしたの?」

「早く!」

「はーい」

「ゆかさん・・・俺に、言わなくちゃいけないこと、ありませんか」

「え?言わなくちゃいけないこと・・・?」

「とぼけても無駄ですよ!いくら可愛く首をかしげたって!誤摩化されませんから!!」

「そうは言っても・・・ヒントちょうだい?」

「なぞなぞじゃないんですよこれは!!」

「だって何も思い当たらないよ」

「・・・今日のランチ・・・あれ誰ですか・・・」

「黒澤くんもあそこらへん行ってたの?大学の同級生だよ」

「ちなみに・・・どのようなご関係で・・・」

「友達、だけど・・・」

「ゆかさんは友達にあーんするんですか!」

「え!?いや、ちょっと、恥ずかしい事しちゃったかもだけど、女同士だし・・・」

「え!?」

「え??」


※ショートカットの似合う女性だったそうです。



15.無価値

「うそー?ごめん、電気屋さん寄っていいかな?」

「いいですけど・・・何買うんです?」

「SDカード〜。今までいっぱいにしたことなかったからあんまり容量大きくないの使ってて・・・」

「お任せ下さい!安い所知ってますよ!!」

「ありがとう。最近写真よく撮るから、大きいのにしないとと思ってたんだよね」

「あれ?前はそんなに撮ってなかったんですか??」

「うん・・・あんまり」

「何かきっかけでも??」

「ん〜・・・なんか、黒澤くんと居ると撮りたくなるみたい」

「へ??」

「なんだろう。同じ料理でも、特別に見えるっていうか。なんか、残しておきたくなるっていうか」

「・・・」

「黒澤くんに教えてもらって、ちょっとうまく撮れるようになったっていうのもあるかも。・・・黒澤くん??」

「ゆかさんと居ると俺寿命が縮まる気がします・・・」




16.君次第

「ん〜・・・」

「黒澤?何唸ってるの?」

「田村さん・・・。今日のランチ、二ヶ所提案されてるじゃないですか」

「どっちを食べるか決められないの?こっども〜」

「違います!どっちにしたらゆかさんと一緒に行けるか考えてるんです!」

「ちょ、真顔やめてくんない怖いから」

「俺は真剣なんです」

「なんでよ。お昼くらい別だっていいじゃない」

「よくないです今ゆかさん不足が深刻で・・・」

「いい加減別プロジェクトになったくらいで騒がないでよ。ランチじゃなくてディナーに誘えばいいでしょ」

「それが今お母さんが来ているらしくて・・・」

「なるほどね。まだご両親には会わせてもらえないわけだ」

「つ、付き合ってる人が居るということは話してくれてます!」

「ふ〜ん?」

「やめてください今俺防御力低いんですから!!」


「邪魔してごめんね。黒澤くん、お昼どっちにする??」

「ゆかさんの食べたい方が食べたいです!!」

「黒澤ほんと揺るぎないね」




17.熱視線

(うーん・・・)

今日はやたらと、黒澤くんの視線を感じる。

(朝声をかけた時は普通だったし、機嫌が悪そうにも見えないけど・・・)

でも、良さそうにも見えない。

(あ、給湯室かな・・・追いかけちゃえ!)


