「・・・あ」
今まで一切音のなかったその部屋に、私の間抜けな声は妙に響いて。私の存在を無視するかのように一心不乱にキーボードを叩いていた英司さんはようやくこちらを向いた。


(もう、こんな時間)
いつもより早く稽古が終わり屋敷に帰った私を、部屋に荷物を置く時間も与えずに離れへ連れてきた英司さんは、そのくせ私をベッドに座らせると自分は机に向かって中断していたらしい作業を再開させた。
どうしたんだろうとは思ったもののじっくりと彼の背中を眺められる機会なんてあまりないので、ほとんど動かない背中を、それでも飽きもせず見つめていたら思った以上に時間が過ぎていた。

「どうした?」
「そろそろ、夕飯の支度をしなくちゃと思って」
どうしたと聞きたいのは私のほうだけれど、私はひとまず間抜けな声を出してしまった理由を説明した。
「今日はアキの当番だったか?」
「そうですよ。英司さんが昴さんの味を見習えって言うから、昴さんと一緒にしてもらったんです」
「・・・班長なら一人でも大丈夫だろう」
「いや、だから、教えてもらうんですって」
「でも俺はまだやる事が終わっていない」

(・・・もう)
本当にどうしたんだろうと思いながら英司さんに近づき頬に手を伸ばそうとした。
しかし頬に触れる前に引き寄せられ英司さんの胸に不格好に飛び込んでしまった。
(結局・・・どういう事??)
やらなければいけない仕事があるらしい。でも私に行って欲しくはないらしい。
(これは・・・甘えてる、って事で・・・いいのかな?)
都合良く解釈したらくすぐったさに少し笑ってしまって。それに気づいたのか腕の力が少し強くなった。





不機嫌な唇
あと10分で終わる筈だったのに予定が狂ったと不貞腐れたように言いながら唇を寄せてくる英司さんに
もうすっかりこの部屋から出て行きたくなくなってしまった私は、予定が狂ったのはこっちの方だと言ってやりたかった









*an afterword
似たような話を書いてしまってすみません・・・でもこんな清墨さんが好き!私の中の清墨さんが固まってきたようです。
追加キャラだけどすっかり馴染みましたよね(´ー`)今後も期待しています!

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