「気をつけて行って来るんだよ」
私の頭をなでる、優しい手。
(あーぁ・・・今日も失敗した・・・)



桂木さんは大人だ。
子供は子供らしく若さとか無邪気さで勝負すればいいのかも知れない。
(でも・・・くやしいんだもん!)
別に合コンに行く訳じゃない。
ただのサークルの飲み会だ。
(だけど・・・男の子だって居るのに・・・)
行ってもいいか聞いてみると、返ってきたのは「もちろん行っておいで」。
桂木さんの言う‘気をつけて’は男の子にじゃない。
迷子にならないようにとか、食べ過ぎないようにとか・・・たぶん、そんなトコロ。
桂木さんは優しいし、私をとても大切にしてくれている。
でも・・・。
私は子供だから、欲張りなのだ。
なんでも許すんじゃなくて少しは妬いて欲しいし、強引に独占して欲しい。
うっとうしいくらいの愛を感じていないと、不安なのだ。




低いテンションで参加した飲み会だったけれど、思ったより楽しくて、今度は帰るのが面倒くさくなってしまった。
(いつもは終電で帰るようにしてるけど・・・今日はいっか!)
「アキ、ほんとにオールするの?だいぶ酔ってるみたいだし、帰った方がいいんじゃない?」
「大丈夫大丈夫!!」
「桂木さんに言ったの??」
「言ってないけど・・・大丈夫だよ!!」
みどりは心配そうな顔をしていたけれど、私は大丈夫と言い続けた。
(だって、桂木さんはなんでも許してくれるし)




帰る人はみな帰って、お店を変えて落ち着いた午前1時頃。
私は耳鳴りのように聞こえ続けていたバイブ音が自分の携帯から発生している事に気づいた。
(あれ・・・桂木さんだ)
いつもなら少し緊張したりするのだけど、酔っぱらっている私に怖いモノはなかった。
私は自分が拗ねていた事さえ忘れて電話に出た。
「もしもーし・・・」
「アキ!?今どこなんだ」
のんびり電話に出ると、なんだか慌てたような桂木さん。
「桂木さん?どうしたんですか?」
「どうしたじゃないよ。アキが居ないから・・・」
どうやら、桂木さんは私の家に居るらしい。
私の事を気にかけてくれて嬉しい気持ちと、声がするのに目の前に桂木さんが居ないという悲しい気持ちと、もっと困ればいいと思う我儘な気持ちがわいてきて。
お酒の入った頭はそれをうまく処理できなかった。

「今日は、帰りません!!」
私はそれだけ言うと電話を切ろうとした。
「ちょっと待って、アキ。俺はそんな事聞いてないぞ」
(どうしてそんな事言うの)
「だって行っておいでって言ったじゃないですか」
「オールしていいなんて言ってないよ」
(私が男の子と居ても心配しないんじゃないの)
「やです。朝まで遊びます!!」
「今日は駄目だ。アキ、君酔ってるだろう?」
(本当は今すぐ会いたいのに)
「酔ってません!!」
私は自分をコントロールできていない事にやっと気づいて、一方的に電話を切った。
(桂木さんの本心が、見えないよ・・・)
私は膝をかかえて自分の殻にこもった。
さっきまで美味しかったお酒も、楽しかった男の子との会話も、どうでもよくなってしまった。
(だから私は子供なんだ・・・会いたいよ、桂木さん・・・)



意識がぼんやりしてきた頃、私を呼ぶ優しい声が聞こえた。
嬉しいのに情けなくて、会いたかったのに悔しくて、私は顔が上げられなかった。
すると幸せそうなため息が聞こえて、私は宙に浮いた。
「邪魔して悪かったね」
桂木さんは私を優しく抱き上げると、周りの人にそう言って、お店を出てしまった。


「アキ・・・起きてるんだろう?」
私はどうすればいいか分からなくて、寝たフリがバレないように桂木さんの胸に顔を埋めた。
「ごめんな。折角楽しく飲んでたのに・・・」
だけどそう言った桂木さんの声が弱々しく聞こえて、思わず顔を上げてしまった。
「どうして・・・」
久しぶりに発した声はかすれてしまったけれど、桂木さんが、ん?と優しく促してくれたので私は言葉を続けた。
「どうして、飲み会はよくてオールはダメなんですか?」
行ってこいと言ったり、帰ってこいと言ったり・・・桂木さんは勝手だと思った。
「それは・・・」
桂木さんはためらったけれど、私がにらむように見ると、しぶしぶ口を開いた。
「わざわざ飲み会に行っていいか聞いたのは、妬いて欲しかったからだろう?」
「え・・・」
驚いた。さりげなく聞いたつもりだったのにバレていたなんて。
「アキの顔に、書いてあったからね。だから実際に危ない事はないんだろうと思って安心してた」
(そんなぁ・・・そこまでバレてたなんて・・・)
「じゃあ・・・どうしてオールはダメなんですか?」
重ねて聞くと、桂木さんはまた一瞬ためらった後、口を開いた。
「・・・オールに関しては、楽しいから残ろうと思ったんだろう?酔っぱらっていたし、何が起こってもおかしくない」

それは、男の子も居るから心配なんですか・・・?
そう聞きたかったけれど、桂木さんが普段見せない幼い顔で拗ねているから、私は
不機嫌な顔を続けられなくなってしまった。
「アキは俺が妬く事がないと思っているようだけど、アキが気付いていない所で十二分に妬いてるし、君は本当に危なっかしくて目が離せない」
いつも人に囲まれているし頼まれたら断れないし無鉄砲だしそもそも・・・・・・
桂木さんはたがが外れたように、私を喜ばせる言葉を紡ぎ続ける。
私は、緩んだ顔を見られないように、再び桂木さんの胸に顔を埋めた。





束縛してください。
(みどりが連絡したのか、私に発信器でもついているのか・・・怖いから、どうして私の居場所が分かったのかは聞かないでおこう)









*an afterword
桂木さん・・・わりと好きなのですが、身近にそのくらいの年の男性が居ないせいか、なかなか浮かびませんでした・・・。
とりあえず5人書こうと思ったのですが、書いてみると・・・どうやら私は酔っぱらって子供扱いされたいらしい、という事が分かりました(笑)
実際の私はすぐ気持ち悪くなるので、こんな事にはならないんですが・・・だからですかね。
バリエーション豊かに妄想したいものです。

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