「黒澤くん?」

「あ、ゆかさん・・・あの、その服、すごく似合ってます!」

「ありがとう?」

「それで、あの、今日って・・・」

「うん。定時に上がれるといいね」

「じゃあその服、俺と出かける為に!?」

「・・・はっきり言われると恥ずかしいよ」

「よかった・・・!」

「黒澤くん、私が約束忘れてると思ったの?」

「そういうわけじゃないんですけど、綺麗なゆかさんを見たらなんだか不安に・・・」

「もう。ばかだなぁ」




18.屁理屈

「大丈夫ですか?気持ち悪いの落ち着きました??」

「・・・こんな時間にどうして来るの」

「ゆかさん、この鍵使っていつでも入ってきていいって言いました!」

「そういう意味じゃなくてね・・・」

「ああもう!横になっていて下さい!」

「ねぇ、黒澤くん明日プレゼンでしょ?」

「大丈夫です準備はバッチリですから!」

「でも・・・食べ合わせが悪かっただけならいいけど、ノロとかだったらうつっちゃうよ・・・」

「ノロだったら早く病院に行かないといけないし、具合の悪いゆかさんをひとりにしたくないんです」

「黒澤くん・・・」

「辛いと思いますが水分はとってくださいね」

「・・・あのね、」

「大丈夫です。そばに居ますよ」

「・・・うん」




19.所有者

「ゆかさん!会議室にペン忘れてましたよ?」

「あ・・・ほんとだありがとう!」

「いえいえ!」

「地味なやつなのに、よく私のだって分かったね?」

「分かりますよそりゃ」

「そうかなぁ?」

「ゆかさんだってこの前俺のハンカチ気付いてくれたじゃないですか」

「た、たしかに・・・」

「なんか、嬉しいですねこういうの」

「私は恥ずかしいよ・・・」

「毎日一緒に居られて嬉しいです」

「黒澤くん・・・お願いだから自分の席に戻って」

「離れたくありません!」

「3メートルくらいで何言ってるの!?」




20.要注意

「地図、持ちました?」

「うん」

「書類は・・・」

「最初に入れたよ」

「あとは・・・あ!お化粧道具とか!」

「書類と携帯とお財布さえあればあとはなんとかなるから!」

「そうなんですけど・・・」

「子供のお使いじゃないんだから・・・」

「子供じゃないから心配してるんです!向こうの社長さんに見初められたらどうしよう!」

「・・・社長さん60過ぎてるし結婚されてたと思うよ?」

「他にも社員はたくさん居ます!そして油断出来ないのがコンビニの店員・・・」

「え!?」

「うちの会社の一番近くのコンビニのバイト、ゆかさんの事狙ってます」

「それ絶対勘違いだよ。バイトのコって学生さんとかでしょう?」

「勘違いじゃないです!俺にお釣り渡す時手なんて添えてないんですから!」

「よく見てるねぇ」




21.可能性

「例えば、今電話がかかってきて、先方の都合が悪くなったとします」

「しません」

「な、何かトラブルが起きて新幹線が止まったとします」

「そんな事になったら大勢の人が困ります」

「大野さんが奇跡の復活を遂げて出社してきたとします」

「それが出来ないから私が行くことになったんでしょう?」

「・・・どうしても?」

「もう。たったの2日でしょ?」

「だってゆかさんの来ない飲み会なんて・・・」

「ごめんね。素敵なお店選んでくれたのに」

「いや、それはいいんです!」

「・・・今度デートで連れてってくれる?」

「ゆかさんそんな殺し文句どこで覚えてくるんですかーもう!」




22.限界値

「・・・なんで大野さんが居るんですか」

「えー、ゆかさんの代わり?」

「そこはゆかさんの席です」

「ゆかさん出張なんだからしょうがねーじゃん」

「誰のせいで出張になったと!よく顔出せましたね!!」

「ちょ、ただのチームの飲み会だろ?」

「た・だ・の?」

「そーだよ大体チームの飲み会の場所選びに私情挟むなよ。・・・うまいからいーけど」

「俺は!大野さんの笑顔を見る為にお店を探したわけじゃない!」

「ひでぇな」

「ゆかさん・・・」

「黒澤お前飲み過ぎ!誰がゆかさんに電話して〜」


※記念日的な何か特別な日だったようです。



23.地下室

「まさかこんなベタな展開・・・」

「あるんですねぇ。これをやっちゃう所が、大野さんらしいけど」

黒澤くんと資料室にふたりきり。
・・・大野くんが確認を怠ったまま施錠した為閉じ込められている。

「どうしよう」

「いくら大野さんでも、そのうち気付きますよー」

「それは、そうだろうけど・・・仕事が」

「ちょっとだけ、休憩って事で!」

「・・・黒澤くん余裕だね?」

「あ、もしかしてゆかさん暗い所苦手だったり・・・」

「しないけど」

「・・・デスヨネ」

「まさか、黒澤くん・・・」

「流石に閉じ込めてくれなんて頼みませんよ!?」

「そうだよね・・・ごめん」

「でも、ちょっとラッキーだなーとは思ってます」

「えっ」

「しばらく誰も来なければいいのになーって」




24.大爆発

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・黒澤、うるさい」

「何も言ってませんよ!?」

「そわそわしすぎ。存在がウザい」

「田村サン・・・いくらなんでもそれは暴言です」

「ゆかさんがちょっと部長と食事に行ったくらいで情けない男だな!」

「そう言われても・・・色々考えちゃいますよ」

「転属の話だったらどうしようとか?」

「うわ!現実になりそうだからやめてください!」

「ふーん。少し離れたくらいでダメになっちゃうんだ?」

「そんなわけないじゃないですか!」

「じゃあ何も気にする事ないでしょ」

「・・・田村さん、もうちょっと分かりやすく励ましてくださいよ」

「贅沢だな!」


※実は二人を応援してる田村さん。



25.留守番

「ゆかさん!」

「ごめんね戻るの遅くなって。急ぎの電話でもあった?」

「いえ、それは大丈夫です」

「・・・どうしたの?」

「あの・・・何、食べてきたんですか!?」

「え?うなぎ奢ってもらっちゃった・・・って秘密ね!大野くんにバレたら大変!」

「うなぎ!いいですね〜」

「いいお店だったから、今度一緒に行こうね」

「はい!ぜひ!!」

「・・・ねぇ、ほんとにどうしたの?」

「あの・・・あの、部長の話って・・・」

「あのね、先月の業績褒めてもらっちゃった!」

「・・・よかったぁ」

「ね、認めてもらえるとやっぱり嬉しいよね」

「はい!嬉しいです!」




26.紋白蝶

「おかえりなさい、ゆかさん!」

「・・・数時間で一体何があったの?」

出先から戻ってきた私を迎えてくれたのはいつも以上ににこにこした黒澤くんと、
徹夜でもしたかのように疲弊したみんなだった。

「“言っとらん”から電話がありまして」

「え、うそ、大丈夫だった・・・?」

「ちょうどそこに石神部長が通りかかりまして」

「え!?」

「無理矢理電話を渡したら、流石の石神部長も“言っとらん”に堪忍袋の尾が切れたようで、こんな風に言われるくらいならやってやればいいじゃないかと、言われまして・・・明後日納品だったのを総出で今片付けた所です!」

「それ、は・・・(“言っとらん”にじゃなくて電話を押し付けられた事に怒ったんじゃないの・・・)」

「そんなわけで今日は早上がりにしませんか!ゆかさんも今日はもう仕事残ってないでしょう?」

「みんな頑張ったんだね・・・。どうして黒澤くんだけ元気なの?」

「いやぁ“言っとらん”にはいつか目に物を見せてやろうと思っていたので!」

「・・・こうなると思って石神部長に電話を渡したの?」

「いや、まさか、そんな・・・」


※“言っとらん”はクレーマー気質の取引相手です。そして紋白蝶どこいった・・・。



27.無責任

(今日のは本当にぎりぎりになっちゃったけど間に合ってよかった・・・みんなの連携もスムーズになってきたし、いい感じだな)

「・・・黒澤くん!?帰ってなかったの?」

先に上がってとみんなに言って届けに出たのに、会社に戻ると黒澤くんが待っていてくれた。

「ちゃんと休まないと、疲れとれないよ?」

「とれないから待ってたんですよー」

「どういうこと?」

「今回俺、すごく頑張ったと思いません?」

「うん。黒澤くんが機転をきかせてくれたおかげで助かったよ」

「だからちょっと、褒めてもらおうかと」

「・・・ふふ」

催促するみたいに目の前に出された頭をゆっくり撫でるたび、自分の疲れが溶け出していく気がした。




28.無人島

「ヒマだなー」

「仕事して下さい大野さん・・・」

「黒澤お前生意気だな!?ゆかさん居るからっていい子ぶりやがって!」

「誤解を生むような発言やめてください!」

「無人島・・・無人島に1つ持っていけるとしたら何を持っていく!?」

「そんな究極の暇つぶしみたいな質問・・・」

「何を、持っていく?」

「えー!?うーん・・・ゆかさんの写真ですかね」

「へぇ。ゆかさん連れてくとか言うかと思った」

「一緒に居たいのは山々ですが・・・ゆかさんに不自由な思いはさせられません!」

「・・・」

「それに、ゆかさんの顔見れば、なんだって出来ると思うので!」

「黒澤ー、仕事しろよ」

「だから誤解を生むような発言やめてもらえます!?」




29.招待状

「ゆかさん、これ受け取って下さい!」

「・・・なぁに??」

「招待状です。約束の時間に、中に書いてある場所に来て下さいね」

「うん」

「では、名残惜しいですがまた後で!」

「うん・・・」


最初は本当に分からなかったのだけど、目的地に向かいながら私はようやく思い出した。

(今日って、記念日だ・・・)

忙しかったからと言って、それは理由にはならない。
でも彼は気にするなと言って笑ってくれるのだろう。

(だったら・・・その優しさに甘えて、楽しんだ方がいいよね)

私は黒澤くんの好きなお菓子を一つ買って、そっと鞄に忍ばせた。




30.予言者

(そんな顔すると思ってた)

いつもの様にデートの約束をして。しかしいつもとは違う演出をして。
最初は不思議そうな顔をしていた彼女は、今は嬉しそうに、でも少し申し訳なさそうな顔をしている。

(本当に、気にしなくていいのに)

記念日を覚えているのも、それらしい演出をするのも。
全部自分がしたいからだ。押し付けに近いとすら思う。

(それでも気にしちゃう所も、こうやって俺が何かするたび嬉しそうにしてくれる所も、好き)

怒っていたって泣いていたって好きだ。(辛い思いはして欲しくないけど)
ゆかさんの為ならなんだって出来ると思う。

そんな気持ちにさせてくれた彼女に、気持ちを伝えたいだけ。

「それじゃあ行きましょうか!」

いつもより近い距離でも、今日はきっと怒られない。




31.破壊力

「たくさん食べましたね〜」

「ほんと。おなかいっぱい」

「満足していただけましたか!?」

「もちろんだよ。ありがとう黒澤くん」

「もう!その言葉があれば何もいらない!」

「・・・ほんとうに?」

「え?」

「何もいらない?」

「えっと・・・?」

いたずらっ子のような目をしながら軽く首をかしげるゆかさんはいつもより少し幼く見える。
それなのにどこか、色っぽく見えて──。

(これは・・・もしや私をプレゼントとかいう・・・いやまさか、ゆかさんに限ってそんな・・・)

「お礼にはささやかすぎるけど、黒澤くんの好きなお菓子、買ったんだけど・・・」

「デスヨネ!!!」




32.周波数

(・・・あ、ゆかさん疲れてる)

本人より早くそれに気付いた日は、我が儘を言うに限る。

「・・・それ、明日じゃなくて明後日までですよね?」

「そうだけど?」

「じゃあそれは明日にして、今日はもう帰りましょうよ!」

「黒澤くん自分の仕事終わったなら上がって平気だよ?」

「ゆかさん、俺、今もの凄くカレーが食べたいんです」

「・・・」

「もうカレーの事しか考えられません」

「・・・」

「カレー屋さんに行きませんか」

「・・・もう!頭の中カレーでいっぱいになっちゃったじゃない!」




33.不愉快

(普段気にしないようにしてるけど・・・)

誰よりも彼女を好きな自信はあるし、誰よりも彼女を理解している自信もある。

(・・・けど、ズルいよな、大人の男って)

いくら背伸びをしても、年の差は埋まらない。
認めたくないのに、お似合いだな、だなんて思ってしまう。

(まーでも!負ける気はこれっぽっちもないんですけどね!!)

彼女の為ならシークレートブーツばりに背伸びもするし、年下の武器だって使う。

「ゆかさんゆかさん」

「どうしたの?黒澤くん」

振り向いた時の少しゆるんだその顔は、俺だけのもの。




34.三角形

「いーよナァ黒澤クンはサァ?」

「うわ、大野さんめっちゃめんどくさい」

「可愛い可愛い年上の彼女が居てサァ?」

「年下が好きなんじゃなかったんですか」

「仕事終わったらお疲れさまとか言ってくれるんだろォ?」

「それ彼女じゃなくても言ってくれますよ」

「おい、返事が適当過ぎる!」

「仕事してくださいよぉ・・・」

「じゃあ今日飲みに行くか?」

「・・・・・・」

「知ってんだよゆかさんとデートだろ!俺も混ぜろ!」

「嫌ですよ」

「少しは遠慮しろ!」

「勘弁してください。言われる事の方が多いお疲れさまを、言える貴重な日なんですから」

「ヤバイちょっときゅんときた」




35.朝御飯

──幸せな夢を見ていた。

ハッと目を覚ますと隣にぬくもりはなかった。

(え、うそ。寝坊した!?)

「ゆかさん、朝ご飯できてるよ」

「透くん、ごめん、寝過ぎちゃった・・・」

「・・・え!?」

「え??」

「透・・・くん・・・?」

「え、うそ、ごめん寝ぼけた!あのね、夢でね、」

「なに慌ててるんですか」

「いや、あの、だって・・・」

「呼んで、くれないんですか?」

「ち、遅刻!早く支度しないと!!」




36.晩御飯

「黒澤、くん」

「なんで小声なんです??」

「あのね、シチューでよかったら・・・今日、食べにくる??」

「ぜひ!!!」

「しー!!!」

「えーいいじゃないですか。自慢して回りたいくらいなのに」

「・・・」

「・・・ジト目も素敵ですゆかさん!」

「・・・」

「わー!うそです!しませんからシチュー抜きは勘弁して下さい!」

「あのね、デザートにプリン、あるよ」

「・・・やっぱり自慢してきていいですか」




37.綺麗事

結婚がゴールだとは思っていないけれど、やはり憧れはある。

(プロポーズの日はベタだけど、少しいいものを食べて、ホテルのスイートを予約したりして・・・ゆかさん喜んでくれるかな?それともこんなに豪華にしなくていいのにとか言うかな?)

男の俺の方が結婚に夢みてるなんておかしいだろうか。
自信があるだなんて言ってみてもやはりいつもどこか不安で。

(まだ・・・隣に立ててないって事だよなぁ・・・)

口だけじゃなくて、ちゃんと彼女を支えられるようになりたい。
プロポーズはそれからだ。

(自信を持って、渡してみせる)




38.選択肢

「ゆかさん、どうして黒澤にしたんです?」

「ど、どうしたの急に」

「だってゆかさんなら、他にも引く手数多だったのに」

「そんな事ないよ」

「ありますよー。まぁ、ほとんど黒澤が潰してましたけど」

「・・・え!?」

「あれ?これ言っちゃマズかったですかね??」

「や、分かんないけど・・・でも、いいよ。私は黒澤くんと、その・・・付きあえて、よかったって思ってるから」

「えー!?やっぱりもったいなーい!黒澤のどこがいいんです」

「・・・ひみつ」

「ここまで言ったんですから教えて下さいよ〜」

「だめ。私だけが知ってればいいの!」

「・・・ゆかさん、私と付き合いません??」




39.薔薇色

(ゆかさんが、恥ずかしがり屋のゆかさんが、人に向かって俺と付き合えてよかったなんて言うなんて!し、しかも!俺のいい所は自分だけが知っていればいいだなんて!それって独占欲とかそういうあれですか!?黒澤透は貴女だけのモノですよ!あーそれにしてもひみつって、ひみつって!しかもあの仕草!可愛すぎか!可愛すぎだ!!!)

「黒澤、漏れてる、心の声漏れてる!!」

「は!!・・・どのくらい漏れてました??」

「いや知らないけど。ゆかさんが逃げちゃうくらいには漏れてたよ」

「アー・・・」

「ちょっとその締まりのな顔どうにかしてよ」

「すみません、俺、今世界一幸せなので!」

「・・・ホント、コレのどこがいいのか、私にはサッパリだわ」




40.問題外

「定番の魔女はもちろん絶対に可愛いこと間違いなしですが!ここは!やっぱり!男の夢としては猫耳をですね・・・」

「・・・」

「わお。久々の完全なる無視ありがとうございます!」

「・・・」

「いやいや今回ばかりは俺も諦めませんよ?ハロウィンが浸透してきた日本万歳ですよ!」

「・・・」

「分かりました!百歩譲って尻尾付きショートパンツは諦めますから!せめて猫耳とミニスカート・・・」

「そもそも私、参加するなんて言ってないよね!?」

「参加しないとも言ってません!」

「言った!絶対に言った!!」




41.寝不足

「・・・私ね、黒澤くんの事すごいって思ってるけど、その集中力を別の場所で発揮したら何かを成せるじゃないかって思うんだよね・・・」

「ゆかさん何ぶつぶつ言ってるの?早く着てみて!!」

「ねぇ、そんなに私に変な格好させたいの??」

「違いますよ!いや、うー・・・もちろん見たいっていうのもあるけど、ゆかさんとちょっと羽目外してはしゃぎたいなって」

「その為に寝ないで工作までしちゃうの?・・・メイクもしてないのにばっちりゾンビ顔だよ黒澤くん」

「ゾンビ顔とかひどいなー」

「だって本当に・・・大丈夫?」

「もちろん!絶好調ですよ!」

「なんか私、怒ったらいいのかお礼言ったらいいのか分からなくなってきちゃった」

「どっちもいらないから、笑ってゆかさん!」




42.努力家

「俺、ゆかさんのその素直な所、向上心のある所、すごく好きだけど今回ばっかりは聞き流して欲しかった・・・」

「だって!子供みたいって言われたんだよ!?いい年なのに!」

「でもほら、外人さんから見たら東洋人はみんな幼く見えるって言うじゃないですか」

「でも、田村さんはナンパされてた」

「だからって会社主催のパーティーでそんな素敵な格好しなくても!」

「・・・黒澤くん、いつもはこういう格好したら喜んでくれるのに」

「そりゃ喜びますよ素敵ですもん!でもいつもは張り付いて自分が恋人だって主張出来るけど今日はそういうわけにいかないじゃないですかぁ」

「・・・そんなこと思ってくれてたの?」

「ついでに言うと、今俺は外人さんの気を引く為にそんな格好をしているなんてと嫉妬の鬼と化しています」

「そんなつもりじゃなかったんだけど・・・ごめんね?」

「うん、許す!」




43.反射光

「・・・ゆかさんがまぶしすぎてつらい」

「お前さ・・・どんどんオープンになってくな」

「素直って言って下さいよう」

「少しは自重しろよ」

「どれだけかかったと思ってるんですか」

(今の距離が、許されるまで)

「あー・・・お前、最初全然相手にされてなかったもんな」

(自分でも分かっていた。でもどうしても諦められなかった。俺は、卑怯だって分かっていても、ゆかさんの弱い部分を見ないフリは出来なかった)

「どうやってゆかさん落としたわけ??」

(俺は全然優しくなんてない。・・・でも、嘘はつかないと約束するから)

「素直に気持ちを伝えただけですよ」

「・・・嘘くせーなぁ」

(好きです。ゆかさん)




44.新記録

「黒澤くん・・・ちょっと離れてくれるかなぁ?」

「無理です〜」

「いやあのお風呂とかね?入りたいんだけど・・・荷物も整理したいし」

「このままどうぞ」

「ええ!!?」

「だって出張とはいえこんなに長く離れてたの初めてで・・・もーゆかさん結婚して下さい」

「え?」

「・・・え!?俺今なんて!?待って待って忘れて下さいいや本心ですけど言うならちゃんと素敵なシチュエーションでですね!?」

「・・・ふふ」

「どうして笑うんですかぁ」

「私の告白して来てくれた頃の黒澤くんとは大違いだなって」

「ぐ・・・」

「今の方が、もっと、好きだよ」

「ゆかさん・・・!」




45.必殺技

「ゆかさんの行動を制限したいわけではありません。・・・ですが、こう、明らかに隠し事をされるのはちょっとこたえます・・・」

(うーん・・・うまく隠せなかった私が悪いんだけど、もうすぐ自分が誕生日だって、思いつかないのかなぁ?サプライズよくしてくれるのに。・・・そう、だから、黒澤くんには申し訳ないけど今回は私も成功させたいの!)

「あのね、黒澤くん」

「なんでしょうか」

「・・・今日の晩ご飯どうする??」

「ゆかさん・・・話そらすの下手過ぎやしませんか」

「だっておなかすいちゃったんだもん」

「・・・」

「・・・」

「・・・だー!分かりました今日だけですからね!?次はないですからね!!?」

(誤摩化されてくれてありがとう。誕生日、楽しみにしててね)
 
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